「ADHDなど存在しない!」「うつも勘違いだ!」患者も逃げ出す″ヤバい精神科医″の実態
治療のため病院に訪れた精神病患者たちを恐怖や不安にさせる医師も、一部にはいるようだ
精神疾患の総患者数は全国で614.8万人に上る(2020年時点・厚生労働省資料より)。実に国民の20人にひとりがメンタルを病んでおり、今やうつやその他の精神疾患はめずらしい病気ではない。一方で、患者の中には"まともな先生"に巡り合うまでいくつもの病院を渡り歩いたという人も少なくない。
アヤメさん(33歳仮名・OL)、太郎さん(45歳仮名・メーカー勤務のSE)もそんな経験を持っている。そこで今回は、初診から10年以上を経過したベテラン患者 ふたりと、自身の通院歴も長い筆者とで、これまでに出会った危ない医師について語ってみた。多くの医師は真面目に医療と向き合っているが、一部にはヤバい医師もいるのだ。
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アヤメ 初めて精神科を受診した時に、寝つきをよくする薬を2種類処方されたんですが、その片方を飲み忘れたんですね。再診時、それを先生に伝えると、それまでは笑顔で優しかった先生がすごい形相で声を上げて怒りだしちゃって。あの時は本当に怖かったです。
アヤメさんは現在、勤務先で新人研修を任されているが、職場では「偏見が怖くて」メンタルの病については隠している。10年ほど前から不眠や過呼吸などの症状が現れ始め、精神科に通院するようになったという。
アヤメ 私は大声で怒鳴られると過呼吸になるので、その先生とは相性が合わないと思いすぐに転院しました。初診が10分くらいしかなくて、先生に過呼吸のことを伝える余裕がなかった私の責任かもしれないんですけどね。
太郎 いやいや、初診10分って。それはさすがに短いですよ。それじゃ説明しきれないでしょ。
太郎さんは会社でコンピュータソフトの開発を担当している。二十代の頃、やたらと脇の下に汗をかいたり息苦しくなることがあり精神科を訪れた。当初は「軽いうつ」と診断されたが、後に発達障害であることが判明。彼もまた「甘えていると思われたくなくて」、病気については精神疾患に理解のある一部の人にしか告げていない。
――精神科の場合、初診は30分以上で、再診からは5分くらいのところが多いですよね。
アヤメ その先生に「初診10分くらいでしたよね?」って訊(き)いたら、今度は「初診は40分だった!」ってさらに大声で怒り出しちゃって......
太郎 それって、医師である前に人としてどうなんだろうって感じちゃいますよね。
――患者の話を聞いていない先生っていますよね。僕が昔通っていた医院は比較的、診療時間を長くとっていたけれど、ある時こちらが話していると、先生が居眠りしてたんですよ。「まぁ......僕みたいな人間の相手をしてお疲れなんだな」って思って。あの時は、寂しい気持ちになりましたね。
アヤメ・太郎 (唖然)
太郎 僕もまぁ、昔は散々な目に遭いましたよ。睡眠障害と、胸と背中が張り付くような息苦しさがあって初めて精神科を受診した時のことです。初診で処方された眠剤を飲んだらよく眠れたんですが、翌日、足がふらついて駅の階段も登れなくなっちゃったんです。
怖くなって病院に電話したら事務の人が、「先生にはお繋ぎできませんから、我慢できないなら救急車呼んでください」って普通のトーンで言うんですよ!
――で、どうしたんですか?
太郎 その日はなんとか乗り切ったんですが、あとで知人の薬剤師に相談したんです。そしたら、その処方された薬が外科手術の全身麻酔の導入剤として使われる最強の眠剤だったんですよ!
その知人に「初めて睡眠導入剤を飲む人には、まずは弱い薬を処方して効かなければ徐々に強くしていくのが投薬の常識。その先生はかなりおかしいから、もう受診するのは止めたほうがいい」と言われすぐに転院しました。でもそのお医者さん、テレビにもよく出ている割と有名な先生だったんですよ。
アヤメ あーー。ありがちですね。マスコミとかネットの書き込みって全然、あてになりませんよね。
あと次々と強い薬を勧めてくる先生はヤバいんじゃないかと思います。当時、私はうつで近所のクリニックに通院して処方薬を飲んでいました。自分では症状は安定していると思っていたのですが、先生が「あなたは悪くなっている、○○という薬に変えた方がいい」って言うんですよ。
でも、その薬についてネットで調べると副作用が強いと書いてあるんです。だから「なぜ、悪くなっていると思うのか?」「その薬はどんな薬なのか?」と尋ねても、上から目線で薬を変えた方がいいと言うだけで、私の疑問についてはまったく説明してくれないんですよ。
太郎 副作用も含めた臨床データを解説した上で、患者が望めば処方を変えましょうというまともな医師もいるからね。その先生はヤバいと思う。
――これは以前、投資関係の仕事をしている友人から聞いたことなんだけど、彼の顧客の精神科医が飲みの席で「患者は薬漬けにすれば儲かる」と笑いながら話していたというんですよ。その話を聞いて僕は怖くなりましたよ。
アヤメ 私、世の中にはそんな先生がいたとしても不思議だとは思いません。
――それから僕の知っている女性のうつの患者さんで、先生から「警察を呼びますよ」と言われた人がいます。
アヤメ・太郎 どういうことですか?!
――通っていた病院の院長が突然、辞めて申し送りもされず担当医が変わったみたいなんです。新しい担当医は女医さんだったらしいんですけど、僕の知人はその人から「薬をすべて新薬に変えます」と言われたそうなんです。怪訝に思った知人が「前の先生からはうつ病と言われていたんですけど、記録を見ていますか」と尋ねたら、その女医さんは「以前の診断は間違っていた」と言い出したらしいんですよ。
知人は抗議しても聞き入れてもらえず、混乱して泣き出してしまったみたいなんです。そしたらその女医さんが「警察を呼びますよ」と言い出したようです。その場は、以前から知人をよく知っていた看護師さんが間に入ってなんとか収まったみたいなんですが......結局、知人は看護師さんの勧めで転院しました。
アヤメ その病院、何なんですかね?
――僕の知っている精神科医は「納得できる医師と出会えるまでドクター・ショッピング(病院を渡り歩くこと)しなさい」と言っていました。お医者さんにはいろんなタイプがいるから「患者は自分のためにも妥協しない方がいい」って。
太郎 僕はネットで『ADHD(注意欠如・多動症)』という言葉を知って、自分でも思い当たる節があったので、当時の先生に自分はそうじゃないか聞いたんです。
するとその先生は、「そんな病気はこの世には存在しない。うつだって多くは勘違いなんだ」と頭ごなしに言われちゃいました。仕方なく別の病院を受診して、ADHDの診断を受け、治療薬を出してもらいました。自分にはその薬の効果があったので、転院して正解でしたよ。
アヤメ (何度も頷きながら)それ、良くわかります。もし内科でインフルエンザと言われればインフルエンザに決まってるじゃないですか。でも精神科では、先生によって病名が変わっちゃうんですよね。
―― 公認心理師さんから聞いた話なんですけど、発達障害(ADHDやASD)は比較的新しい概念なので対応できる病院が少ないようなんです。ADHDの治療薬・コンサータなどは精神科ならどこでも処方できるわけではなく、処方権限のある指定医でなければ出せません。
アヤメ あと、どうしたら薬を止められるか、通院を止められるかきいたら、途端にあからさまに不機嫌な表情になる先生もいました! あれもなんとかして欲しいです。
太郎 週に一日、休みの日には薬を我慢する努力をしましょうとか、ちゃんと提案してくれる先生もいますけどねぇ。
――どうしたら治るか、他の科なら当たり前の質問ですよね。うつは治したいに決まってるのに、不機嫌になるってヤバいと思う。症状が不安定な時期であれば「様子を見ましょう」でも仕方ないけど、安定しているのなら出口戦略を提示してくれる先生が、本当に信頼できる精神科医だと思います。
アヤメ 今の先生はとてもまともな先生で、薬を減らすためにも、カウンセリングを活用するよう勧めてくださっていますが、幸い、信頼できるカウンセラーさんに出会うことができて助かっています。
――どうやってその先生と出会ったのですか。
アヤメ すでにその医院に通っていた友達の紹介ですね。信頼できる友達の紹介が一番当てになるってことですね。
太郎 僕が今かかっている先生も「ADHDの薬については自己判断で量を減らしていい」と言ってくれています。僕は精神疾患の場合、患者は医師に頼り切るのではなく、ネットで情報を得るとか、意識的に生活習慣を見直すとか、どうすれば(症状が)良くなるか、自分で考えなければいけないと思っています。診察室で先生と会話する時間はとても短いですからね。
ヤバい先生に遭遇しながらも、今では精神科との上手な付き合い方を理解したようにみえるアヤメさんと太郎さん。だがそんな彼らも、過去には医師が説明してくれない、ちゃんと話を聞いてくれない、診察時間が短すぎるという不満を抱いていた。
その根底には、いわゆる"5分間診療"がある。国が定める診療報酬の算定方法の影響でこの5分間診療が横行している。本来なら、精神科ほど患者との対話が大切な科はないはずだ。制度改革で診療時間を増やすことはできないのだろうか。
取材・文/桑原和久