阪急うめだ本店で開催中の「バレンタインチョコレート博覧会2024」では、焼きたてのチョコ菓子や、デザートやドリンクが充実。無料のセミナー会場も盛況(写真:筆者撮影)

大阪で、日本最大級のチョコレートイベントが盛り上がっている。阪急うめだ本店の「バレンタインチョコレート博覧会2024」には、国内外の約300ブランド、3000種類を超えるチョコレートが集結。

出店ブランド数とアイテム数は、東京、名古屋を抜いて、バレンタイン催事で日本一を誇る。「楽しさ世界No. 1」を本気で目指す社員が企画・運営する、日本を代表するチョコレートイベントだ。

百貨店丸ごとチョコで盛り上がっている

「毎日来よう、と思うほどめっちゃくちゃ楽しい!」と、女性たちの笑顔が輝いていた。エリアごとに音楽が変わる会場、マップ片手に売り場を回るクイズ、高い天井をいかしたアトラクションのようなディスプレイ。エンターテインメント性が高く、ワクワクするようなアイデアが満載だ。


大人も子どもも楽しめる仕掛けが随所にある(写真:筆者撮影)

売り場の広さも、バレンタイン催事で日本一となる。9階の全フロアをチョコが埋め尽くし、地下2階から12階までの全14フロア、阪急メンズ大阪にもチョコショップがある。つまり全館あげてチョコづくし、百貨店丸ごとチョコで盛り上がっている。

売り上げも日本最大級だ。2023年に26日間で29億円、2024年は30億円以上を目指す。1日1.1億円以上のチョコレートが売れることになる。同じく大規模なイベント、ジェイアール名古屋タカシマヤ「アムール・デュ・ショコラ」は、2023年度の売り上げが34億円以上(岡崎サテライト会場含む)で、ブランド数は約150で商品の種類数は約2500。阪急は、出店ブランド数が名古屋の2倍と上回り、売り場が広い。

出店ブランドにも愛されている。「阪急のバレンタインが日本一おもしろい」「チョコレートや出店ブランドへの深い愛情がある」「阪急には必ず出たい」と、忖度なしに語ってくれたブランドが数知れず。

バイヤーは16年のベテラン

同時に、担当バイヤーへの信頼を語る人がほとんどだった。どんな人なのか。イベントを統括するバイヤーに話を聞き、ここまで支持される理由をまとめてみる。

「売り上げをとるのが主な目的ならうちでなく、別の場に出店してくださった方がいいと思います」。きっぱり言い切るのは、バレンタインチョコレート博覧会のバイヤー歴16年、阪急阪神百貨店 フードマーケティング部の郄見さゆりさんだ。


写真中央が郄見さん。フード商品統括部 銘店・和菓子商品部の中野真奈さん(左)とスペシャリティコンテンツ開発推進部の富田桃子さん(右)は「カカオワールド」の売り場担当の社員(著者撮影)

ならば、何に重きをおくのか。「ブランドに、思いや伝えたいことがあるかどうかです。チョコレートブランドは、カカオや素材の生産者の思いを背負っている。その思いを伝える場を提供するのが、私たち百貨店の役割です。良い商品を別の理由だけで埋もれさせたくない。売り上げだけで決めるのはナンセンス、と私は思っています」。


厚さ1センチ、399ページに及ぶガイドブックはもはや1冊の本。ブランドや社員の思いが詰まっている(著者撮影)

郄見さんは、2008年にこのイベントのバイヤーになり、仕事を一通り覚えた頃から、今後のあり方を真剣に考えはじめた。

「初上陸、新作、とメディアが取り上げ、その年に売れても、翌年は別の新しいものに入れ替わる。着せ替え人形みたいに思えてきて。日本初上陸、関西初上陸、を毎年探すのが自分は本当に楽しいのかな、と」

チョコレートを理解するため、エクアドルやコロンビアなど、8カ国ものカカオ産地へ赴いた。自分がお客さまなら何が楽しいかをとことん考え、改善を重ねた。

会場を広くし、通路をできるだけ広くとるのは、「お客さまが、混みすぎだから帰る、と話すのを耳にしたから」だ。行列を自慢にせず「なるべくお待たせしないこと、行列ができたとしても、いかに心地よくお買い物していただけるかを、考えています」。

出店は、ブランドの自主性を重んじている。多くの催事は、注目ブランドに声をかけるなどしてイベントを作るが、阪急は異なる。バイヤーがブランドへ、企画の趣旨や思いを説明会などで先に説明し、それを受けたブランドが手を挙げ、参加したい企画をバイヤーに申し込むスタイルだ。

オリジナル企画が目玉

「今年はなに?」とファンが心待ちにする目玉は、オリジナル企画。ブランドの壁を超えてチョコが集まる売り場で、書店に例えれば、出版社ごとでなく「経済」「心理」といったジャンルごとに本が集めてあるイメージだ。「チョコのお菓子」「キャラメル×チョコ」「オレンジや柑橘×チョコ」などの売り場に、あらゆるブランドのチョコがずらりと揃う。

これらの企画は、高見さんをはじめ、社内から選ばれた10人の「バレンタインチョコレートプロジェクトメンバー」から生まれる。「楽しさ世界No. 1」を目指し、メンバーは真剣に議論。決まった企画には担当者がつき、商談から売り場作りまでの責任をもつ。


「かんきつジェット」(柑橘×チョコの売り場)担当の寺村霞さん(左)、「チョコレート ミーツ キャラメル」担当の佐藤有紀奈さん(中)と春日桃花さん(右)。社員が売り場を盛り上げる(写真:著者撮影)

2024年の新企画「チョコレート ミーツ キャラメル〜極めるキャラメル〜」を担当する、フード販売統括部の春日桃花さんは、キャラメルカラーのコスチュームでカタログにも登場する。「最初は恥ずかしさもありましたが、関わってくださったブランドの方々の思いを伝え、お客さまに楽しんでいただきたいですから」と、明るい笑顔だった。

チョコレート文化を作ってきた

有名ブランドにも小さな新ブランドにも、分け隔てなく光を当ててきた。「ここは私の”ホーム”です。阪急で私たちのブランドを好きになった、という人が一番多いんですよ」(カカオハンターズ代表の小方真弓さん)。

「日本で最高のチョコレートイベントです。僕たちが始めて間もない頃から情熱を持って扱っていただきました。今日も日帰りで駆けつけました。恩しかありません」(ミニマルビーントゥーバーチョコレート代表の山下貴嗣さん)

カカオに注目した売り場を、日本で先駆けた功績もある。「華やかなシェフやブランドに目が行きがちですが、カカオの生産者、素材の生産者の存在も、しっかり伝えたい」と、郄見さん。誰でも参加できる無料のセミナーでは、有名シェフもカカオ生産者もチョコを解説、思いを伝える。連日、大盛況だ。

「お客さま、ショコラティエ、ブランドのみなさんあってこそ。売り上げてブランドと百貨店だけがハッピーなだけでなく、お客さま、チョコレートとカカオに関わるみなさんも、誰もがハッピーになるイベントにします」と、郄見さんは話す。「うちの百貨店は、外観がココア色なんですよ。まさに阪急チョコ百貨店開店です」と笑うのは、広報担当の米田進悟さん。

16年イベントを率いるバイヤーの経験と、「楽しさ世界No. 1」を本気で目指す社員たちの熱意が、日本最大級のバレンタインイベントを生み出したのだろう。

(市川 歩美 : チョコレートジャーナリスト/ジャーナリスト)