今回セブン&アイがスノコLPから譲り受ける店舗の外観(写真:セブン&アイ・ホールディングス提供)

セブン&アイ・ホールディングスは1月11日、アメリカの石油元売り中堅でコンビニエンスストアも展開するスノコLPから、204店舗のガソリンスタンド併設型コンビニを取得すると発表した。取得価額は約1374億円。アメリカ南部のドミナントを強化する。スノコからは2018年にも1030店舗を買収しており、今回でスノコが運営する全店舗を取得した。

セブン&アイは足元で海外M&Aを積極化している。2023年3月にはベトナムで「セブン-イレブン」を83店展開するエリアフランチャイジーに追加出資を決定、11月にはオーストラリアの同じくセブンを展開するエリアフランチャイジー(751店舗、同年6月末時点)買収を発表している。

財務回復で大型M&Aも再開か

セブン&アイは2021年のスピードウェイ買収に伴う借り入れで財務を傷めた。それ以降、新規のM&Aについては「有利子負債の返済を優先し財務基盤の再構築に努めたい」(丸山好道・最高財務責任者)とし、積極的とは言えなかった。実際、2022年は北米コンビニ事業では5年ぶりにM&Aがゼロの年だった。

しかし2021年から2023年までの2年間で負債返済が進み、懸案だったそごう・西武も2023年9月に譲渡を完了した。2022年2月末に97.2%に達した有利子負債比率(自己資本に対する有利子負債の比率)は、2023年11月末で77.7%まで改善しており、財務の健全性を取り戻しつつある。

これを受けて、セブン&アイは新規のM&Aに対する姿勢を変えようとしている。丸山氏は2023年10月の説明会で「2024年度、2025年度はグローバルで戦略的な投資を考えたい」と語っている。

同社が注力しているアメリカ市場は、上位10チェーンのシェアが18.9%にとどまる。大手3社による寡占状態で店舗数が伸び悩んでいる日本国内と比べ、成長余地は大きい。今後、セブン&アイがアメリカで大型のM&Aを積極化させる可能性がある。

一方、ベトナムやオーストラリアのように、「日米の次」の市場の開拓も同時に進めている。井阪輶一社長は2023年12月の東洋経済のインタビューで、「(現状5割強の)連結EBITDA(利払い前・税引前・償却前利益)に占める海外比率を2025年度に7割、2030年代には8割にまで持っていきたい」と明かした。

もちろん課題もある。第1がFC(フランチャイズ)化の遅れだ。

もともとアメリカが発祥のコンビニは、FC化を軸に成長してきた。1店1店は小型店でも、本部が商品開発と店舗運営の指導を担い、共存共栄を図るビジネスモデル。このFCモデルが、本部の高い利益率を実現してきた。セブン-イレブン・ジャパン(SEJ)の2024年2月期第3四半期(3〜11月期)の営業利益率は29.3%。背景にあるのがFCモデルであり、直営店舗数は11月末時点で267店と、全体のわずか1.2%にすぎない。

買収したアメリカの店舗は直営のまま


一方で、北米コンビニ事業を担うセブン-イレブン・インク(SEI)は全体の1万3145店(2023年9月末時点)のうち、直営店舗数が5939店(同)と全体の45%を占める。その結果、今第3四半期(1〜9月)の営業利益率は4.9%にとどまる。

SEIの直営店が多い背景には、SEIがM&Aで成長してきたことがある。品ぞろえやシステム、オペレーションの統合を進めるため、買収した店舗は当初直営店として運営することが基本となる。

2018年1月の買収完了からすでに6年が経つスノコの店舗、約1000店はいまだに全店直営だ。当初は買収完了の翌年、2019年から毎年100店舗程度ずつFC化していく方針だったが、予定は大幅に遅れている。スピードウェイの約3000店舗も同様にすべて直営であり、FC化のメドは立っていない。

全体で見れば、直営店とFC店のどちらの収益性が高いかは一概には言えない。ただ、FC化を志向しているセブン&アイの場合、FC化が進んでいないということは、店舗の収益が思うように高まっていないことを意味する。今後、M&Aを推進する際には、FC化がスムーズにいくかどうかが1つの指標となる。

セブン&アイの成長戦略の柱は海外

別の問題もある。アメリカ政府は大企業によるM&Aを規制する姿勢を強めている。実際、2018年のスノコの店舗や2021年のスピードウェイを買収する際には、一部店舗の売却を命じたり、取得に際して事前に連邦取引委員会(FTC)の承認を求めたりした。2023年末には事前申告が求められていた店舗を無断で取得(その後、売却)したとして、FTCがセブン&アイとSEIを連邦地方裁判所に提訴、最大約113億円の罰金支払いを求めている。今回の追加取得も何かしらの条件が課される可能性もある。

そうはいっても、国内の成長余地が限られる中、セブン&アイの成長戦略の柱が海外であることに変わりはない。統合作業の難しさや規制のある中でも、海外M&Aの加速による成長を続けられるかが、今後の焦点となる。

(冨永 望 : 東洋経済 記者)