ラグジュアリー小売業者 ファーフェッチとマッチズが安売りの対象となった理由:Luxury Briefing
消費の低迷やクリエイティブディレクターの入れ替わりなど、2023年はラグジュアリー業界にとって厳しい年となった。だが、ラグジュアリー業界において、マルチブランドのラグジュアリーeテイラーほど苦境に立たされた会社はないだろう。この分野の大手2社、ファーフェッチ(Farfetch)と、最近社名変更したマッチズ(Matches、旧称:マッチズファッション/Matchesfashion)は、売上高の低迷や膨大な負債、厳しさを増す投資市場などの要因から、わずかな額で売却された。
ファーフェッチは負債が膨らみ、売上が伸び悩むなど、1年間苦境に立たされた末、わずか5億ドル(約712.5億円)で韓国のeコマース企業クーパン(Coupang)に売却された。2021年のファーフェッチの評価額230億ドル(約3.3兆円)とくらべると、これは微々たる金額だ。
ファーフェッチは長いあいだ、「ラグジュアリーのAmazon」と呼ばれ、2008年のローンチから2019年までに急成長を遂げたが、2019年にはその無謀な支出習慣が価値を暴落させ始めた。同社は、サルヴァトーレ・フェラガモ(Salvatore Ferragamo)といったブランドやハロッズ(Harrods)などの小売業者のeコマース技術を裏で支えており、ニューガーズグループ(New Guards Group)やユークス・ネッタポルテ(Yoox Net-a-Porter)といったブランドや競合他社を買収している。ファーフェッチが売却された時点ではまだ完了していなかったネッタポルテとの取引は、その後、頓挫した。
ファーフェッチの売却は、かつてラグジュアリーの最高潮の波に乗っていた同社にとって不幸な展開だ。だが、ファーフェッチはつねに利益を上げるのに苦労しており、収入よりも支出の方が多く、2021年に一時的に黒字になっただけだった。
一方、マッチズはさらに低いレートで買収されている。英国全土に百貨店やハイストリートショップを所有する英国小売大手フレイザーズグループ(Frasers Group)は、2023年12月20日にマッチズを6000万ドル強(約85.4億円)で買収した。2017年にプライベートエクイティ企業エイパックス・パートナーズ(Apax Partners)がマッチズを10億ドル(約1424億円)以上の評価額で買収してから6年しか経っていない。当時は収益性の高いビジネスだったが、その後低迷、フレイザーズに売却された時点では、四半期ごとに数千万ドルの赤字を出していた。
ASOSの前CEOであるニック・ベイトン氏が2022年にマッチズの新CEOに迎えられて立て直しを図ったものの、同社の低迷を止めることはできなかった。ベイトン氏は記者声明で、フレイザーズの傘下に入ることで財務が安定し、以前は不可能だった前進が可能になるだろうと話した。
「昨年マッチズに入社して以来、ブランドと商品のキュレーションを研鑽し、日々の業務を改善しながら順調に前進してきた」とベイトン氏は語っている。「その結果、厳しい経済状況にもかかわらず、堅調な業績を達成することができた。ラグジュアリーに対する徹底したコミットメントを持つフレイザーズの一員となることで、この事業はより大きなスケール、クラス最高の小売専門知識、そしてブランドパートナーや顧客に効果的にサービスを行うために必要な財政的安定性を活用できる」。
両社とも現在の状況に陥る大きな要因となっていたのが、負債だった。ファーフェッチはユークス・ネッタポルテへの投資など多額の支出により、現在11.5億ドル(約1637.7億円)以上の負債を抱えている。2018年の上場初年度には10億ドル(約1424億円)以上を費やし、投資家のコンデナスト(CondéNast)はこれを懸念して2019年にファーフェッチの株式を売却した。マッチズの負債額は約2500万ドル(約35.6億円)と少ないが、損失額は四半期ごとに拡大し、年間約4100万ドル(約58.4億円)の損失を計上している。
「マッチズの買収は、長期的なビジネスの健全性を保つために小売パートナーへの依存を高めるのではなく、ブランドが独自のD2C戦略を構築することがいかに重要かという点をさらに浮き彫りにしている」と話したのは、eコマース企業スワップ(Swap)の共同創業者でCEOのサム・アトキンソン氏だ。ファーフェッチはマーケットプレイス、マッチズはネッタポルテのような卸売と、それぞれビジネスモデルは異なるが、どちらもブランドが販売するにはある程度のコントロールを放棄する必要がある。「今回ファーフェッチとマッチズが大幅な赤字で売却されたことで、企業ブランドがShopifyに移行し、自社のeコマースをコントロールするという動きが強化されるだろう。ブランドは、大規模なプラットフォーム小売業者の成功に自社の売上を賭け続けることはできない」。
マッチズでは再建に向けた努力が続けられており、10月にはマッチズ・アウトレット(Matches Outlet)をローンチした。これはオフプライスのスピンオフで、サックス・オフ・フィフス(Saks Off 5th)やノードストローム・ラック(Nordstrom Rack)のようになればマッチズの損失を補うことができるかもしれない。多くのオフプライスブランドは、親会社の経営を支えている。
フレイザーズグループのCEO、マイケル・マレー氏は、ラグジュアリー業界が現在厳しい状況にあることを認めている。
「世界的なラグジュアリー環境は軟化しているが、業界をリードするエコシステムを活用することで相乗効果を発揮し、マッチズの収益性の高い成長を促進できると確信している」と、同氏はeメールによる声明で語った。
ファーフェッチとマッチズがともに屈辱を味わったいま、3大ラグジュアリーオンラインマーケットプレイスの第三のメンバーであるネッタポルテが今後どうなるのかについては疑問が残る。今年ネッタポルテの売上は10%減少し、1億3700万ドル(約195.1億円)の損失を出しており、親会社であるリシュモン(Richemont)のほかの成功したポートフォリオにとって負担となっている。計画ではファーフェッチと一緒になることで、両マーケットプレイスは繁栄するはずだったが、提携が白紙になったことで、ネッタポルテも同様に安値での売却という窮地に追い込まれる可能性がある。
「ブランドは自社のダイレクトチャネルでより賢く販売するようになり、卸売業者との直接的な競争が発生している」とアトキンソン氏は言う。「時が経つにつれて、ターゲティングがより難しくなり、メディアコストの増加とともに、当然ながら新規顧客の獲得にさらにコストがかかるようになっている。ファーチェッチによる買収が失敗に終わったため、1月にはユークス・ネッタポルテグループが同じような安値で買収されることが予想される」。
[原文:Luxury Briefing: How did 2 luxury retailers end up in the bargain bin?]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)
ラグジュアリーの最高峰だったファーフェッチの売却
ファーフェッチは負債が膨らみ、売上が伸び悩むなど、1年間苦境に立たされた末、わずか5億ドル(約712.5億円)で韓国のeコマース企業クーパン(Coupang)に売却された。2021年のファーフェッチの評価額230億ドル(約3.3兆円)とくらべると、これは微々たる金額だ。
ファーフェッチは長いあいだ、「ラグジュアリーのAmazon」と呼ばれ、2008年のローンチから2019年までに急成長を遂げたが、2019年にはその無謀な支出習慣が価値を暴落させ始めた。同社は、サルヴァトーレ・フェラガモ(Salvatore Ferragamo)といったブランドやハロッズ(Harrods)などの小売業者のeコマース技術を裏で支えており、ニューガーズグループ(New Guards Group)やユークス・ネッタポルテ(Yoox Net-a-Porter)といったブランドや競合他社を買収している。ファーフェッチが売却された時点ではまだ完了していなかったネッタポルテとの取引は、その後、頓挫した。
ファーフェッチの売却は、かつてラグジュアリーの最高潮の波に乗っていた同社にとって不幸な展開だ。だが、ファーフェッチはつねに利益を上げるのに苦労しており、収入よりも支出の方が多く、2021年に一時的に黒字になっただけだった。
フレイザーズの傘下に入るマッチズ
一方、マッチズはさらに低いレートで買収されている。英国全土に百貨店やハイストリートショップを所有する英国小売大手フレイザーズグループ(Frasers Group)は、2023年12月20日にマッチズを6000万ドル強(約85.4億円)で買収した。2017年にプライベートエクイティ企業エイパックス・パートナーズ(Apax Partners)がマッチズを10億ドル(約1424億円)以上の評価額で買収してから6年しか経っていない。当時は収益性の高いビジネスだったが、その後低迷、フレイザーズに売却された時点では、四半期ごとに数千万ドルの赤字を出していた。
ASOSの前CEOであるニック・ベイトン氏が2022年にマッチズの新CEOに迎えられて立て直しを図ったものの、同社の低迷を止めることはできなかった。ベイトン氏は記者声明で、フレイザーズの傘下に入ることで財務が安定し、以前は不可能だった前進が可能になるだろうと話した。
「昨年マッチズに入社して以来、ブランドと商品のキュレーションを研鑽し、日々の業務を改善しながら順調に前進してきた」とベイトン氏は語っている。「その結果、厳しい経済状況にもかかわらず、堅調な業績を達成することができた。ラグジュアリーに対する徹底したコミットメントを持つフレイザーズの一員となることで、この事業はより大きなスケール、クラス最高の小売専門知識、そしてブランドパートナーや顧客に効果的にサービスを行うために必要な財政的安定性を活用できる」。
ファーフェッチとマッチズの売却で企業ブランドがShopifyに移行
両社とも現在の状況に陥る大きな要因となっていたのが、負債だった。ファーフェッチはユークス・ネッタポルテへの投資など多額の支出により、現在11.5億ドル(約1637.7億円)以上の負債を抱えている。2018年の上場初年度には10億ドル(約1424億円)以上を費やし、投資家のコンデナスト(CondéNast)はこれを懸念して2019年にファーフェッチの株式を売却した。マッチズの負債額は約2500万ドル(約35.6億円)と少ないが、損失額は四半期ごとに拡大し、年間約4100万ドル(約58.4億円)の損失を計上している。
「マッチズの買収は、長期的なビジネスの健全性を保つために小売パートナーへの依存を高めるのではなく、ブランドが独自のD2C戦略を構築することがいかに重要かという点をさらに浮き彫りにしている」と話したのは、eコマース企業スワップ(Swap)の共同創業者でCEOのサム・アトキンソン氏だ。ファーフェッチはマーケットプレイス、マッチズはネッタポルテのような卸売と、それぞれビジネスモデルは異なるが、どちらもブランドが販売するにはある程度のコントロールを放棄する必要がある。「今回ファーフェッチとマッチズが大幅な赤字で売却されたことで、企業ブランドがShopifyに移行し、自社のeコマースをコントロールするという動きが強化されるだろう。ブランドは、大規模なプラットフォーム小売業者の成功に自社の売上を賭け続けることはできない」。
マッチズでは再建に向けた努力が続けられており、10月にはマッチズ・アウトレット(Matches Outlet)をローンチした。これはオフプライスのスピンオフで、サックス・オフ・フィフス(Saks Off 5th)やノードストローム・ラック(Nordstrom Rack)のようになればマッチズの損失を補うことができるかもしれない。多くのオフプライスブランドは、親会社の経営を支えている。
フレイザーズグループのCEO、マイケル・マレー氏は、ラグジュアリー業界が現在厳しい状況にあることを認めている。
「世界的なラグジュアリー環境は軟化しているが、業界をリードするエコシステムを活用することで相乗効果を発揮し、マッチズの収益性の高い成長を促進できると確信している」と、同氏はeメールによる声明で語った。
疑問が残るネッタポルテの今後
ファーフェッチとマッチズがともに屈辱を味わったいま、3大ラグジュアリーオンラインマーケットプレイスの第三のメンバーであるネッタポルテが今後どうなるのかについては疑問が残る。今年ネッタポルテの売上は10%減少し、1億3700万ドル(約195.1億円)の損失を出しており、親会社であるリシュモン(Richemont)のほかの成功したポートフォリオにとって負担となっている。計画ではファーフェッチと一緒になることで、両マーケットプレイスは繁栄するはずだったが、提携が白紙になったことで、ネッタポルテも同様に安値での売却という窮地に追い込まれる可能性がある。
「ブランドは自社のダイレクトチャネルでより賢く販売するようになり、卸売業者との直接的な競争が発生している」とアトキンソン氏は言う。「時が経つにつれて、ターゲティングがより難しくなり、メディアコストの増加とともに、当然ながら新規顧客の獲得にさらにコストがかかるようになっている。ファーチェッチによる買収が失敗に終わったため、1月にはユークス・ネッタポルテグループが同じような安値で買収されることが予想される」。
[原文:Luxury Briefing: How did 2 luxury retailers end up in the bargain bin?]
DANNY PARISI(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)