12月24日の横浜ビー・コルセアーズ戦ではクラブ史上最多の8591人が来場。チームも連勝しファンを熱狂させた【写真:B.LEAGUE】

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B1初参戦の佐賀バルーナーズ、田畠寿太郎社長が語るクラブの現在地

 プロバスケットボール・Bリーグの佐賀バルーナーズは、今季から本格的に運用が始まった新本拠地「SAGAアリーナ」で初のB1を戦っている。8000人を超える観客を収容できるアリーナで、2023年12月24日の横浜ビー・コルセアーズ戦ではクラブ史上最多となる8591人が訪れるなど、佐賀の地に新たな熱狂を生み出している。チーム戦績も上向いてきた12月末、クラブ社長の田畠寿太郎氏を直撃。初のB1を「SAGAアリーナ」で戦う中で感じる手応えや課題、バルーナーズが地元・佐賀で目指す理想のクラブ像について語った。(取材・文=荒 大)

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 田畠社長が2021年に佐賀バルーナーズの取締役に加わった当時、チームはSAGAサンライズパーク体育館(SAGAプラザ)を本拠地としていた。2022-23シーズンのレギュラーシーズンまでSAGAプラザでホームゲームを開催する一方、2023年に入ってSAGAアリーナが完成。ラウンジ席を含めて作り込まれたアリーナは、2026年に開幕予定の「B.LEAGUE PREMIER」基準の本拠地としても十分適したものだった。

「クラブのコンセプトとして『親子3世代で楽しめるアリーナ』『初心者ファースト』を掲げて、とにかく初めて来た人でも『楽しかったね』と感じてもらえるアリーナを目指しています。なので、映像にしても演出にしても、できるだけ楽しさ、分かりやすさを心がけていて、例えば(オフェンスでの)コールも『GO!GO!佐賀』の1種類だけにしています」

 分かりやすさは、チケット戦略にも表れた。需要に応じて価格が細かく変動する「ダイナミックプライシング」ではなく、あらかじめ対戦時期や相手に応じて価格や席種を段階付けした「フレックス制」を打ち出した。田畠社長は地域を取り巻く事情を鑑みて、敢えて「進みすぎない」策を採ったと話す。

「ダイナミックプライシングを採用しようかという流れもありましたし、沖縄アリーナのように場内での完全キャッシュレス化も検討していました。ただ、佐賀の地域性や県民性、ITへの理解度を考えると、ダイナミックプライシングや完全キャッシュレスに対して振り切った場合のハレーションも考えられました。そして、クラブの中で『ちょうど中間を目指そう』という結論に至り、チケット価格を分かりやすくすること、段階を踏んでやっていくことが決まりました」

 フレックス制での料金は、対戦相手よりも対戦時期が価格に反映されるところもあり、最高ランクの「☆☆☆」となる試合は、年末、さらにゴールデンウィークの3節・6試合だ。そうした中で、先に挙げた横浜BC戦との2連戦も「☆☆☆」とされていたのだが、2試合とも8000人以上の集客に成功し、チームも連勝という、ある意味、最高の結果を得た。だが、田畠社長はすぐさま引き締めを促したという。

「結果は率直に嬉しかったのですが、対戦相手に河村勇輝選手がいることを含めた巡り合わせも強く感じました。試合後の終礼のタイミングで『スタッフにとっても、僕にとっても成功体験だったけど、今日で忘れよう』と声をかけました。僕はどちらかというと臆病なので、常に『こうじゃなかったら』と考えます。例えば『人気のある選手が来年の対戦相手にいなかったら……』と、考えてしまうのです」

現状では「新しいアリーナを見たい」というボーナスがある

 バルーナーズは12月の戦いを終えた時点で、ホームゲーム15試合の平均入場者数が5000人を上回り、B1全体で4番目の集客力を誇る。このままのペースで行けば、2026年開始予定のB.LEAGUE PREMIER参入目標の一つである「平均入場者数4000人以上」というハードルもクリアできるはずだ。ただ、田畠社長は決して危機感を消そうとはしない。

「今、しんどいな、という部分はあります。B2プレーオフのファイナルでは7000人以上が集まりましたが、僕らでも驚くような数字が出たとも感じます。この15試合の中で、いろいろな施策を合わせ技で出して、やっと5000人の方に来てもらえる試合もありますし、頑張っても3000人ほどしか来ていただけなかったという試合もあります。現状では『新しいアリーナを見てみたい』というボーナスの部分もあるはずです」

 就任3年目を迎えた田畠社長は、自らもアウェー遠征に帯同し、時には対戦クラブのエッセンスも持ち帰ってくる。「船橋アリーナにも行きましたけど、(千葉)ジェッツさんが作り出す世界観が羨ましいですよね」と、素直に相手クラブの良さを引き合いに出す一方で、ハード面の難しさも含めて感じ取る機会ともしていた。その中で、田畠社長はB1で生き残るための「ツボ」も学びつつあった。

「B1の中でも中団につけるクラブは『総合力』が大事だと思っています。会場の雰囲気やフロントスタッフのモチベーションであったり、もちろん、選手やコーチのモチベーションも大事です。心とやる気の部分が充実して、重ならないといけないのではないかと感じます。単に予算を投じて強化を目指すよりも、チームとフロントとの風通しを良くすることを大事にしている部分もありますね」

 こちらも就任3季目を迎えた宮永雄太ヘッドコーチ兼ゼネラルマネージャーとの連携も積極的に取る一方で、イベントなどへ選手を参加・出演させることも契約に盛り込むことで、選手にしっかりと「クラブの顔」になることの意識を植えつけていく。もちろん、田畠社長の要望でもあるのだが、「宮永さん自身がバスケットボールが世の中に認知されない中で、苦労をしながら選手として戦ってきた1人だからでは」と、指揮官の理解度の高さがあってこそだと分析する。かつてのバルーナーズはコート内外の連携が進まない時期があったとも語っており、こうした部分にもクラブの進化した姿が垣間見える。

 そうしたなかで、12月29日に行われたアルバルク東京との一戦は、主力である角田太輝の出身校である佐賀北高校とのコラボデーとするなど、クラブとして地元・佐賀県との融合を形にしようという施策も見られた。田畠社長によれば、こうした施策にもクラブのビジョンに沿った流れが根底にあるという。

「僕らは『佐賀バルーナーズを日常にする』ことを掲げています。地域を見れば少子化や空洞化が進む中で、楽しい、温かい、そういったクラブを作っていこうと思いますし、クラブの存在意義として、地域経済の課題に寄り添わなくてはいけません。ただアリーナが満席になれば良いのではなく、試合の後に街に良い影響を残せるか、試合の前と後に街にお金を落とさせる。そこまで考えていこうと、フロントスタッフにも伝えています」

SAGAアリーナの活用法は手探りの状態

 今後のSAGAアリーナの活用法について問うと、田畠社長に腹案はあるようだが、まだまだ手探りの状態であることも隠さない。

「理想を言えば、フルスペックの調理場をアリーナに設けたいです。(ラウンジ席が連なる)3階のお客さんにコース料理を出して、楽しんでもらうというのも考えているんですけど……もちろん飲食もそうですし、まだまだ、演出の確度をもっと上げていきたいです。お金も含めて余裕はないので、単発でしかやれないんですけど(笑)」

 田畠社長はクラブの発展には、今在籍している1人ひとりの成長が不可欠であると考えており、失敗も含めたチャレンジを促す一方で、組織の今後についてはこのように語った。

「スタッフにも伝えていることですが、この場所でやらせてもらえることには感謝しかありません。クラブもしんどい状況で、コロナ禍もあったわけですが、B1にいるという現状をスタートとして感謝を伝える、恩を返していくところにいると思っています。もっと僕らが成長して、もっと楽しんでいただける環境を作っていきたいと思います」

(荒 大 / Masaru Ara)