そもそもニュースサイトになぜコメント欄が「必要」なのでしょうか(写真:C-geo/PIXTA)

コメント欄のあるニュースサイトは少なくないが、近年、多くの課題が指摘されている。例えば、国内最大手のYahoo!ニュースのコメント欄で侮辱的なコメントを書いたとして、発信者に対して賠償命令が出た事例は既に複数存在する。

そのようななかで、Yahoo!ニュースは2021年にコメント欄非表示機能を導入した。これは、AIが判定した違反コメント数などに応じてコメント欄そのものを閉鎖する機能であったが、わずか2カ月で216件のコメント欄を閉鎖するに至った。

コメント欄のメリットとデメリット

このような事例は、コメント欄が社会にどのような影響を与えるか、そして情報共有や公共の議論にどのように貢献するかという重要な問いを投げかけている。そこで本稿では、ニュースサイトにおけるコメント欄のメリットとデメリットを整理し、その是非を考察する。

そもそもニュースサイトになぜコメント欄が必要なのだろうか。

メリットの1つに、情報の多角的な理解やコミュニティの活性化への寄与がある。実際、Yahoo!ニュースを運営するLINEヤフー社は、「ニュースをより深く多角的に理解するための助けになること」 や「健全な言論空間創出」を目的にコメント欄を設けていると述べている。

また、コメント欄は、読者が自らの意見を表明し、他者との対話を通じて新たな視点を得る場としても機能している。この相互作用は、デジタル時代における公共的な議論の場の一形態として重要であり、社会における意見の多様性と包容性を促進する。

さらに、Yahoo!ニュースでは公式コメンテーター制度があり、専門家や著名人によるコメントがなされている。これは一般の読者に対して、専門的な知見や新たな視点を提供している。

専門家によるコメントは、Yahoo!ニュースに限らず、日経新聞や朝日新聞などのマスメディアのニュースサイトでも見られるため、その意義がうかえる。読者が単なるニュースの消費を超えて、アクティブな情報の探究者となることを促しているといえよう。

誹謗中傷、誤情報…指摘される問題点

一方、冒頭に述べた通り、ニュースサイトのコメント欄には多くの問題も指摘されている。

特に大きいのが、誹謗中傷やヘイトスピーチの問題だ。記事内で取り扱われている人を侮辱したり差別したりするようなコメントが散見される。対象となるのは、著名人から一般人までさまざまだ。前述したように裁判に発展したようなものもある。

また、2021年に発生した、京都府にある在日コリアンが集住する地域に放火した事件では、被告はYahoo!ニュースコメント欄で誤った情報を収集し続けており、さらに放火によってコメント欄のユーザにヒートアップした言動を取らせようとしたと動機を語っている。

ほかにも、社会の分断の加速がある。

コメント欄での激しい意見の衝突が、異なる見解や立場の読者間での対立を激化させ、共感や対話の代わりに敵対感を生むことがある。コメント欄は多様な意見を知るために設けられているが、そこで対立が生まれて極端な意見同士が衝突し、議論ができなくなると、社会的な分断を深め、むしろ相互理解と和解の努力を薄れさせるといえる。

誤情報の拡散も問題だ。

コメント欄を介して誤情報やデマが拡散されれば、公共の議論において誤った認識が広がり、社会に誤解や混乱を引き起こすことがある。最近では、新型コロナウイルスや各種災害関連の誤った情報がコメント欄に多く書き込まれていた。

また、アテンション・エコノミーが支配的になっていることは、ニュース配信者がPV数を増やすために、過激な記事やタイトルを掲載する動機付けになっている。アテンション・エコノミーは関心経済ともいい、情報が過剰にあふれるなかで、人々の限られた注意を引きつけることが直接的な収益につながるという経済的概念のことである。

つまり、コメント欄が盛り上がって多く閲覧されればそれだけ収益につながるため、記事の内容と異なる過激なタイトルをつけたり、過剰に何かを批判したりすることでPV数を稼ごうとするのだ。これは、公平で建設的な議論の場を提供するというニュースメディアの本来の役割と矛盾する可能性がある。

さらに、過激な記事が増加することはコメント欄の過激化・極端化にもつながり、極端な意見が支持を受けることで、過激な行動や思想が助長される恐れがある。

ニュースサイトにコメント欄は必要か?

このような問題から、近年ではニュースサイトにコメント欄は不要ではないかという議論が盛んだ。実は海外でも問題視されており、CNNやReutersなどの大手メディアのコメント欄が次々と閉鎖された経緯がある。

しかし、誰もが自由に情報発信できる人類総メディア時代において、ニュースサイトのコメント欄が議論の場として機能し、多様な視点を提供する役割を担うのは意義の高いことでもあるだろう。

重要なのは、デメリットを最小限にして、メリットを最大限にできるように、各プラットフォーム事業者が責任をもって言論の場としてのコメント欄について適切な運用をすることだ。

例えばYahoo!ニュースでは、議論の活発化を促すために、2018年から建設的コメント順位付けモデルを導入している。これはAIによって、「客観的で、必要であれば根拠を提示している」「新たな考え方や解決策、見識を提供する」などの条件を満たす建設的なコメントをスコアリングし、スコアが高いものを上位表示させる技術である。

さらに、コメント欄に投稿する場合には電話番号登録が必須となるような措置が2022年に導入された。その結果、施策後には新たに投稿停止措置を受けるような悪質なID数が56%も減少したようだ。また、不適切なコメントを投稿しようとして投稿者に警告が表示される回数も、22%減少した。

しかし、これらの対策も完璧ではない。

侮辱的なコメントは散見されるし、前述したようなアテンション・エコノミーの問題は依然として残る。誹謗中傷とはいえないまでも、非常に極端な言説や、陰謀論や誤情報の拡散も起こっている。

コメントを意味のあるものにするには

読者がニュースをより深く多角的に理解するための助けになるようにという目的を果たすならば、継続的な改善と実装を繰り返していくことが求められる。その際には、サイトの運営側によるモデレーションが恣意的にならないように、常に対策の内容や削除件数などについて透明性を確保することが重要だ。

さらに、Yahoo!ニュース以外にも多くのコメントを投稿できるニュースサイトが存在しており、それらの多くのウェブサイトでは対策がほとんどなされていない。誹謗中傷やヘイトが野放しのサイトもある。

各プラットフォーム事業者が言論の場を提供する主体として、責任をもって改善策を検討するとともに、ベストプラクティスを共有し、各事業者が有効な対策を実装していくことが求められるだろう。

(山口 真一 : 国際大学グローバル・コミュニケーション・センター准教授)