(写真:Kasto/PIXTA)

世界経済フォーラム(WEF)の「雇用の未来レポート2020」は、AIが2025年までに8500万人の仕事を代替する可能性があると予想していた。一方で、人間、機械、アルゴリズムの新たな分業により、9700万人の新たな仕事が生まれる可能性がある、と。

あれから3年後、私たちはこの予測の影響を目の当たりにしている。AIは現在、交通機関やエンターテインメント、マーケティング、そして慈善活動に至るまで幅広い分野で活用されている。ChatGPTのような生成AIは、一部の仕事を「奪う」一方で、多くの労働者の日常業務を支援する役割を果たすようになってきている。

生成AIの利用に悩む教育現場

こうした中で、生成AIとの「付き合い方」にいまだに頭を悩ませているのが教育業界だ。アメリカではChatGPTの利用を禁止する州や地域も出てきている。

例えば、ニューヨークでは、生徒の学習への悪影響や、コンテンツの安全性や正確性に関する懸念から、ニューヨーク市公立学校のネットワークやデバイスではChatGPTへのアクセスが制限されている。

もっとも、教育者間でも生成AIへの考え方は割れている。

200人以上の幼稚園から高校までの教師を対象とした2023年のStudy.comの調査では、3分の1以上が「すべての学校でChatGPTを禁止すべき」と考え、その2倍が許可すべきだと答えている。

一方で100人の教育関係者と1000人以上の学生を対象とした別の調査では、学校や大学で「ChatGPTを禁止すべきではない」と66%が答えているが、これは必ずしも現場が生成AIの利用に対応できている、ということではないようだ。

「私の学部全体が、AIによる執筆ツールに突然簡単にアクセスできるようになったことに神経質になっています」とこの調査に答えた教授の1人はコメントしている。

「今のところ、カンニングを見破るのはかなり簡単ですが、カンニングを見破ることができるようになるのは1年かそこらの問題ではないかと心配しています。これに対して対策はありませんが、それを見つけたいと考えています」

B程度の成績は取れるように

また別の教授は、「ChatGPTに持ち帰りの試験問題を与えた同僚が何人かいますが、B程度の成績を取れるようにはなっており、これは怖いことです」とコメントしている。

さまざまな意見や混乱、恐怖心はあるにせよ、多くの教育専門家は次のような考え方に集約しつつある。「AIがイノベーターに取って代わることはないが、AIを利用するイノベーターは、利用しないイノベーターに取って代わるだろう」。

ウォルトン・ファミリー財団の教育プログラム・ディレクターであるロミー・ドラッカーも、「教育者はイノベーターであり、現状を鑑みて、生徒1人ひとりのユニークなニーズに応えるために、あらゆる手段を自由に使いたいと考えている」と話す。

ドラッカーは、生徒側もまた、自らの教育に主体的に携わっていると感じ、学ぶことに興奮を覚える必要があると述べており、ChatGPTはこのような機会を生徒たちに提供することができる、と見ているようだ。

同財団のアンケートに答えたケンタッキー州高校の3年生、ザッカリー・クリフトンは、「若者の1人として、私は自分の将来がコンピュータやアルゴリズムによってある意味制限されていると考えています」と書いている。

「しかし、これは私が利用できるアルゴリズムであり、自分自身を進歩させるために使うことができます……これは私が責任を持って使うことができるものであり、今後も責任を持って使うと思います」

AIを使って必要なスキルを向上する

実際、プライバシー、判断の偏り、法的な問題、教育への影響(カンニングなど)など、AIを取り巻く倫理的な問題があるにせよ、生成AIが生徒の本質的なスキルの向上に役立つと考えている教師は少なくない。

これは、問題解決、批判的思考、創造性などで、こうしたスキルは数学、科学、英語などの教科で成功するために不可欠なものだ。そして、生成AIによってこうしたスキルを開拓・向上するには「どのように使うのがベストか」を教育現場で考え、実践していかなければならない。

これについて、カリフォルニア州で教える英語教師、キム・レプレは全米教育委員会に対して「これは生徒に電卓を渡すようなものです。TI85(高性能な関数電卓)を渡すのも1つの手ですが、こうしたツールの使い方を教えればさらに強力になります」と語っている。

例えば、ChatGPTを使って作文を書く生徒に対抗するために、レプレは、標準的な5段落作文の回答から、個人的な物語や批判的な推論を必要とするプロンプトに移行することを提案している。

「AIが作成した作文をパーソナライズし、不足している詳細を追加することで、リバースエンジニアリングするよう学生に指示することができます」とレプレは提案する。「生成された内容を、人間が書いた小論文と比較してどうなのかを議論することも可能です」。

中西部の私立K-12学校の学校長ジョニー・アレンは、「生徒に自分の作文の説明をするよう求めることで、生徒が自分で作ったかどうかを判断することができる」と語る。

彼女が言うには、生徒が調べ、精通しているトピックについて話すことは、AIに課題を完成させることとはまったく違う。教師はその違いをすぐに見分けることができるとしている。

AIが書いたか検出するアプリも登場

AIをめぐる倫理的問題への対処は、新しい技術も生み出している。学生がChatGPTを使って論文を書く行為が増える中、プリンストン大学の学生はAIを使って書かれた小論文かどうかを判定するアプリを開発した。
コンピューターサイエンスの学生エドゥアルド・ティアンが開発したアプリ「GPTZero」は、複雑さやランダム性といった要素を強調することでコピーを検出する仕組みだ。

このアプリの需要は非常に高く、公開当初はウェブサイトがクラッシュするほどだった。現時点で120万人がダウンロードしており、すでにシードラウンドで350万ドルを調達している。

冒頭の予測でも多くの仕事がAIに置き換えられると紹介したが、オンライン教育プラットフォームのedXも800人の経営幹部と従業員を対象とした調査を行っており、2025年には今日の労働力におけるほぼ半分のスキルは価値がなくなると見ている。だが、47%はこうした状況に備えられていない、と答えている。

スキルの置き換えが急ピッチで進むと見られる中、教育者たちは学生にこうした未来に備えさせる必要性に迫られている。学生たちは批判的思考や問題解決能力を維持しながら、生成AIをうまく活用するためのスキルや知識を蓄積していかなくてはならない。

(アイネズ・モーバネ・ジョーンズ : ライター/編集者(在シアトル))