どのメーカーにもない鮮烈なカラーとしてライムグリーンに着目!

カワサキといえばライムグリーンがブランドのイメージカラー。
何と54年もの長きに渡り、変わらず定着しているので、なぜこの色などと思わないに違いない。

実は1968年以前、カワサキのイメージカラーはモトクロスは赤、ロードレースは赤みを帯びたマルーンとアイボリーのツートン。
アメリカ市場へ殴り込みをかけた2スト2気筒250cc、GPマシン直系のロータリーバルブ吸入のA1を追うカタチで、1966年セールスプロモーションを兼ねアマチュアレースでの活躍を期したA1Rを投入、このカラーリングがGPマシンと同じツートンだった。

カワサキは世界GPでは後発メーカーで、125cc2気筒KA-1で同クラスの先行メーカー、スズキやヤマハへ徐々に追いつきつつあったが、1967年に先行2社と同じ2気筒をギヤ連結した125cc4気筒で12段ミッションを装備したKA-2(ボア×ストローク:34 x 34.3mm、40ps/17,250rpm)で日本GPに参戦した。

ただ世界GPは日本メーカーだけの闘いに終始したため、1969年から欧米メーカーの参戦を促そうと気筒数や変速機の段数を制限、日本のワークスマシンは撤退せざるを得なくなった。
そこでアメリカでのレース挑戦に積極的だったカワサキは、主力をこのAMA(全米モーターサイクル協会)レースへスイッチ。市販レーサーをベースとしたワークスマシンの投入をはじめたのだ。

その1969年、注目のシーズンオープニングのDaytonaに、カワサキは市販レーサーA1R(250cc)のワークスマシンA1RSと、350ccのA7RSを引っ提げてきたが、そのカラーリングが何とライムグリーンと白のツートン。
これにはファンも度肝を抜かれた。

西欧のホラー映画をはじめ、死が漂う描写にはグリーン系を象徴的に使う。不吉を予感させる色だ。
カワサキは勝負に出たレースで、赤や黄色に青など原色系は先行するメーカーに近く、どれにも似ていない、しかも強烈なインパクトを求めていた。
切れ味鋭い、危なっかしいパフォーマンス……縁起をかつぐほど絶対に使わないこのライムグリーンに自らを奮い立たせていたのだ。

こんなところにも、カワサキの独創性というか、我が道を行くフィロソフィを感じさせる。
折りしもこの1969年、カワサキは500cc2スト3気筒のマッハIIIが世界最速マシンを謳い文句にデビュー。
このH1でも市販レーサーH1Rを製品化させ、ワークスマシンと同じライムグリーンを纏っていた。

ヨーロッパで世界GPを制したKRワークスマシンの凄まじいオリジナリティ!

センセーショナルなウイリーマシン、H1マッハIIIに続き、1974年にはご存じ切り札、900ccの4ストDOHC4気筒、Z1で世界を席巻。
この頂点マシンに続く中間排気量へと裾野を拡げ、世界でスポーツバイクの一角を築く存在として急速な成長を遂げていた。

そんな世界戦略の一環として、カワサキは世界GPの350ccと250ccクラスへワークスマシンで参戦。
2ストロータリーバルブ2気筒は、常識的な並列では横向きキャブレターでエンジン幅が出てしまうため、単気筒を前後で繋ぐタンデムツインという、他にないオリジナリティの塊でチャレンジしたのだ。

そのタンデムツインのKR250とKR350は、1978年から南アのコーク・バリントンがチャンピオンを獲得、1980年からはドイツのアントン・マンクが王座を受け継いでいた。

さらにカワサキは頂点500ccクラスへもチャレンジ。
1980年から投入されたKR500は、2ストロータリーバルブのスクエア4気筒とエンジンこそライバルに近かったが、シャシーに強烈な挑戦をしていた。

いわゆるパイプを組まず、アルミ・プレートでモノコック構造とする斬新な構想で、フロントに機械式のアンチダイブも装備する未体験ゾーンの塊マシンだったのだ。
さすがに手堅い部分が全くないKR500は、写真の1982年モデルを最後に結果を残せないまま終焉を迎えることになったが、このいかにもカワサキらしい危なっかしさにファンは痺れたものだった。

AMAローソンレプリカから世界耐久まで常にチャレンジャーブランド!

他方、ヨーロッパで盛んになった世界選手権耐久レースでも、フランスを主体にライムグリーンはKR1000として、まさに1982年にライバルたちと凌ぎを削っていた。

そして主戦場であるアメリカAMAでは、アップハンドルでネイキッド・スタイルがメジャーなクラスへと切り替わったのを機に、エディ・ローソンがチャンピオンを獲得したマシンのレプリカがスーパースポーツとして販売される流れへと至ったのはご存じの通り。

こうしてライムグリーンのマシンは世界のレースで頂点を極めながら、常に少し無茶と思える独自性へのチャレンジを携え、マイノリティ好きにはたまらない魅力を放つブランドとして育まれてきた。
似たモノがないバイクを身上としてきた象徴が、まさにライムグリーンを選んだフィロソフィと合致しているカワサキ。
その輝きをいつまでも失わずにいて欲しいと願うファンの心を、これからも大切にして欲しいと願うばかりだ。

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