2023年に開業50周年を迎えたJR武蔵野線(写真:Jun Kaida/PIXTA)

2023年で開業50周年を迎えた武蔵野線。もともとは都心に乗り入れる貨物列車を迂回させる目的で計画された、常磐線の我孫子と大宮間を結ぶ「玉葉線」に端を発する路線で、その後ルートを変えて建設、沿線住民への見返りとして南武線との並走区間を除く府中本町―新松戸間に40分おきで旅客列車を走らせたのが始まりだ。

その後、沿線開発や新駅設置などにより利用客を増やし、列車本数は日中10分おきにまで増加した。首都圏、とくに東京の多摩地区や埼玉南部、千葉西部在住で利用したことがない方は少ないのではないだろうか。そんな多くの人にとって馴染み深いであろう武蔵野線の「疑問」をいくつか紹介し、解き明かしていきたい。

接続する路線の多い武蔵野線

■他線の快速は接続駅を「素通り」?

利用者なら多くの方が思っているであろう疑問。それは「武蔵野線との接続駅を、JR他路線の快速や中距離列車が素通りするのはなぜだ!」。

もちろん、すべてではない。府中本町には南武線の快速が停まるし、武蔵浦和だって埼京線の快速・通勤快速が停まる。京葉線との接続駅では、南船橋は快速停車だが市川塩浜は通過だ(これはその先も東京方面へ直通するから問題ないかもしれないが)。だが、西国分寺は中央特快が停まらないし、南浦和は上野東京ライン・湘南新宿ラインが通過、新松戸も常磐線快速・特別快速は通過だ。

以下、武蔵野線と他線の接続駅ごとに、接続する路線の最速達列車、または2番目に速い種別の列車が停車するかどうかをまとめてみた。JR各線の「素通り」が目立つ。

府中本町:JR南武線快速→停車
西国分寺:JR中央線中央特快→通過
新秋津:西武池袋線急行→通過(ただし快速は停車)
北朝霞:東武東上線川越特急→停車
武蔵浦和:JR埼京線通勤快速→停車
南浦和:JR上野東京ライン・湘南新宿ライン→通過
東川口:埼玉スタジアム線→速達列車なし
南越谷:東武スカイツリーライン急行→停車
南流山:つくばエクスプレス線→快速停車
新松戸:JR常磐線快速・特別快速→通過
新八柱:新京成線→速達列車なし
東松戸:成田スカイアクセス線アクセス特急→停車、北総線特急→停車
西船橋:JR総武快速線→通過、東西線快速→停車
南船橋:JR京葉線快速→停車

なぜ接続するJR線の速達列車は素通り率が高いのか。西船橋駅の総武快速線に至ってはホームが設置できるだけのスペースまであるのだ(*後述するが、これは実際には異なる)。

背景には建設時の事情があった

JR東日本に聞いてみたところ、「そういった要望があることは承知しているが、もともと武蔵野線は貨物専用線にするつもりで造ったものを旅客用にも使える路線にしたため、もとから駅やホームがある京浜東北線や常磐線・総武線の各駅停車などとのみ乗り換えとし、現状、乗り換えをさばくのに足る状況であるため、速達列車の停車を実施できるような状態にしていない」とのことだった。

各乗り換え駅についての事情も聞いてみると、その回答は以下の通りだった。

●西国分寺駅
 隣の国分寺駅に特別快速が停まり、停車駅の増加による速達性の低下を防ぐとともに、国分寺駅では快速電車と相互に乗り継ぎできる構造にしているためこれを活用いただきたい

●新松戸駅
 快速は停まらないものの、各駅停車は武蔵野線の増発に合わせ、日中15分おきから段階的に10分おきにまで増やし、乗り継ぎ機会の増加に努めるなど、今ある設備でできる改善努力は実施している

●西船橋駅
 総武快速線上下線間にある用地はホーム増設のために確保してあるものではなく、ホーム新設などによる快速停車の検討はない

やはり武蔵野線の建設以前にできた複々線区間などでは、一度造った施設を簡単に変えることはできず、通過のままにせざるをえないようだ。

その証拠に、武蔵野線開業後に建設された埼京線は、接続駅の武蔵浦和に最速達列車の通勤快速を停めている。埼玉県内のJR各線の各駅停車は日中10分おきの運行が多い中、京浜東北線の南浦和より東京側の区間は5分おきなのも、単に車庫があるからというだけでなく、武蔵野線接続を意識しているのかもしれない。

混雑緩和策とダイヤの今後

■10両編成化の計画はあるのか?

武蔵野線は8両編成での運転だが、とくにコロナ前には「武蔵野線は混雑がひどいので10両化しないのか」「武蔵野線10両化を検討したけど有効長の問題で断念したらしい」といった声や噂をネット上などでよく見かけた。

筆者も10両化を考えていたのでは?という土木構造物を発見した。それは南浦和駅西端にあり、高架橋の台座からニョキッと生えている。いかにもホームを延長してその支えにするつもりで造ったとしか思えないような構造物なのだ。しかし、いくら資料をあさっても「当初6両、将来8両」といった記述しか見当たらず、10両を想定していた証拠は見つからない。


南浦和駅の高架にある出っ張り。一見ホーム延伸用の設備に見える(筆者撮影)

そこでJR東日本に聞いてみると、「南浦和駅の高架橋の出っ張り部分は、将来的に8両編成対応用に作られた設備(開業当時は6両編成)で、実際に8両編成対応用にホームを延伸した際には、使用しなかった部分となります。そのため10両化を想定した設備ではございません。また、武蔵野線の10両化について、現時点で計画はございません」との回答であった。

ただ、10両化の計画はないというものの、近年は総武線のお下がりで入ってきた拡幅車体の電車により混雑緩和がなされていたり、ダイヤ改正のたびに増発されている西船橋―京葉線方面間の区間列車は京葉線車両による10両運転が多くなってきたりしている点を考えれば、よくなっていることは確かだ。

■武蔵野線と京葉線、列車の間隔統一できる?

武蔵野線が直通する京葉線区間の各駅停車は、京葉線がおおむね15分おき、武蔵野線がおおむね20分おきに走っている。このため、市川塩浜・葛西臨海公園・潮見・越中島の各駅と東京駅とを行き来する場合は、列車間隔が5分のときもあれば15分近くも開くこともあり、運転間隔のばらつきが目立つ。これはなんとかしてほしいという方は多いのではないだろうか。

線路を共用する区間では15分サイクル(例えば京葉も武蔵野も毎時4本ずつ計8本)、あるいは20分サイクル(例えば京葉も武蔵野も毎時3本ずつ計6本)のどちらかのサイクルに揃えることはできないのだろうか。

これについてJR東日本は「武蔵野線は日中時間帯おおむね10分間隔で運転を行っており、1時間あたり6本運転しています。しかし、西船橋から先の京葉線への直通運転につきましては、東京方面と南船橋方面に交互運転を行っております。そのため、京葉線内を走る武蔵野線は20分間隔となっております。武蔵野線直通列車を15分間隔で運転するためには、武蔵野線内を1時間当たり8本運転することとなりますが、お客さまのご利用状況を鑑みますと供給過剰になるため、現段階で増発は検討しておりません」との回答であった。

ただ、武蔵野線全線を毎時8本にしなくても、西船橋始発の設定などで調整したり、逆に京葉線を20分サイクルに変えて本数を減らしたりするのもいいのではないか。実際、2022年春のダイヤ改正では、平日日中の山手線を京浜東北線快速と同じ5分間隔に揃えて田端駅と田町駅で必ず接続するようにし、減便しても利便性は格段に向上した。このような形で、多少本数の過不足を許容してでも首都圏ネットワーク全体での最適を考えていただきたいところだ。

他線への直通列車は拡大するか

■「むさしの号」「しもうさ号」増発はありうる?

大宮駅の新幹線アクセスを目的に作られた、中央線から武蔵野線と貨物線を介して大宮駅へ至る直通列車「むさしの」号と、海浜幕張から武蔵野線と貨物線を介して大宮駅へ至る「しもうさ」号。


海浜幕張―大宮間を武蔵野線経由で直通する「しもうさ」号。205系時代の姿(写真:tarousite/PIXTA)

今後、新幹線の札幌延伸などで大宮折り返しの新幹線が増えることが想定されるが、それに伴いさらなる増発や、運転を日中にも拡大することはあるだろうか。また「むさしの・しもうさ」号以外に、臨時特急などで行っているような新たな直通ラインを走らせる可能性はないのだろうか。

JR東日本に聞いてみると、「むさしの号・しもうさ号を増発するためには、武蔵野線の府中本町―西船橋(東京・海浜幕張)間を運転している列車をむさしの号・しもうさ号に変更する必要がございます。このため、武蔵野線の一部区間では列車本数が減少してしまうことや北朝霞方面と南越谷方面を直通でご利用になるお客さまの利便性が低下してしまいます。以上のことから現時点でのお客さまのご利用状況などを踏まえ、むさしの号・しもうさ号の増発や運転時間帯の拡大は検討しておりません。また、新たな直通ラインについても現段階では検討しておりません」とのことであった。

むさしの号増発が既存列車の置き換えでないとできないのは、貨物列車と線路を共用しているためであろう。

新幹線と交差していたかも?

■番外編:成田新幹線との交差を想定した架道橋

武蔵野線建設時に並行して進められていた鉄道計画があった。現在の京葉線東京駅の位置から千葉ニュータウンを通り、成田空港に至る成田新幹線だ。この計画は頓挫し、東京駅のスペースは京葉線にあてがわれ、千葉ニュータウン付近の用地はソーラーパネルに使われ、成田空港付近の構造物は在来線と京成が使用している。これは幾度となく報道されている話だ。

だが成田新幹線計画の遺構は武蔵野線にもあった!それが西船橋駅から北西へ約1km半、中山競馬場近くにある橋だ。1車線の道路をまたいでいるが、その道路のためにしては不自然に長いこの架道橋。怪しい匂いしかしない。


成田新幹線を通すことを考慮して設けられたという架道橋(筆者撮影)

この橋について、2008年8月の『鉄道ファン』第568号「幻の成田新幹線をたどる」(草町義和氏著)によれば、「成田新幹線を下に通すことを考慮し、比較的スパンの長い鋼製の架道橋(小金線中山架道橋)が設けられている」とのことである。また、白土貞夫氏著の『ちばの鉄道一世紀』 によれば、1973年にこの交差部で工事が行われているのを発見した成田新幹線反対派住民団体が抗議活動を行っていたという。

今は単なる架道橋だが、もし新幹線が開業していれば、ここで武蔵野線と交差する姿が見られたということになる。

いかがだったであろうか。武蔵野線に対する疑問と謎、少しは解決の手助けになっただろうか。これからも運行計画や路線計画、土木構造物から見える謎について取り上げていきたい。


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(北村 幸太郎 : 鉄道ジャーナリスト)