勉強で結果を出すには、「効率×時間」で生み出せる価値を、いかに大きくするかが大切です(写真:shige hattori/PIXTA)

勉強には「“努力”とか“気合”が必要だ」は本当でしょうか? 実はそうした勉強法で成果が出るのは、学生までです。忙しい社会人には、いかに効率よく勉強するか、「戦略」が必要です。

こう語るのは、これまで2万人の社会人の勉強に成果をもたらしてきた、スタディーハッカー代表取締役の岡健作さん。岡さんの『勉強の戦略――9割の「努力」をやめ、真に必要な一点に集中する』から抜粋・編集し、社会人が最短の時間、最高の効率で勉強するための戦略をお伝えします。

社会人には、ムダな勉強をしているヒマはない

海外の研究で、「勉強の戦略」が近い将来にはビジネスの分野でも必須スキルとなるという予測があります。

オックスフォード大学が2013年に発表した『雇用の未来』という論文では、AIやロボット技術の進化に伴う、2030年の労働する人々に求められる能力について論じられています。

そして、その論文で、今後働く人々にとって、最も必要とされると予測されたスキルが、「戦略的な勉強(Learning Strategies)」なのです。


(『勉強の戦略』本文より)

「終身雇用の崩壊」や「人生百年時代の到来」などが予測される日本でも、「リスキリング(学びなおし)」という言葉が広まりつつあります。

「社会人こそ勉強をすべき」という時代だからこそ、時間がない中でもどれだけ戦略的に勉強できるのかが問われるようになってきているのです。

そもそも勉強で結果を出すには、「効率×時間」で生み出せる価値を、いかに大きくするかが大切です。

勉強を教える人の中には、「とにかく気合でがんばれ!」と言う人もいます。

なぜなら、「戦略なしのゴリ押し」でも、ものすごく時間をかけさえすれば、勉強はできてしまうからです。

大学受験などは、とくにそうですね。出題範囲は決まっているので、ものすごく時間をかけて、それを網羅するような勉強をすれば点数は取れます。

このような勉強の体験が染み付いていることにより、「気合で時間をかけることこそが正しい」と大人になっても信じている人が多いことに、私は問題意識を抱いています。

いっぱいやったらできる。そんなことは当たり前なんです。

もし、あなたの人生において、勉強が一番大切で、勉強が一番好きなことだとすれば、ゴリ押しで時間を使ってもいいと思います。

でも、皆さんには、そんなヒマはありませんよね。

たとえば、社会人の方ならば、仕事や家庭、趣味と両立しながら、勉強もしないといけないことでしょう。

勉強に時間を割きつつも、ビジネススキルも磨いて、社内でのパフォーマンスをきちんと高めて、最終的なビジネス上の成果を出さないといけない。

それなら「とにかく時間をかけて量をこなそう」なんて言っていられません。

ここで気づくべきは、「時間」はみんな等しく有限だけれども、「効率」はやり方によって変えられるということです。

「たくさんやったほうが成果はでる」というのは、確かにそうです。ただ、戦略を立てるか立てないかで、たくさんやったときの効果はまったく違ってきます。

また、どうせ勉強するなら、ちゃんと戦略を練ったうえで、「時間あたりの学習の生産性」を最高に上げた状態で行ったほうがいいでしょう。

勉強のコツは、全体像をつかむこと

では、どうやって戦略を立てればいいのでしょうか?

戦略というのは、全体像が見えていないと立てにくいものです。

たとえば、初めて本格的に野球というスポーツをするとき、あてずっぽうにやってもなかなか上達しません。

「とりあえずバッティングしてみよう」とテキトーにバットを振り回しても、いつまでもボールには当たらない。

それどころか、変なクセがついてしまうかもしれませんよね。

だからたいていの場合、コーチなどの「すでにできる人」に教えてもらうことが推奨されます。

もしコーチがついてくれていれば、「まずはこの練習をやってみましょう」と、今の自分のレベルに合ったトレーニングを教えてもらえます。

すでにできる人には「できるようになるまでのルート」、つまりゴールまでの全体像が見えているからです。

だから、「今のあなたがどの位置にいるのか?」「ゴールにたどり着くには何が足りないのか?」と、逆算して判断することができるのです。

勉強でも同じです。

まずはできるようになるまでの「全体像」を把握するのが大切です。

そうでないと、ひとりでひたすらバットを振って奇妙な打撃フォームを身につけてしまったり、肩やヒジに負担のかかる投げ方をしてケガをしたりするはめになってしまいます。

世の中には「もうすでにわかっていること」がたくさんあります。

「こういう局面なら、こうするのが普通です」「こうするのが成功確率の高い方法です」と。定石の勝ちパターンがあるわけです。

とくに、勉強のように長い間行われてきたことには、「もうすでにわかっていること」がたくさんあります。「資格試験対策では、出題形式に慣れるために過去問を解いておく」「単語を習得するには、使用頻度が高いものを収録した単語帳からやってみる」といった基本的な勝ちパターンが存在します。

そのような情報は、自分で探すよりも専門家から教えてもらうほうが効率的です。

ただし、皆さん全員が「コーチをつけて勉強する」というのは難しいと理解しています。そのため、私は、こうして本を書くことによって、なるべく多くの人に勉強の「勝ちパターン」を知ってほしい、と思ったわけです。

勉強の戦略は、この4ステップで立てられる

ここで「勉強の戦略」の立て方を、簡単に解説していきます。

もちろん勉強するジャンルによって、細かな戦術は違います。


ただ「目標のために何かを学び、身につける」ための道のりは、ジャンルの違いにかかわらず、ある程度は共通しているのです。

戦略的な勉強は、次のようなステップで行います。

まずは、目標を明確にして、そこから逆算することで細かい課題を発見します。

たとえば、「海外でビジネスパーソンとして活躍すること」を夢見ているなら、この目標から逆算して考え、具体的な段階を設定します。

海外で働くためには英語力が求められます。ここでは、リスニングやリーディングなどの英語の基礎スキルを示す指標として「TOEIC®テスト」で高得点を獲得することを課題にしたとしましょう。

さらに、TOEICで高得点を取るために必要な知識やスキルとして「リーディングスキルを上げる」や「リスニングスキルを上げる」というさらに細かい課題を設定することができます。


(『勉強の戦略』本文より)

次に、課題の優先順位を考えて、その課題に取り組むコストとリターンについて考えます。

人間誰しも、時間やエネルギーは限られています。そのため、自分にとって最も重要な課題に優先順位をつけ、タスクを管理する必要があります。

たとえば、TOEICの勉強では、苦手なパートや重要度の高いパートに集中的に取り組むことが重要です。苦手な「リスニングの会話問題」に時間を割くのと、試験の配点が高い「長文読解」のどちらに時間を投下したほうが、最終的にリターンが大きいか判断するのと同じように、社会人の勉強での「やるべき」か「やるべきではない」かの判断基準を設ける必要があります。

とはいえ、自分一人ですべての課題を解決しようとするのは大変です。そこで、そのジャンルが得意な人や経験豊富な人の力を借りることも覚えましょう。

たとえば、「英文法」の理解が追いつかないと感じた場合、説明上手な先生に個別に教えてもらったり、わかりやすい解説動画や参考書を利用したりすることで、効率的に学習できます。

最後に、効率的な勉強を習慣化する方法を知っておくといいでしょう。

学習効果を最大化するためには、効率的な学習方法と習慣化が欠かせません。

たとえば、スキマ時間を最も効率的に活用できるように編み出された「5分だけ勉強法」で文法を勉強したり、勉強の習慣をつけるために冷蔵庫の中に単語帳を忍ばせておいたりといった勉強の仕組みづくりを行い、自動的に勉強をするような環境を構築するべきなのです。

(岡 健作 : スタディーハッカー代表取締役社長)