夏休みも終盤、読書感想文の書き方のコツをご紹介します(写真:EKAKI/PIXTA)

夏休みに宿題として出され、多くの子どもたちを悩ませる読書感想文。「子どもたちに、本を読む楽しさを知ってほしい」と思う反面、「自分も書くのが苦手だったな……」と思う方も少なくないのでは?

そこで東洋経済オンラインでは、プロの書評家・三宅香帆さんが小中高校生の読書感想文の課題図書を読み直し、本気で読書感想文にする企画を実施。「読書感想文のコツ」を届けつつ、「想いを文字にする楽しさ」「本を読む楽しさ」を子どもたちに知ってもらうことを目指します。

約8週間にわたってお届けする短期集中連載の第6回は、「読書感想文の宿題をなかなかしない子どもに、親ができるアドバイス」という観点で解説していきます。

夏休みも終わりに差し掛かってきましたが、夏休みの宿題で読書感想文という項目があったとき、頭を悩ませるのは、宿題を出された本人よりも、宿題を出された本人の親御さんなのかもしれません。

というのも、読書感想文は、算数ドリルや漢字のプリントのような「正解のある」宿題ではないから。しかし宿題として出された場合はなんとか指定枚数ぶんをクリアしなければいけませんよね。

はたして読書感想文の書き方を教えることはできるのでしょうか?

読書感想文を教えていて、いちばん困る瞬間とは?

読書感想文を教えていて、いちばん困る瞬間はどこか。それは、お子さんの「言葉が出てこない」時、ではないでしょうか。

何を書けばいいかは、前回までの読書感想文の書き方で、ある程度わかっている。具体的に好きな箇所を説明して、その感想を自分の体験にあわせて書けばいい。あるいは、もう少し応用を試してみたい子なら、自分の体験ではなく本のテーマや構成に注目して書くのもいいでしょう。そのように、何を書けばいいか、はある程度誘導することができる。

しかし、何を書けばいいかは教えられても、その子自身の言葉――たとえば「面白かった」なのか「驚いた」なのか「感動した」なのか「もやもやした」なのか、そのような語彙を生み出すプロセスで詰まってしまう子も多いのではないでしょうか。

語彙力がないから、読書感想文で自分の感想を言語化しようとしても、うまくいかない。そんな悩みを親子でもったとき、大切にしてほしい考え方があります。

言語化において重要なのは語彙力ではなく「細分化力」

というのも私は以前、『推しの素晴らしさを語りたいのに「やばい!」しかでてこない―自分の言葉でつくるオタク文章術』という本を書きました。そのなかで、「推し活」で自分の推しの魅力をプレゼンしたい時の言語化のコツについて解説したのです。

読書感想文でも、推し活でも、何かの感想やプレゼンを発信するときのコツ。私は、それが「細分化力」にあると思っています。

そう、読書感想文は、推しの魅力をプレゼンすることとほとんど同じだと捉えていいのです――自分の「推したい」本について語ること。それが読書感想文なのです。


読書感想文でも、推し活でも、たまに「語彙力がないから、言語化がうまくいかない」という声を聞きます。しかし実はそういう場合のほとんどにおいて、語彙力よりももっと重要なものがあります。

言語化において、重要な技術。それは語彙力ではなく、「細分化力」なのです。

たとえば、印象に残った台詞について、感想を言語化していくとしましょう。

「自分が何に感動したのか?」「どこを面白いと思ったのか?」「なんであの場面にモヤモヤしたのか?」「この違和感を覚えたのはなぜなのか?」

そう問いかけてみても、言葉が出てこないかもしれません。その時やるべきは、印象に残った台詞や場面を、まずは「具体的に」挙げていくことです。

おすすめしたいのは、印象に残った台詞や場面のページに付箋を貼っていくこと。私も普段は書評を書く際、本のページの端を折ったり、付箋を貼ったりして、どこが印象に残ったのか「具体的に」覚えておけるようにしています。とりあえず1箇所でもいいので、印象に残った箇所に付箋を貼ってもらいましょう。


こんなふうに付箋を貼っていきます(筆者撮影)

そして付箋を貼ったあと、とくに印象に残った場面や台詞やキャラクターがどういうものだったのか、本人に具体的に説明してもらいます。

ここで重要なのは、たとえば「●●というキャラクターが可愛かった」だけではなく「●●というキャラクターが可愛かった。どういうところが可愛かったかというと……」と細かく具体的に挙げてもらうことです。

なぜ私がこんなに細かく具体的に挙げよというのか。それは、感想のオリジナリティは「細かさ」に宿るからです。

たとえば本の感想が「面白かった」としか書けないという悩みは、本の「どこが」面白かったのか考えていくなかで、解消されていきます。この本の「この行動が」自分と違う価値観に基づいていて驚いた、「この台詞が」自分にも言われているようで感動した、「このキャラクターが」いちばん印象に残った。そんなふうに面白かった箇所を細分化していくと、どんどん自分の言葉が生まれていきます。

たとえば「考えさせられた」という言葉しか出てこないときも、「どこが?」「どんなふうに?」と細かく具体的に深掘りしていくことによって、言語化がうまくいくことが多いのです。

「細分化」することで言語化しやすくなる

細分化さえできれば、語彙力なんてなくても、言葉が出てきやすくなる。なぜなら言語化というと、何かをそっくりそのまま言い換えることのように思われますが、実際はそうではないから。言語化とは、「どこが」どうだったのかを、細分化してそれぞれを言葉にしていく作業なのです。

もちろん、語彙力があるに越したことはありません。本を読んでいると、たくさんの語彙が手に入って、それによって自分の使える言葉が増えていくという経験は絶対に存在します。

しかし同時に、語彙力さえあれば言語化がうまくいくというものではない、ということもまた事実。語彙をたくさん知っていても、その語彙を使うタイミングがわからなければ、やっぱり言語化はうまくいきません。

言語化とは、細分化である。自分の言いたいことを細かく掘り下げていくことで、自分の言葉が生まれてくる。そのことをぜひ、覚えてみてください。

もしお子さんの読書感想文を指導していて、言葉が出てこないタイミングがあったら。ぜひ、どこに面白さを感じたのか、付箋を貼ってもらい、その付箋を貼った箇所について詳しく説明してもらいましょう。そのなかで言葉が出てくるようになります。どういう言葉が自分の感情を説明するのに適切なのか、考える訓練を積めばいいんです。

細かく、具体的に。そのことを意識して、ぜひ読書感想文をお子さんと一緒に楽しんでみてくださいね。

(三宅 香帆 : 文筆家)