2023年のWBCをともに戦った栗山英樹監督と村上宗隆選手(写真:東京スポーツ/アフロ)

今年開催されたワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で優勝した日本。主力メンバーの1人である村上宗隆選手は大会中、打撃不振で苦しんでいました。スターティングメンバーから外すという話も出ましたが、栗山英樹監督(当時)は起用を続けました。その後、村上選手は準決勝で逆転サヨナラ打、決勝でもホームランを放つなど大活躍します。

村上選手を起用し続ける決断の裏には、栗山氏の強い思いがありました。日本代表のヘッドコーチだった白井一幸氏がその舞台裏とチームビルディングの重要性を解説します。

※本稿は白井氏の新著『侍ジャパンヘッドコーチの最強の組織をつくるすごい思考法』から一部抜粋・再構成したものです。

会議をするのは「正解がないから」

そもそもなぜ会議があるのか? 正解がないからです。この方法をとれば100パーセント成功する。クライアントが満足する。売り上げが上がるというものがわかっていたら、それを伝えるだけで完結します。

でも答えがないから、みんなでアイデアや意見を言い合うわけです。正解を探すときに、いろんな見方でいろんな意見があったほうがより効果的な判断ができるので会議が開かれるのです。

それなのに、何か発言すると、「もっとまともな意見を言えよ」「そんなのうまくいくわけないだろ」と否定される。これではメンバーは何も言わないほうがいいと考えて当然です。頭ごなしに否定はしなくても、「それは違うな」「わかってないな」という考えが態度や言葉の端々に出ていないでしょうか?

指導者のスタンスとは、どんな内容であれ、「意見を言ってくれてありがとう」です。5人の参加者がいたとして、5人それぞれの考え方、アイデアは違います。そして、みんなで議論しながら答えを見つけ出していくのですから、どんな意見でも、「誰も考えていなかった発想を出してくれてありがとう」と感謝するものです。

「いいね。あー、そうなんだ。そんなこと考えたこともなかった」

「そういう考え方もあるかもしれないよね」

「まったく違う見方で面白いな」

手を叩いて相手の意見を聞くような場なら、全員の考えをテーブルの上に乗せられるのに、多くの会議ではテーブルに乗せた途端に「それはダメ!」と外されてしまいます。誰だって自分の意見が外されるんだったら、乗せないほうがいいと考えます。

まずは全員の意見をテーブルの上に乗せる。そこから「今日は何がいちばんいいかな? 何からやっていく?」と、みんなで決めていく。取捨選択していくわけですが、乗せてくれた意見はすべて財産でしかありません。

栗山監督「村上選手は必ず大事な場面で大仕事をする」

今回のWBCでも、打撃不振だった村上宗隆選手を外す話が出ました。栗山監督は「言いづらいことだったと思うけど、正直に言ってくれてありがとう。チームのことを考えてくれてありがとう」とコーチ陣に感謝の言葉を述べました。

言ってくれたことに感謝されたら、意見した側は救われます。そのうえで栗山監督はこんなふうに答えました。

「去年三冠王を取った選手が、代表チームのなかで苦しむことが真の成長になるんだ。ほかではこんな苦しみはないんだから、彼には大いに苦しんで乗り越えてほしい。彼が成長するためには、ここを乗り越えることが必要なんだ。長い目で見たときの彼の成長だけじゃない。必ず大事な場面で彼は大仕事をするんだ。だから、使わせてくれ」

ここまで言われたら、コーチからすれば「監督に任せましょう」となるわけです。もし、あの場面で「おれが決めることなんだから、余計なことを言うな」というコミュニケーションを取られたら、コーチ陣はその後、みんなで口を閉ざしたでしょう。

これは会社の報連相も同じです。

「言いづらかったと思うけど、いち早く報告してくれて感謝してるよ。これですぐに対応できる。いつも報告してくれって言ってるけど、ほんとうに勇気をもって報告してくれてありがとう。今回のことは残念だけど、今後のことは、またこれから一緒に考えようじゃないか」

こういう感謝をしてくれる人のところには、また報告が、連絡が、相談がきます。指導者の多くは「報告をしろ!」と常日頃から言っているのに、悪い報告に行ったら「なんでそんなことになったんだ!」と言い始めるわけです。それなら部下は、報告に行かないほうがいいと思って当然です。相談なんかできるはずがありません。

栗山監督の「信じて、任せて、感謝する」はすべてのことに関してです。だから、安心安全空間が生まれるわけです。

みんなで決めたことが100点の答え

いまは答えのない時代です。一人では見つからないし、ひとつではないかもしれないから、個性を活かして、全員のアイデア、考え、思いをテーブルの上に乗せて答えを探しましょうというのが会議です。

だから、その場の全員が参加しなければ会議ではありません。参加していないのと同じです。まずは「全員が考えを出してくれてありがとう。テーブルの上に乗せてくれてありがとう」から答え探しがスタートします。集めた意見のなかからどうやって100点の答えを導いていくのでしょうか?

100点の答えがあるとしたら、意見をすべてテーブルに乗せて、みんなで議論して決まったことです。決まったことは100点が大前提になります。

「これは決まったことだから、みんなでやろう」

そうやって同じ方向を向くとうまくいく可能性も高いし、成功しなかったとしても、何が原因だったのかがよく見えます。それは次への学びです。しかし、コミットメントがバラバラだったらうまくいかない可能性も高いし、失敗したときに何が原因だったのかよくわかりません。100点の答えは、みんなで考えて、みんなで決めたこと。この大前提があるから、みんなが会議で決定したことに対して積極的に行動していくわけです。

うまくいかなかったら、「残念だったね。悔しいよね。これはうまくいかなかったんだ。じゃあ、どうしようか?」とまた会議をしたらいいのです。大事なことはみんなが自信をもって積極的に行動していくことです。

どんな結果が出たとしても、みんなで決めてみんなでやったことですから、確かにゴールには到達できなかったかもしれませんが、できていることを認めて「ここまでは前進できているじゃないか。次やろうよ。さあ、何やろう? またテーブルの上に乗せてみよう。何をするか決めよう」というサイクルで回る会議ならみんな大好きになります。

関わり方次第でまったく違うことが起きる

これは組織が決めた会議だけではなく、個人でも有効です。


「ちょっと、この案件うまくいかないんだけど、みんな知恵を貸してくれる?」

こんなふうに仕事で行き詰まったら、部署のみんなに声をかける。

「おぉ、任せといて! 30分だけなら時間取れるから。よし、みんなで会議室行こうか」その30分でテーブルの上に意見をブワーっと並べてみる。

「おーすごいね、みんなありがとう」

「どれにしようか?」

「じゃ、これやってみるよ」

そして、結果が出たら、「この前の会議で決めたことでうまくいったよ」と報告する。あっという間に組織になっていきます。会議1つとっても、関わり方次第でまったく違うことが起きるわけです。

(白井 一幸 : 2023WBC侍ジャパンヘッドコーチ)