キャンプデービッドで、アメリカのバイデン大統領、韓国の尹大統領と首脳会談を行う予定の岸田首相(写真:Bloomberg)

日韓首脳が、8月18日(現地時間)にジョー・バイデン大統領とともに、アメリカのキャンプデービッドで3カ国首脳会談を行うことになれば、深刻な関係悪化に陥っていた日韓関係が目覚ましく改善したこの1年の華々しい総仕上げにふさわしい。

もう1つの同盟関係の「脅威」

今回の首脳会談では、3カ国の安全保障協力を制度化しようというバイデン政権の試みを示すものとなるだろう。同政権は、3カ国を情報共有、ミサイル防衛、サイバーセキュリティ、核抑止力強化に基づいて構築される疑似的な同盟関係に組み入れようとしている。

アメリカの安全保障当局関係者にとって北朝鮮、中国、ロシアといったもう1つの同盟関係が強化されていることは新たな脅威であり、こうした取り組みにつながっている。実際、7月下旬にロシアのセルゲイ・ショイグ国防相は、中国共産党の高官とともに、意味深な平壌訪問を行っている。

韓国政府と日本政府の双方に対する核抑止の誓約、いわゆる「拡大抑止」を強化するアメリカの取り組みもまた、北朝鮮、中国、ロシアの連携を活性化させた可能性がある。アメリカと韓国は、ショイグ国防相の平壌訪問に先立ち、ソウルで新たに創設された核協議グループ(NCG)の初の公式会議を招集し、アメリカの国家安全保障の高官カート・キャンベル氏がこれに出席した。

キャンプデービッドの首脳会談では、この1年間に3カ国が達成してきた成果に「新たなもの」が加わるだろう。それは、まだ交渉中であるものの、北朝鮮と中国、そしてウクライナでの戦争に言及し、安全保障に関する共通の認識と利益を提示する共同宣言の形で現れるかもしれない。

危機が発生した場合の相互協議に関する協定も議論されている。半導体の協力や中国との技術関係など、経済安全保障問題も首脳会談に含まれている。

しかし、アメリカ側が本来用意していた議題に対しては、この内容は不十分である。

アメリカ側は、事実上、韓国と創設したNCGを広げて、3カ国の拡大抑止を議論する場を作りたいと考えている。しかし、こうした計画に対して日韓両政府が反対したと、韓国およびアメリカの高官は筆者に明かしている。

日本の当局者は、日本政府の政治的な制約を超えると思われる、核に関する多国間協議に警戒している。韓国側は、今年に入ってバイデン、尹両大統領の首脳会談で採択された2カ国間のワシントン宣言の重要性が薄れることを望んではいない。

アメリカの安全保障当局関係者は、6月にシンガポールで開催された3カ国防衛相会議で正式に発表されたミサイル防衛情報をリアルタイムで共有するという先の合意と、対潜水艦およびミサイル防衛のための3カ国共同訓練の確立を追求することを望んでいた。

進展をはらむ脆さへの懸念

過去にも重要な会議が開催されたキャンプデービッドで、独自に首脳会談を開催することのニュース性はあるだろう。だが、この会談の背後には、こうした進展がはらんでいる脆(もろ)さに対する懸念がある。

バイデン政権は、日韓の現政権が交代しても存続できる協力体制を作り上げるために、この1年間の成果を永続的なものにしようとしている。背景には、日韓両国が強く感じているように、アメリカの選挙でこれらの同盟関係に対する責任を実際に取らない人物がアメリカ大統領の座に戻る可能性へのおそれもある。

一方、日韓関係についても過去ほど悪化しないとしても、弱体化させようという勢力はかなりいる。岸田文雄首相と尹錫悦大統領はどちらも、人気の低迷と指導力を疑問視する声に苦しめられている。歴史問題が再浮上する可能性もゼロではない。また、日米韓の間には戦略的な違いがあるが(特にアメリカ)、これはほとんど放置されたままだ。

バイデン政権が効果的な地域貿易戦略を打ち出せないことは、3カ国における安全保障の進展を台無しにするものだ。最も明白で効果的な協力の手段は、依然として環太平洋パートナーシップ協定(CPTPP)である。

韓国がCPTPPに参加した場合、特に中国がこのパートナーシップに参加しようとしている場合、明らかなメリットがある。しかし、バイデン政権は、国内の政治的理由から、その動きを公然と進めることはできない。

中国との全面的な経済戦争は避けたい

日本側は、中国との全面的な経済戦争への道を避け、中国政府に関与する方法を模索し続ける必要性について、韓国人と同じ見解を共有している。

田中均元外務審議官は最近、次のように記している。

「米中対立が激化する中、日本は安全保障を提供してくれる国と経済の重要なパートナー国の間に挟まれ、ますます微妙な状況に陥っている。アメリカの信頼できる同盟国として、一方的な現状変更を抑止し、地域の安定を維持するための同盟の枠組みを強化することに、日本は注力している。同時に、対中政策について重大な議論と多様な見解があるものの、中国との地理的な近接性、広範な人的つながり、強固な経済面の結びつきは、緊張状態を慎重に乗り切り、不必要な不安定や混乱を回避しなければならないことを示唆している」

アメリカにも当てはまることだが、皮肉なことに現在の政治情勢では、こうした現実について率直な議論をすることができない。しかし、わずからながらだが、変化の兆しはある。

3カ国の安全保障協定に向けた進展が困難に直面するとすれば、その最大の要因は植民地と戦時中の歴史の問題を真に解決することなく日韓関係を推し進めようとする試みである。関係正常化は、主に韓国での政権交代の結果であるが、以前の進歩的な政権の時でさえ、関係が深刻に悪化している状態を変える必要があるという思いが強まっていた。

尹大統領は、韓国の国内政治において反日的な言い回しを使うことを非常に明確に拒否し、徴用工問題、福島原発汚染水排出をめぐる議論、輸出管理問題、2018年のレーダー照射事件などの安全保障協力に対して残り続ける障壁を一方的に解決するための措置を講じた。

尹大統領の対中姿勢は「日米に指示されてる」

尹大統領の支持率は低位安定しているとはいえ、韓国政治における分裂状態は変わらない。最大野党の共に民主党(国会では過半数占めている)は、激戦が予想される来春の国会議員選挙に向けて準備を進めている。

尹大統領が取り組む外交・安全保障政策と、国内経済改革について、進歩派は真っ向から問題点を主張している。これには、福島の汚染水排出、労働政策改革をめぐる労働組合との対立、徴用工賠償訴訟における一方的で見返りの伴わない決着、尹大統領が日米への従属的政策によって韓国の独立性を毀損しているといった非難が含まれる。

韓国の左派は、尹大統領の対中姿勢は日米に指示されたもので、韓国経済を危険にさらしていると主張する。韓国経済は、韓国からの半導体、電池、その他の技術製品の中国への輸出が急激に減少していることで、部分的に成長の減速に苦しんでいる。

一方、日本政府は韓国ほど危機に直面していない。筆者が今冬東京で聞いたところによれば、日本のエリート政策関係者の間では、尹大統領が関係改善のために重大で政治的に危険なステップを踏んでおり、その努力を支援することが日本の利益であるとの認識が共有されている。

だが、岸田首相は歴史問題で大幅な譲歩をすることには消極的で、おそらく政治的に不可能だった。強制労働の被害者と、その子孫に対して補償をするために韓国が利用する基金への資金提供を日本企業に促すことについては特に、だ。岸田首相はまた、日本の戦時中の行動や植民地支配の問題に直接取り組むことを望んでいない。

このことは韓国人に広く知れ渡っており、尹大統領があらゆる面で一方的に譲歩したが、日本側は本質的に何もしなかったという韓国人の見解につながっている。

封じ込められた「歴史問題」

岸田首相は、自民党の保守的かつ、歴史修正主義的な力によって事実上制約を受けている。次期選挙で自らがコントロールを握れる立場にならないかぎり、歴史問題で必要な措置を講じることは難しい都感じているかもしれない。とはいえ、岸田首相自身、歴史問題にもっと直接的に向き合うことに、個人的な関心や信念を示したことはない。

歴史問題は事実上、封じ込められ、解決済みでもあるという信念が日本政府にはあり、アメリカ政府も共鳴し、韓国の大統領府もある程度は受け入れている。それはおそらくキャンプデービッドの首脳会談の結果に反映されるだろう。しかし、それは幻想であり、危険なものとなる。

(ダニエル・スナイダー : スタンフォード大学講師)