初心者が手を出してはいけない投資について解説します(写真:Ki-fu-/PIXTA)

岸田内閣は、2023年を「資産所得倍増元年」とし、「貯蓄から投資へ」のシフトをすすめていますが、これから投資を始める人にはおすすめできない、リスクの高い投資もあります。『「お金の増やし方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』の著者の1人である藤吉豊さんが、100冊の書籍に書かれてあった内容をもとに、初心者が手を出してはいけない投資について紹介します。

名著100冊を精読して得た「気づき」

僕たちは今回、お金の増やし方について書かれた名著を「100冊」精読し、そのエッセンスをまとめるという作業を行いました。その作業の中で、多くのお金のプロたちがすすめるお金の増やし方・貯め方・使い方がわかった一方で、もう1つ、重要な気づきがありました。

それは、複数のお金のプロが、「投資の手法としては有効だけれども、初心者が手を出すのはおすすめできない」としている投資法があることです。お金のプロたちは、

「初心者にはリスクが大きすぎる」

「投資に詳しくなるまでは手を出してはいけない」

「投資にうまい話は存在しない」

などの言葉で、いくつかの投資を紹介していました。

ここでは、お金のプロたちが「初心者がいきなり手を出してはいけない」としている投資法とその理由、そして、お金のプロたちがいう「うまい話」とはどういうものかをご紹介します。

お金のプロたちの本の中には、「FXで稼いだ」という声もありましたが、半数は「投資の初心者はやらないほうがいい」という意見でした。そもそも、FXとは何で、なぜ初心者にはおすすめできないのでしょうか。

●FX……「Foreign Exchange(外国為替)」の略称。「外国為替証拠金取引」ともいわれる。

※「証拠金」とは最初にFX会社に預けておく資金のこと。

FXの取引では、異なる国の通貨を交換・取引することで、為替レートの変動による差で儲けます。基本は「円高のときに外貨を買って、円安のときに高く売る」ことで利益を得ます。

例えば、円高ドル安のときにドルを買って、円安ドル高のときに売るとその差が利益となります。為替変動の傾向や動向を研究して、うまくつかめれば、儲けにつながります。


出所:『「お金の増やし方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』

少ない資金で大きな投資ができるが、リスクもある

FXのおもな特徴は、次の3つです。

(1)ほぼ24時間取引ができる

日本の株式市場は取引できる時間が決まっています。一方、FX市場は、東京だけではなく、ニューヨーク、ロンドン、シドニーなど、世界各国にあるため、平日は24時間市場が開いています。自分のライフスタイルに合わせて、朝でも夜でも取引ができるというメリットがあります。

しかし、いい面だけではありません。お金のプロの中には、夜中も市場が気になり「精神的に消耗した」という人もいました。夜中も市場が気になれば、気が休まるときがありません。

(2)最大25倍までレバレッジが効く

FXはFX会社の口座に証拠金(取引に必要な資金)を預けて取引をします。その際、「レバレッジ」を利用できます。レバレッジとは英語で「てこ」のこと。小さな力で大きなものを動かすことを指します。

FXでは最大で、証拠金の25倍まで取引ができます。1万円の証拠金を預けた場合、25万円分の取引ができる。つまり、小さな資金で大きな取引ができるのです。

少ない資金で大きな取引ができるのは魅力でもありますが、一方でリスクでもあります。

例えば、レートが1ドル=100円のとき、4万円の証拠金で100万円分、つまり、1万ドルを買ったとします(レバレッジは25倍になる)。その際、為替が1円、円安になれば1万円の儲けが出ますが、反対に為替が1円、円高になれば、1万円の損失となってしまいます。4万円を元手に儲けようとして始めたはずが、またたくまに3万円に減ることもあります。FXは「ハイリスク・ハイリターン」の取引といわれるのは、このためです。

(3)金利差を利用した「スワップポイント」がある

「スワップ」とは交換の意味です。「スワップポイント」とは、2国間の金利差から得られる利益のことです。

FXでは、低金利の通貨を売って高金利の通貨を買うと、保有している間は、金利差分の利益を得られます。ただし、買った通貨よりも、売った通貨のほうが、金利が高い場合は、金利差を支払うことになります。


出所:『「お金の増やし方のベストセラー100冊」のポイントを1冊にまとめてみた。』

FXは、当たれば大儲けできますが、失敗するとすぐに大損をしてしまいます。そのため投資を深く理解しないうちは、やらないほうがいい、ということです。ただし、こうしたリスクを理解したうえで、それでも始める場合は、証拠金を多く入れて、外貨を少しだけ買う「低レバレッジ戦略」から始めることがすすめられていました。

投資の初心者はFXには手を出さない。始めるのであれば、FXについてはもちろん、国際情勢や国際経済、日本経済をよく勉強する。そして、低いレバレッジからスタートするのがいいでしょう。

不動産投資には肯定的なマネー本が多い

「不動産投資は損をするだけ」「投資初心者は不動産投資に手を出すべきではない」といった意見がある一方、その約4倍の冊数のマネー本が、不動産投資に肯定的でした。

「私の資産の基盤は不動産だ。不動産は安定していて値動きがゆっくりなので気に入っている。資産の基盤はしっかりしたものにしておきたい。それに、不動産はそこからのキャッシュフローもけっこう安定しているし、うまく管理すれば価値が上がるチャンスもある」(ロバート・キヨサキ『改訂版 金持ち父さん 貧乏父さん』/筑摩書房)

不動産投資は2つに大別できます。

●REIT(不動産投資信託)に投資する方法

●不動産そのもの(実物)を買う方法

さっそく説明していきます。

(1)少額から始めたい人はREITを活用する

不動産投資の1つ目「REITに投資する」とは、アメリカで生まれた不動産投資信託への投資のことです。REITは投資信託の一種で、投資家から集めた資金を使って不動産を購入し、その不動産を賃貸したときの収益や、売却によって得られた収益を投資家に分配します。

実際に不動産を持ったり、賃貸住宅の経営をしたりすることなく(家賃の集金や入居者のトラブルに対応することなく)、不動産に投資できます。また、数万円程度の比較的少額から始められることから、投資初心者が不動産投資をしたい場合には、REITは取り組みやすいといえるでしょう。

(2)初心者はとくに気をつけたい不動産そのものを買う方法

不動産投資の2つ目、「不動産そのもの(実物)を買う方法」とは、不動産(区分マンション/マンション内の一戸ずつの物件、戸建て住宅、一棟アパート、一棟マンションなど)を購入し、利益を得ることです。

不動産そのものを買って利益を得る方法は、次の2種類です。

●キャピタルゲイン(資産の売却で得る利益)

不動産を購入し、値上がりしてから売り、売却益を得る。

●インカムゲイン(保有していることで得る利益)

購入した不動産に人に住んでもらい、家賃収入を得る。

不動産投資をする場合にはよく理解してから

マネー本に書かれていた、実物の不動産への投資のメリットとリスクをまとめると、次のようになります。

(実物の)不動産投資のメリット
●多くの場合、銀行から融資を受けて物件を買う。つまり、他人の資本で投資ができる。
●入居者に住んでもらい、家賃を得るしくみができると、安定した収入が得られる。
●管理会社やリフォーム会社をうまく使えば、自分はあまり動かなくてもいい(会社員でもやりやすい)。
●インフレに強い。不動産は現物資産(=ものと同じ)であるため、物価が上昇すると、価格が上がりやすい。
●相続税対策になる。理由は、「土地や建物の価値は時価(実勢価格)よりも7〜8割程度に安く評価される」ことと「不動産を人に賃貸すると相続税の評価額が低くなる」ため。

(実物の)不動産投資のリスク
●不動産の保有中は固定資産税や管理費などの経費がかかる。
●不動産が値下がりする可能性がある。
●家賃が下がる可能性がある。
●空室や家賃滞納のおそれがある。
●購入するには多額の資金が必要。
●修繕費や管理費などがかかる。
●現金が必要になったときにすぐに現金化できない(すぐに売れない。手続きも必要)。急いで売ろうとすると買いたたかれる。
●倒壊、火事、自然災害などのリスクがある。

「不動産投資」に否定的なマネー本の著者たちが、「投資初心者は不動産投資に手を出すべきではない」といっているのは、この実物を買うほうの不動産投資です。

「不動産投資」に肯定的なマネー本の著者たちも、「不動産投資をする場合はよく理解してから」と口を揃えます。両@リベ大学長さんも、著書『本当の自由を手に入れる お金の大学』(朝日新聞出版)で「動く金額も大きいからしっかりと勉強してから手を出すべき投資やな」と書いています。

実際にどんな物件に投資をしたらいいかは、「戸建て住宅」「アパート一棟」など意見が分かれていました。

気をつけるべき物件として、複数のマネー本で注意喚起されていたのは、「新築ワンルームマンション(区分所有=一部屋単位での購入)投資」です。理由は、

「新築マンションは買ったときが一番高く、買ったらすぐに価値が下がる」

「業者の資料に『家賃保証』と書かれていても、高い家賃を保証してくれるのは最初だけ」
などです。

「投資」と「ギャンブル」は違う

投資を始める前には、リスクについての理解を深めなければならない、というのは、前回の記事(『「お金の増やし方」名著100冊読んでわかった共通技』)でお話ししたとおりです。


ただ、リスクとリターンは比例関係にあるため、基本的に「リスクを取らずにリターンを得る」ことは不可能です。「うまい儲け話はない」のが投資の世界です。

どんな投資であっても、「毎月10%の配当を受け取れます」「上場間近なので必ず儲かります。元本保証します」「A社の株をお持ちでしたら高値で買い取ります」といった「うまい儲け話」を信じてはいけません。

「『元本保証でリターンがこんなに!』みたいな広告を見かけることもあるけれど、そんなことはあり得ない。感覚値だけれど、年に3%以上の利回りを保証するものは、巧妙にリスクが見えにくいスキームになっているか、詐欺かのどちらかだと思ったほうがいい」(cis『一人の力で日経平均を動かせる男の投資哲学』/KADOKAWA)

「伝説の億万長者」と呼ばれた本多静六さんも、「助平根性」を出すことを戒めています。「人間はだれしも欲がふかいものであるから、そうそうあるはずのないウマイことずくめに釣られてしまいやすい。これはちょっと冷静に考えればすぐわかることであるが、小金が貯まると、世にいう助平根性が出てくるのでうっかりするとつい乗ぜられてしまう場合がある」(『私の財産告白』/実業之日本社)

投資は、元本が保証されていません。「損する可能性がある」ため「投資は、ギャンブルのようなもの」だと考える人もいます。

しかし、マネー本の著者は例外なく「投資とギャンブルは違う」と指摘します。リスクがあっても、それにふさわしいリターンが期待できるものが投資です。振り子が右だけに振れることも、左だけに触れることもないように、投資もまた、リスクとリターンは表裏一体です。言い換えれば、投資の世界では、リスクがなく(小さく)、リターンが大きい「ノーリスク(ローリスク)・ハイリターン」の金融商品は存在しません。

資産を運用する際には、その前提を正しく理解し、自分が取れるリスクの範囲内でリターンを追求することが大切です。

(藤吉 豊 : 文道代表取締役)