5月末に投入したSUV「CX-50」。急速なNEVシフトが進む中国で、あえてエンジン車ならではの特長をアピールし反転攻勢を図る。写真は北米仕様車(写真:マツダ)

「われわれは中国市場で急速に進む電動化に対応すべく、現地パートナーと対応を検討している最中であり、同市場からの撤退は考えていない」

8月8日に開かれたマツダの2023年度第1四半期(4〜6月)決算会見で、ジェフリー・エイチ・ガイトンCFO(最高財務責任者)はそう強調した。

注目が集まる中での決算会見だった。マツダより先に発表された国内自動車メーカーの決算では中国市場の苦戦が鮮明になっており、その対策にメディアの関心が集中していたからだ。

中国市場で苦戦する日系自動車メーカー

日産自動車は第1四半期に早くも中国での通期販売見通しを、期初の113万台から80万台(前年度比15.4%減)に大幅下方修正。中国事業について「危機意識を感じている」「このままではいけない」と繰り返した内田誠社長は、中国市場への今年度新規4車種投入や海外市場向け車両の中国生産の検討といった挽回策を打ち出した。

中国市場からの撤退が噂される三菱自動車は、中国での販売計画を期初の2.7万台で据え置いたが、そもそも前年度比44%の大幅減という数字である。同社は3月から湖南省・長沙工場での新車生産を停止しており、現在も再開の目処は立っていない。加藤隆雄社長は「構造改革の方向性が明確になったらお伝えしたい」と撤退を示唆するような発言もした。

ふたを開けてみると、マツダも中国事業は大きく落ち込んでいた。

第1四半期における中国の販売台数は前年同期比17%減となる2万台にとどまった。そもそもマツダの中国での販売は、2017年度の32.2万台をピークに2022年度には8.4万台まで縮小。2023年度は48%増の12.5万台を目指しているが、現状は反転増どころではない。

川村修・常務執行役員は、「中国市場は電動化のスピードが速く、マツダの競合となるガソリンエンジン搭載車でも価格競争が激化しており、販売台数が減少した」と厳しい表情を見せた。ガイトンCFOは、「第2四半期までの取り組みや実績を踏まえ、中間決算のタイミングで通期台数見通しの見直しも検討していく」と通期見通しの下方修正も示唆した。

もっとも、グローバルの数字はさほど悪くない。

第1四半期のグローバル販売台数は30.9万台で前期比32%増を記録した。前年同期には上海都市封鎖に伴う供給制約が日本や欧米にも及んでいた。その回復があることに加え、マツダが「ラージ商品群」と呼ぶ中大型の上級SUV(スポーツ多目的車)が販売を伸ばした。

中国とASEANが台数を大きく落としたものの、”最重要市場”であるアメリカの好調がその影響を補い、年間130万台のグローバル販売計画に対して「概ね計画通り」(川村常務)の進捗だという。

営業黒字化した業績はそれなりに健闘

結果、第1四半期の売上高は1兆909億円で、前年同期比76.8%増と大きく伸びた。営業利益は300億円(前年同期は195億円の赤字)と水準こそ低いが、リコールに関わる品質費用増加が150億円の利益押し下げ要因となったことを勘案すれば、それなりに健闘したといえる。

日欧などに昨年から導入している「CX-60」と、4月にアメリカで発売した「CX-90」のラージ商品群は、マツダ車の平均と比べて「台当たり利益がほぼ2倍」(ガイトンCFO)で、収益力の改善に貢献している。

不振の中国事業は出資の持ち分法適用であることも、連結売上高や営業利益が伸びた理由だ。もちろん、持ち分法投資利益だからといって中国の不振を放置していいわけではない。第1四半期の持ち分法投資利益は、前年同期の80億円から17億円に減少しており、このままでは通期業績の足を引っ張ることは確実だからだ。

中国ではEV(電気自動車)を含む新エネルギー車(NEV)への急速な転換が進んでいる。2022年の中国の自動車販売は前年比2.1%増の2686.4万台だったが、このうちNEVは前年比93.4%増加となる688.7万台、全体の25.6%を占めた。2023年1〜6月のNEVの販売台数は374.7万台で、販売台数全体の28.3%まで成長した。

NEVのシェア拡大が続くということはつまり、日本勢が強みを持つハイブリッド車を含むエンジン車の市場が縮小していることを意味する。パイの縮小が値下げ合戦を引き起こし、中国市場では販売面だけでなく、収益面でも厳しい状況が続く。

そうした中で、マツダも決して手をこまねいているわけではない。毛籠(もろ)勝弘社長はこれまで、中国事業の今期を「反転を始める年だ」と強調してきた。一昨年から反転攻勢に向けた体制を整えてきた。

2021年には、中国の現地合弁2社である長安汽車との「長安マツダ」と中国一汽との「一汽マツダ」を事実上統合すると発表した。現地ニーズに即応できる体制を作るとともに、販売網の再編も進めてきた。

7月には中国一汽系への生産委託契約の終了で合意した。広報担当者は「中国市場の動向や中国市場におけるマツダ車のラインナップなどを勘案し、生産終了を判断した」と理由を明かす。中国でのマツダ車の生産を長安マツダに集中させ、生産効率の向上を狙う。

また、これまで北米専用だったSUV「CX-50」の中国生産を開始し、5月末にガソリンモデルを投入した。「オフロードでの使用など、エンジン車らしい特長」で、中国の消費者を惹きつけることを期待している。CX-50効果もあってか、5月、6月と中国での販売台数が今年に入って初めて7000台を突破。11月にはCX-50のハイブリッドモデルも投入する予定だ。

NEVを投入する2025年頃まで我慢は続く

中期的には、2025年頃にBEVとプラグインハイブリッド(PHEV)を設定した2車種を中国で発売する計画。現地の合弁相手である長安汽車と共同で開発しており、「”緊急モード”で活動を進めている」(ガイトンCFO)という。

とはいえ、2車種の導入は当分先。少なくとも1年半ほどは厳しい局面が続くことになる。毛籠社長は7月中旬に、「内燃機関車の価格下落はある程度続くという想定を置かざるを得ない。したがって、足元の採算は非常に厳しいものになるだろう」「これからの約1年半で、販売店を含めてどう反転に向かって準備を進めていくのかが当面の課題になる」と語っていた。

東海東京調査センターの杉浦誠司シニアアナリストは、「中国では、今まで日本車やドイツ車を購入していた顧客層が国産NEVに食われてしまっている。対策ができないメーカーから負けていくだろう」と分析する。

新車種投入まで我慢が続くマツダ。大手メーカーでさえ販売台数を落とす中で、中堅メーカーが反転攻勢を仕掛けられるか。さらなる縮小が続けば、三菱自動車のように撤退も検討せざるを得なくなる。


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(村松 魁理 : 東洋経済 記者)