猛暑だから売れるモノ、外に出ない人(写真・izumousagi / PIXTA)

内閣府が8月15日発表した実質国内総生産(GDP)1次速報では、輸出が増加して全体は高成長だったものの、個人消費は前期比マイナス0.5%と減少した。

個人消費の弱さは月次の統計でも示されている。

総務省が8月8日に公表した家計調査によると、2023年6月の実質消費支出(2人以上世帯)は前年同月比4.2%減と、4カ月連続のマイナスとなった。季節調整値による前月比は0.9%増と、5カ月ぶりのプラスとなったが、4〜6月期は前期比3.0%減と、3四半期連続のマイナスとなった。

人流データが示す「弱い消費」

もっとも、筆者はGPSの人流データを用いた分析から、「『小売り・レストラン』の人流データは6月にかけて減少している」としていたことから、弱い消費は想定内である(7月21日のコラム「デフレ脱却」できないことが日本経済を救う皮肉)。また、人流データからは7月の個人消費も振るわない可能性が高い。


一方、8月8日に公表された7月の景気ウォッチャー調査は、景気の現状判断DI(季節調整値)が54.4(前月差プラス0.8ポイント)と2カ月ぶりの上昇、先行き判断DI(同)が54.1(同プラス1.3ポイント)と3カ月ぶりの上昇となり、比較的好調な結果だった。

同日に公表された2つの統計はまちまちな結果となったが、言うまでもなく、主観的なアンケート調査など「ソフトデータ」である景気ウォッチャー調査より、実際の経済活動の結果を集計した「ハードデータ」である家計調査や人流データのほうが正しいだろう。

このところ景気ウォッチャー調査と実質消費支出は乖離している。


2つの統計の乖離の理由として考えられるのは、企業サイドの調査である景気ウォッチャー調査には「インバウンド消費」の影響が含まれる一方、日本の家計に対する調査である家計調査にはこれが含まれない点が挙げられる。

また、企業サイドが「貨幣錯覚」に陥っている可能性もある。

6月の実質消費支出は前年同月比マイナス4.2%だったが、名目消費支出は同マイナス0.5%にとどまっている。インフレ高進の影響で名目消費支出はそれほど減っていない。

総じて、筆者は日本の内需に対する「期待」が高すぎると感じている。いずれかのタイミングで実質消費は弱含んでいることなどを背景に、日本の成長見通しやインフレ見通しが想定より弱いことになるという話題が注目されるだろう。

「猛暑」は消費にプラスか

2023年の夏の消費について、「猛暑」が日本経済にプラスかどうかという議論がある。気象庁によると7月の平均気温(東京と大阪の単純平均値)は28.8℃となり、強烈な「猛暑」だった2018年の28.9℃に迫った。なお、2018年は「災害級の暑さ」という語が同年の新語・流行語大賞トップテンに選出されているほどの猛暑だった。

7月の景気ウォッチャー調査でも「猛暑」「暑い」といった単語を含むコメントが多かった。


関連コメント数比率(現状)は2018年7月の24.5%には及ばなかったが、2023年7月も10.2%まで上昇した。

景気ウォッチャー調査の「景気判断理由集」では、下記のようなコメントがあった。

《ポジティブ》
「猛暑による飲料関連の需要増加を期待したい」(輸送業〈営業担当〉)
「暑さの影響で季節商材が好調となっており、単価もメーカーの値上がりの影響で微増となっている」(家電量販店〈従業員〉)
「月末に近づくほど猛暑日が続いて、冷たい飲料、アイスクリーム等が大きく伸長し、購入客もかなり多い」(コンビニ〈経営者〉)

《ネガティブ》
「猛暑の影響で外出をためらう人もみられる。暑い日の中心市街地は閑散としており、残念な結果となっている」(商店街〈代表者〉)
「猛暑で外出を控える人が増えており、例年の夏のような来客数まで伸びてこない」(美容室〈経営者〉)

影響は基本的には「まちまち」で、マクロでは重視する要因ではないだろう。

なお、筆者が行きつけの美容室で個人的に「景況ウォッチャー調査」したところ、「猛暑なので髪を切りたい人が多いようで、お盆前の予約は例年より多い」(美容室〈スタッフ〉)というものだった。

本家「景気ウォッチャー調査」のコメントにあった「猛暑で外出を控える」という可能性はゼロではないが、実際にはインフレ高進による節約の影響が大きく、それを「美容室〈経営者〉」が「猛暑」のせいにしているのではないか、と筆者はみている。

実際に、「暑」という単語を含んだコメントと含まないコメントの「現状判断DI」の間にはそれほど差はないことが確認されている。

猛暑は「マインド」には悪影響?

他方、「マインド」に与える影響は無視できないようである。

現状の結果ではなく先行きのマインドを示す「先行き判断DI」を比較すると、「暑」を含むDIが含まないDIを下回った。これは、記録的猛暑となった2018年以来のことである。


前述したように景気ウォッチャーが他の要因を「猛暑のせい」にしている可能性には注意が必要だが、「猛暑」が企業のマインドにネガティブな影響を与えている面はありそうである。「景気は気から」と考えると、「猛暑」の影響は無視できないかもしれない。

(末廣 徹 : 大和証券 チーフエコノミスト)