「水曜日のダウンタウン」が指し示すバラエティの未来とは?(画像:「水曜日のダウンタウン」TVerのサイトより)

16日、「水曜日のダウンタウン」(TBS系)が“TVer史上初”となる累計再生回数1億回を突破したことが明らかになりました。

初めて配信された2020年12月16日から約2年半が過ぎた2023年8月9日の放送回で1億回に到達。偉業達成を記念して、TVerとTBS FREEで過去の名作回15本の期間限定無料配信が行われています。

「水曜日のダウンタウン」は2021年と2022年にTVer配信のバラエティ番組で最も再生数が多かった番組に贈られる「TVerアワード バラエティ大賞」を2年連続受賞。さらに今年の1〜3月期、4〜6月期の番組再生数ランキングでも、それぞれバラエティの断トツトップとなる1425万回、1308万回を記録していました。

1億回を超えるバラエティ断トツトップの再生数は、現在のテレビ業界やコンテンツビジネスにおいて、どんな意味があるのか。どこにも忖度することなく、現状と現実を解説していきます。

炎上紙一重とギャラクシー賞の両立

「水曜日のダウンタウン」は、芸能人・有名人たちが自分だけが信じる“説”を独自の目線と切り口でプレゼン。その“説”をVTRやスタジオトークで検証するという構成のバラエティ。大御所のダウンタウンがMCを務めている一方で番組の主役は週替わりの企画であり、「毎週いかに面白い“説”を生み出していけるか」がカギを握っています。

ただ、週替わりのランダムな企画で勝負するというコンセプトは、「本来当たり外れが分かれやすくコンスタントに数字を獲ることが難しい」と言われる構成。その点、「水曜日のダウンタウン」は2014年春のスタートから、炎上と紙一重の独創的な企画を発信し続け、視聴者の信頼感をジワジワとつかんでいきました。

たとえばドッキリは昭和から現在までバラエティの定番であり、近年ではYouTubeでもよく見られるようになりました。しかし「水曜日のダウンタウン」のドッキリは、「『ベッドの中に人がいる』が結局一番怖い説」「芸人解散ドッキリ、師匠クラスの方が切ない説」「落とし穴に落ちたのに一向にネタばらしが来ないまま日が暮れたら正気じゃいられない説」など、他番組やYouTube動画では見られない斬新な切り口を連発してきました。

さらに、悪意をベースにした企画ばかりではないことも当番組の強み。「徳川慶喜を生で見た事がある人 まだギリこの世にいる説」「先生のモノマネ プロがやったら死ぬほど子供にウケる説」「新元号を当てるまで脱出できない生活」「おぼん・こぼん THE FINAL(解散ドッキリ)」「昭和はむちゃくちゃだった系の映像、全部ウソでもZ世代は気付かない説」がギャラクシー賞の月間賞を受賞しました。硬軟織り交ぜた企画と予定調和をよしとしない演出は他番組との差別化となり、「自ら選んで見たいものを見る」配信での視聴につながっています。

ただ、「水曜日のダウンタウン」は終始、順風満帆だったわけではありません。特に2014年春の放送開始から2010年代後半までは、たびたび“世帯視聴率”の低迷を複数のネットメディアに叩かれていました。いくつかの企画を「やりすぎ」「危ない」などの批判につなげて打ち切り説を報じられることが少なくなかったのです。

実際のところ、そのようなネットメディアの批判は明らかなミスリードでした。「水曜日のダウンタウン」はスポンサー受けがよく取引での指標となりやすい“コア層(主に13〜49歳)の個人視聴率”は高い数値を記録していたのです。

2020年代に入って評価一変の理由

そんな逆風に流されることなく、企画のクオリティを保ち続けたことで、2020年代に入ると風向きが一変。まず2020年春に視聴率調査がリニューアルされ、民放各局がコア層の個人視聴率獲得に向けた番組制作を一気に進めるようになりました。民放各局の変化によってネットメディアは世帯視聴率という指標を使いづらくなり、「水曜日のダウンタウン」を叩く材料がほぼ消滅。逆にコア層の個人視聴率を獲得できるバラエティの代表格として称えられる機会が増えました。

さらにコロナ禍の巣ごもり需要を経て、配信でのテレビ番組視聴が浸透。全体の配信再生数が急増したことで、視聴率に次ぐ評価指標として組み込まれはじめました。そんな配信をめぐる状況が劇的に変わる中、「水曜日のダウンタウン」はTVerの再生ランキングでは常に上位をキープするほか、前述したように「TVerアワード バラエティ大賞」を2年連続受賞。“視聴者に選ばれるNo.1バラエティ”というポジションを確立したのです。

今回の1億再生突破に際して演出の藤井健太郎さんは、「1億回という数字に実感はありませんが、1番になれたことは有難いし、誇らしいです。また、我々制作者にとっては、どんなに面白くてもリアルタイムで見てもらえなければ成績に反映されなかった番組作りに、評判がよければ遡って見てもらえる仕組みができたことは思っている以上に大きくて」とコメント。1億という数字より、苦しい時代を乗り越えてやっと正当な評価をしてもらえるようになったことを喜んでいるようでした。

藤井さんは、「TVerのこういった数字が評価の対象となることで、純粋な“面白さ”を追求しやすくなりますし、そうすることで、視聴者の方々とも以前よりWin-Winの関係に近づけている気がします」とも語っていました。これは「今後はもっともっと純粋な“面白さ”を追求していけるし、それが視聴者ファーストになる」というポジティブなメッセージに見えます。

その純粋な“面白さ”の追求こそ、ゴールデン・プライム帯だけで100を超えるバラエティが放送される中、「水曜日のダウンタウン」が突出した存在になった理由。クレームを恐れて表現の自主規制をする番組が多くを占める中、「水曜日のダウンタウン」は時に批判を受けながらも面白さ優先の方針を変えず、常に炎上スレスレの線を攻めてきました。

『水ダウ』成功を物語る33年前の予言

奇しくも12日に放送された特番「ダウンタウンvsZ世代」(日本テレビ系)の最後に、“今では考えられない放送”として1990年に放送されていた「EXテレビ」(日本テレビ・読売テレビ系)が紹介されました。その内容がまさに「水曜日のダウンタウン」成功の理由を示しているようだったのです。

「EXテレビ」で上岡龍太郎さんが“テレビ界の現状”として、「(番組に)抗議してくる奴がおるんですかね。ほんの一部のバカのために他のもんが迷惑をこうむっている」「しょせんはエンターテインメントの部分にまで口さしはさんでくるんです」「(抗議によって狭まった)その枠の中でしかテレビが作れないということになってくるんで。『面白い』という意見、『楽しかった』『凄かった』『よかった』という意見だけでテレビを作っていけば枠は広がっていくはずなんです」などと語っていました。

約33年前に、現在にもつながる問題提起をしていたことに驚かされますが、「ほんの一部の抗議に負けず、『面白い』という意見で制作している」という点が「水曜日のダウンタウン」のことを語っているように見えたのです。

一方、他のバラエティに目を向けると、グルメ、クイズ、カラオケ、生活情報、時事などの手堅く視聴率を稼ぐような企画が目白押し。いずれも面白さではなくマーケティングに基づいた企画であり、特に2010年代は視聴率の低下を止めるためにこれらに偏ったことで、「テレビは似た番組ばかりでつまらない」というイメージを与えていました。現在もその偏りは解消されていませんが、「水曜日のダウンタウン」が1億再生という圧倒的な支持を得たことでバラエティは純粋な面白さを追求する時代に回帰できるのか。大きな分岐点が訪れているのかもしれません。

その他でも、「CMをまたいで同じ映像を流さない」「意味ありげなあおり映像を繰り返し見せない」「キャスティングなどの忖度をしない」など現在の視聴者が嫌うことをしない制作姿勢も支持を集める理由の1つでしょう。これらは他のバラエティも「できるはずなのにやろうとしないこと」であり、その理由は主に「ビジネスとして目先の視聴率を獲らなければいけないから」と言われてきました。そんな状態が続いていただけに、「水曜日のダウンタウン」が今回のような形で脚光を浴びることは意義深いのです。

バラエティのライバルは何なのか

先日、東洋経済オンラインで 「ドラマ見逃し配信『○万回突破』が続出するウラ側」という記事を書きましたが、冒頭に挙げた今年1〜3月期と4〜6月期のTVer番組再生数ランキングの上位は、ほぼドラマで占められています。

バラエティは最上位の「水曜日のダウンタウン」でも1〜3月期が10位、4〜6月期が12位であり、ドラマとの差は歴然。バラエティはゴールデン・プライム帯の8割前後を占める民放各局の基幹コンテンツでありながら、「まだ配信ではあまり見てもらえていない」という課題を抱えているのです。

ドラマが配信でこれほど見てもらえるのは、「YouTubeやTikTokなどのSNSでは見られないコンテンツだから」であり、「ライバルはNetflixなどの有料動画配信サービス」などと言われています。ただ、両者には無料と有料という違いがあり、日本人はまだまだ無料を選ぶ傾向が強いだけに、現時点では切迫した状況には至っていません。

一方、バラエティが配信ではあまり見てもらえていないのは、「ライバルのYouTubeやTikTokなどのSNSに勝てていない」「アニメやアイドル関連などの推し活コンテンツも強力なライバルに浮上したから」などと言われています。

ゴールデン・プライム帯だけで100超のバラエティが放送されているだけに、これらをいかに「水曜日のダウンタウン」のように配信再生数を稼げる番組にしていけるのか。番組数の多さを考えると、その成否がテレビ業界の未来を左右していくでしょう。

さらにこれは裏を返せば、「バラエティが配信で見てもらえない状況が続いたらYouTubeやTikTokなどのSNSを筆頭にネットコンテンツの影響力がさらに高まっていく」ということ。だからこそ「水曜日のダウンタウン」はテレビ業界にとって希望の星であり、バラエティにかかわるテレビマンにとって目標とすべき重要な番組なのです。

(木村 隆志 : コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者)