歯学博士が警告「すべての老いは口から始まる」
口の力が衰え、会話や食事で悩んでいる人が若い人たちの中でも増えている。現代人の口の老化の現状と、その対策法を紹介します(写真:buritora/PIXTA)
最近、滑舌が悪くなった、食事をしていると噛み疲れする、気づいたら食べこぼして、シャツに染みができる。そんなことはないでしょうか。食べ物をうまく噛めないといった「口の老化」は、高齢者の話と思われるかもしれません。しかし、日本歯科医師会の調査を見ると、近年の柔らかい食べ物への変化もあって、10代〜50代の若い人たちの方にも高齢者ではないのに、口の力が衰えている人が増えているといいます。
若いのに口の力が衰えている、いわゆる「老け口」なって、「食事で噛んでいるとあごが疲れる」「かたいものが噛み切れない」といった症状で、悩んでいる人も少なくないようです。
歯学博士の照山裕子氏の著作『食事でムセる かみ切れない 口臭が気になる人のための口の強化書』から一部抜粋・編集して、現代人の口の老化の現状とその対策法を紹介します。
若い人たちが、70代よりも噛めていない?
わたしたち日本人はどのくらい口の機能が弱っている状態になっているのか。最近の調査結果で、口腔機能の実態があきらかになってきました。日本歯科医師会による、全国の15歳から79歳の男女1万人を対象に実施した「歯科医療に関する一般生活者意識調査」(2022年)によると、10代は「噛む力」が未発達の傾向があり、ふだんの食事について聞いたところ、「かたい食べ物よりやわらかい食べ物が好き」が53.6%、「かたい食べ物を食べるときに噛み切れないことがある」が40.3%と、全年代のなかで最多となりました。
これはつまり、10代は70代よりも、食べ物を“噛み切れていない”実態があきらかになったというわけです。
加えて、「食事で噛んでいるとあごが疲れることがある」と答えた10代は48.3%で、70代のなんと2.7倍にも上り、さらにいえば、70代が各年代で最も数値が少ないという事実から鑑みると、若年層から中年層の口腔機能の発達が不十分な疑いを表す結果になっているのです。
口が老化することで何が起こる?
では、具体的に口の老化によって何が起こるのでしょうか。
口の老化といわれると、 歯の本数や「噛む力」だけを気にする 人がいますが、 口の老化は、それだけではありません。なぜなら、「自分の口で食べる」ためには、歯だけではなく、口全体の機能が大切になるからです。
口のなかの機能は互いに関連しているため、1つひとつの機能としてではなく、口全体として考える必要があるわけです。
まず、食べることは、おおまかに次の「4つの口の力」で成り立っています。
これら4つの力のうち、1つでも弱まると、さまざまなことに支障が出てしまいます。
【4つの口の力】
❶噛む力
❷舌の力
❸唾液量
❹飲み込む力
口の力の衰えは、すべての年齢層で見られ、体全体の不調につながる「オーラルフレイル」の予備軍として、いま問題になりつつあります。
オーラルフレイルとは、「口が老化」したいわゆる「老け口」の状態であり、「口の機能が弱っている状態」を指す言葉です。
口が老化していくことで、かたいものが噛み切りづらくなったり、大きめのものや粘り気のあるものを飲み込みづらくなったり、ムセやすくなったりするなどの症状が表れるようになります。
すると、弾力のある肉類や、繊維質の根菜類や葉物類の野菜などが食べづらくなって避けるようになり、たんぱく質やビタミン類といった栄養素をうまく摂ることができず、栄養バランスが崩れます。
こうした衰えが、口から体全体へとつながっていき、全身の機能が弱っていく「フレイル」にいたる恐れがあります。
また、舌の筋肉が弱ると、会話をするときに、言葉の滑舌が悪くなるといった変化もあります。
一般的には、60代後半あたりから顕著になるといわれていますが、早い人では40代後半あたりからこうした変化が表れることも珍しくありません。
「老け口」を防ぐには?
では、どうすればよいのか。それが4つの口の力を同時に鍛えられる「かみかみリズム体操」です。「かみかみリズム体操」は、誰でも手に入りやすいグミを使って行うことをおすすめしています。
グミと聞いて、あまり「噛む力」や口の健康と結びつかない人もいるかもしれませんが、わたしが専門とする補綴学の分野では、グミは咀嚼能力検査で長く使われており、信頼度の高い材料です。
グミを使うことで、次の4つのメリットが得られます。
❶噛みごたえを自由にコントロールできる
なぜ「かみかみリズム体操」はグミを使うのかというと、グミにはいろいろなかたさの商品があるため、自分で自由に噛みごたえを選ぶことができるからです。
たとえば、「噛む力」が弱っていたり、歯にあまり自信がなかったりする人は、やわらかいものを選んで気軽にはじめることができます。
商品によっては、噛みごたえをわかりやすく数値化して表記されているものもあるので、その日の気分によって選んでみてもいいでしょう。
「鍛えられてきたな」と感じたらよりかたい、数値の高いものに挑戦する楽しみもあります。
❷舌を使った複雑な咀嚼運動が期待できる
グミは、「複雑な噛みごたえ」に特徴があります。弾力があり、口のなかで次々と変わるかたちや大きさの変化に適応するために、食べるだけで、舌を使った複雑な咀嚼運動ができ、結果的に舌や口まわりの筋肉を、楽しみながら鍛えることができます。
❸唾液が増える
❷と関連しますが、グミを食べるだけで、口のなかの複雑な機能をたくさん使うことから、自然と唾液が出るようになります。
❹甘いからおいしく楽しく続けやすい
グミを間食で食べるついでにできますし、甘くておいしいグミでできるので、続けやすいというのも特徴です。とくに子どもなどは、喜んで自ら実践してくれているようです。
また、「かみかみリズム体操」は、のちに紹介する「毒出しうがい」とセットで行いますから、口のなかに残った細かいグミ(食べかす)をしっかり洗い流すことができます。
「老け口」防止のための「かみかみリズム体操」
では、「かみかみリズム体操」の具体的なやり方です。
まずは、舌の力をつける「舌ポジリセット」を行います。
(出所:『食事でムセる かみ切れない 口臭が気になる人のための口の強化書』)
1.好みのかたさのグミを口に含み、舌の上にのせます。
2.舌を使って、グミを歯ぐきの裏側にぐっと押し付け、その状態を10秒キープします。
次に行うのが「3・3・7拍子がみ」です。
(出所:『食事でムセる かみ切れない 口臭が気になる人のための口の強化書』)
1.「舌ポジリセット」のグミを舌で左側の歯に持っていき、3・3・7拍子のリズムで噛みます。
2.次に舌で右側の歯にグミを持っていき、右側の歯でも3・3・7拍子のリズムで噛みます。
3.さらに左側で同様に噛みます。飲み込めるくらいまで、2〜3を繰り返して、飲み込みます。
新しいグミで、「舌ポジリセット」と「3・3・7拍子がみ」をもう1度繰り返します。
最後に仕上げの毒出しうがいです。
(出所:『食事でムセる かみ切れない 口臭が気になる人のための口の強化書』)
1.上の歯をきれいにする
30㎖程度の水(口のなかで水をかき回してみて、全体に水が回るくらい)を口に含み、口を閉じます。そのまま口に含んだ水を上の歯に向けて、クチュクチュとできるだけ大きな音になるように強く速くぶつけます。10回ぶつけたら、水を吐き出します。
2.下の歯をきれいにする
同じように口に水を含み、その水を下の歯に向けて、1と同じように強く速くぶつけます。10回ぶつけたら、水を吐き出します。
3.左の奥歯をきれいにする
同じように口に水を含み、その水を左の歯に向けて、強く速くぶつけます。10回ぶつけたら、水を吐き出します。
4.右の奥歯をきれいにする
同じように口に水を含み、その水を右の歯に向けて、強く速くぶつけます。10回ぶつけたら、水を吐き出します。
やる気UP効果も期待できる
毒出しうがいの水は、吐き出すのが一番いいですが、吐き出す場所がなければ飲み込んでも構いません。ただし、重度の歯周病の人は、吐き出すことをおすすめします。
水が理想ですが、お茶でも構いません。
食事でムセる、噛み切れないといった口の老化からくる「老け口」といえる症状の改善だけでなく、唾液の分泌が促されたり、口呼吸の改善が期待できたりするため、口臭予防にも役立ちます。また、今回、「かみかみリズム体操」の前後で自律神経の測定をしたところ、やる気やパフォーマンスを上げる効果も期待できそうです。
ぜひ、やる気が出ないときや重要な仕事、会議の前にも試してみてください。
(照山 裕子 : 歯学博士)