連日の猛暑、エアコンを効率よく活用しながら快適に暮らすための工夫を紹介します(写真:fizkes/PIXTA)

日本列島の各地で連日、猛暑が続いている。ここまで暑いと、住宅の中で過ごすのも大変。折からの物価高と電気料金の上昇により、エアコンをフル稼働させて過ごすのも気が引けてしまうが、熱中症予防のために適切な使用が求められる。だから、せめてエアコンを効率よく活用し、省エネ・節電に努めながらできるだけ快適に暮らせるようにしたいものだ。

手軽にできることを徹底する

そうした観点から、住まいにおいてできることを整理してみたい。気軽にできる工夫もいくつかあるので、トライしてみるといいだろう。加えて、これから住宅を取得しようという方のために、「夏」のリスクを回避するという視点でも、いくつか注意点を挙げてみたい。

まずは、エアコンそのものを効率よく使用するために徹底すべきこと。フィルターの小まめな手入れは基本中の基本だ。稼働方法についても、「自動運転」にする、ON・OFFをと小まめに行わないことなどがメーカーなどから推奨されており実行してみたい。

ON・OFFについては、エアコンは起動する際に大きな電力を必要とするためだ。なお、「1日中エアコンをつけていたほうが電気代はオトクになる」などという話もあるが、これは住宅の断熱性能やエアコンの性能などが関係するため、一概にはいえないようだ。

このほか、室外機の前にモノを置かないことにも効果があるとされている。モノがあると排気熱が室外機に籠もり、冷房効果を損なうためだという。いずれにせよ、これらは自分で手軽にできるので試してみる価値があるだろう。

ちなみに、扇風機(サーキュレーター)を併用することで、27℃程度の設定温度でも快適に過ごせるといわれている。部屋の上下温度のムラを少なくし、風の流れを感じられることで快適さが高まるためだ。

電力料金が気になる人は、エアコン・扇風機の併用をLDKだけに限定すれば、電力料金の上昇を抑えられる可能性がある。


夏の暑さ対策として家族の滞在時間が長いLDKの快適性を高めるのも手段の1つ(筆者撮影)

このように、家族が集まることが多いリビング、熱中症を発症すると危険な高齢者や子どもが過ごすことが多い部屋に限定して省エネ効果を高める手法も、省エネしながら夏の暑さを乗り切る重要な取り組みといえる。

次は、そのLDKなど居住空間の断熱性能を高めることについて考えてみたい。どんな高性能・省エネのエアコンを使っていても、建物の断熱が良くなければ十分な効果が期待できないからである。

窓の断熱性強化も重要

また、これは新築・既存、戸建て・共同住宅(マンション・アパート)すべてに当てはまることであり、多くの人が恩恵を受け快適に過ごすことができるようになる。そこで、とくに断熱を心掛けたいのが窓(開口部)である。

というのも、建物の中で外と内との間で最も熱移動が多く行われるのが窓だからだ。日本建材・住宅設備産業協会省エネルギー建材普及促進センターの調査によると、建物全体の中で開口部からの熱の出入りは夏の日中の冷房時においては日射の影響もあって73%、冬の暖房時には58%になるとしている。

では、どうするか。最も簡単な対策は厚手のカーテンで窓を覆うこと。できれば遮光遮熱カーテンで、床とできるだけ隙間を作らないようにするのがよい。日当たりを気にする人なら、直射日光が強く差し込む時間帯だけでもカーテンで窓を覆うといい。

窓とカーテンの間に空気層ができ、室内の冷気が外に逃げづらくなる。近年、一般的になったペア(二重)ガラスなどと仕組みや考え方は基本的には同じだ。遮光カーテンなら日射も遮るため、より涼しく感じられるはずだ。

カーテンつながりだと、窓の外に「グリーンカーテン」を設けることも効果がある。緑が日差しを緩和するとともに、葉っぱの内部の水分が蒸散することで、室内に伝わる暑さを緩和する効果が期待できる。


本格的な施工をした「グリーンカーテン」の事例(筆者撮影)

インターネットショッピングやホームセンターなどでは、プランターや土、種などがセットになった商品が販売されており、気軽に手に入れることができる。これらも住宅の種類を選ばずトライできるものである。昔からある、よしずやすだれも同様で、これらもあわせて活用するといいだろう。

話を窓の断熱性強化に戻すと、国は今年3月から補助金事業「住宅省エネ2023キャンペーン」を開始している。総額約3000億円に上るもので、「こどもエコすまい支援事業」「先進的窓リノベ事業」「給湯省エネ事業」からなる。

このうち「先進的窓リノベ事業」は、ストック住宅の窓断熱改修を対象に1000億円の予算を計上。省エネ性の高い断熱窓(主に内窓)に改修する費用について、1戸当たり5万円から最大200万円まで補助するものだ。

内窓とは既存のサッシの内側にもう1つサッシを取り付けることで、ペアガラスのような効果を期待できるものだ。なお、窓リノベ事業は8月15日午前0時時点で、全補助金のうち申請額が戸建て住宅で54%、集合住宅で56%に達している。


内窓の事例(筆者撮影)

夏の住まいにおける暑さ対策は、地球温暖化の影響により、ますます重要性が高まる。上記のような制度の利用も含め、窓の断熱性効強化を行うことを考えてみるといいだろう。

新築住宅の省エネ性を高める

以上は、既存住宅を含めたすべての住宅に関する夏の暑さ対策だが、以下では少し新築住宅について触れておきたい。前述したように温暖化の進行を受け、住まいにおける夏の対策の重要性は省エネ・節電だけでなく、防災面でもより重要な留意すべきポイントになりつつある。

そこで、現在、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)など、高気密・高断熱で再生可能エネルギーを活用する省エネ住宅の普及が進みつある。また、2025年4月からはすべての新築住宅に省エネ基準への適合が義務化されることになっている。

新築住宅ではペアガラスサッシがほぼ標準になるなど、築年数が経過した既存住宅に比べ高い省エネ・断熱性能を期待できるが、夏の暑さ対策としてはさまざまな対策、さらには分譲住宅を購入する際の選択もあるのでいくつか紹介しておきたい。

まず、窓辺に緑を配置すること。枝葉が日射を遮り木陰を作ることでリビングなどの快適性を高められる。また、庭も芝生で覆うことで、気温上昇を防ぐ効果を期待できる。これらは、とくに分譲戸建て住宅の善し悪しを見る判断基準になる。


太陽光発電を最大限に活用することも考慮すべき(筆者撮影)

ZEHなど太陽光発電を搭載する住宅なら、家庭用蓄電池をセットで導入することも検討してはいかがだろうか。蓄電池に太陽光の発電力をため、夜間に使用することで電気代削減ができるからだ。

国や自治体で蓄電池の導入に補助金が設けられているほか、最近は太陽光発電を含め初期負担なく(月々の分割)設置できるサービスなども登場しており、設置のハードルは以前に比べて低くなっている。これらは既存住宅でも対応可能なケースがある。

考慮したい集中豪雨のリスク

ところで、夏を基準に住宅取得・選びを考えていくと、これまでの価値観を改めることも必要な状況だ。代表的なのが「南向き住戸」。日当たりの良さから推奨されてきたが、日中の日当たりの強さと暑さを考慮すると、近年はむしろ「北向き住戸」のほうがよりいい住戸と言えるかもしれない。

価値観の変更を迫られる事態はマンションなど共同住宅でも言える。豪雨災害からマンションの電気系統に不調が発生し、上下水道やエレベーターが使えず生活に大きな負担を強いられる、などといった出来事も考慮に入れるべきだろう。

ちなみに、共同住宅だけでなく戸建て住宅でも集中豪雨の際にベランダに雨水がたまり、室内に水が流れ込むケースが近年、見られるようになった。雨水があまりにも大量で、想定されていた排水量を超えてしまうことがあるため、このような事態になってしまうのだ。

既存住宅では排水溝にたまった枯れ葉などを徹底的に取り除くことくらいしか対応策がないが、新築住宅では雨水がたまりにくいベランダの形状にする、またはそうなっている建物であるかを確認することでトラブル回避につなげられる可能性が高まる。

日本の住まいは古くから快適性を考慮するうえで「夏をもって旨とすべし」とされてきた。さらに、年々強まる地球温暖化の影響を考慮すると、災害リスクや家計防衛の観点も含め、私たちは夏への備えを重視した価値観を持って、今後の住まいと暮らしを考えていくべきではないだろうか。

(田中 直輝 : 住生活ジャーナリスト)