信頼される「CSR企業ランキング」トップ500社

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1位になった富士フイルムホールディングス(写真:picturedesk.com/時事通信フォト)

『週刊東洋経済』2023年2月18日号で上位300位まで発表した「CSR企業ランキング2023年版」。今回は上位500社までを発表する。なお、『CSR企業白書』2023年版には上位800社まで掲載している。そちらも参考にしていただきたい。

CSR企業ランキングは2007年に開始し、今回で17回目。『CSR企業総覧(雇用・人材活用編)』『同(ESG編)』2023年版に掲載している1702社を対象にCSR158項目、財務15項目で総合評価を行った(ポイント算出方法など、ランキングについての解説はこちら)。

6年ぶりにトップの富士フイルムホールディングス

では、ランキングを見ていこう。1位は富士フイルムホールディングス(得点は574点、以下同)。2017年以来、6年ぶりにトップに返り咲いた。部門別では、人材活用37位(92.4)、環境29位(94.2)、企業統治+社会性8位(97.8)、財務16位(289.6)とバランスよく得点し、総合力で他社を上回った。


『CSR企業白書』2023年版(東洋経済新報社)。書影をクリックすると東洋経済STOREのサイトにジャンプします

同社は、2030年度を目標としたCSR計画を策定している。環境、働き方、ガバナンスなどの重点課題を提示し、長期視点で取り組みを推進する。ビジネスの利益よりもコンプライアンスを優先する「オープン、フェア、クリア」の精神を徹底しているのも特徴的だ。

ESG推進部・委員会が傘下の事業会社と連携して、グループ全体のリスクマネジメントを行っている。また、ESG指標などの達成率を役員報酬に反映させるといったサステナビリティ重視のガバナンスにも力を入れる。

環境面も先進的だ。グループ会社では、使用済み複合機などの再資源化のほか、太陽光発電パネルの設置による全使用電力の再生可能エネルギーへの切り替えを実施。グループ全体でも、2030年度までに購入電力の50%を再生可能エネルギー由来に、2040年度までに自社利用のエネルギーすべてでCO2排出量ゼロを目指す野心的な取り組みを進めている。

そのほか、社会課題解決への取り組みとして、ケニアで超音波画像診断装置による妊産婦死亡率低減にも取り組む。健康診断が普及していないインドでは、がんなどの早期発見・治療のため健診センターを開設した。

雇用面では、育児・介護離職率ゼロを目指し、取り組みを進める。産休・育休復帰時の本人・上司・人事による三者面談、失効有給休暇を介護目的で取得可能といった各種制度を整える。女性管理職・部長職比率の低さなど課題はあるものの、働きやすい職場を実現しつつある。

2位は日本電信電話(NTT)

2位は昨年トップの日本電信電話(NTT)で572.9点。人材活用12位(95.2)、環境1位(100)、企業統治+社会性1位(100)はトップクラスだが、財務が76位(277.7)でトップには及ばなかった。

グループ会社で、データセンター利用者を対象とした再生可能エネルギーが選択可能な電力メニューサービスを提供し、顧客の多様な脱炭素化の要望に対応する。ロボットやICTを活用して超省力・高品質生産を実現するスマート農業推進など、社会課題解決と事業の両立を積極的に進めている。

人材活用面のレベルも高い。女性管理職比率15.6%、有給休暇取得率91.0%、障害者雇用率2.8%、最大1年6カ月まで取得可能な介護休業など高い数値や制度が並ぶ。

3位は昨年6位から上昇した中外製薬(572)。人材活用44位(91.4)、環境73位(90.7)、企業統治+社会性54位(95.1)と高水準のCSR項目に加え、財務1位(294.8)で医薬品初のトップ3入りとなった。

カンボジアでNPOと共同実施する「がん医療の基盤向上を目指したチーム医療ワークショップ」など、同社の社会課題解決の取り組みには定評がある。親会社のロシュ・グループが行うチャリティーイベントでの募金活動なども多く実施している。また、学識経験者で構成されるサステナビリティ・アドバイザリーコミッティから、CSR活動全般にわたりアドバイスを受けるなど、外部の視点も積極的に取り入れている。


一歩後退となったNTTドコモ

4位はNTTドコモ(570.2)で、昨年2位から一歩後退となった。同社はモバイルICTやIoTを活用した社会課題解決型ビジネスの取り組みを展開する。例えば、地域間の医療格差是正を目指し、過疎地域と大都市の医療機関を5Gネットワークでつなぐことで、遠隔での手術支援や診療支援などを実現している。

5位は昨年12位からトップ10入りした積水ハウス(570)。人材活用は152位(85.7)と劣る面もあるが、ほかでカバーした。同社が手がける新築戸建住宅の9割超は、太陽光発電などでエネルギー収支を実質ゼロにするZEH仕様だ。事業における使用電力も27.5%を再生可能エネルギーで賄う。

6位は三井物産(568.9)。大手商社の中ではトップとなった。同社は人材の育成・定着に取り組む。従業員1人当たりの年間教育研修費用・時間はそれぞれ46万円・35時間とトップクラス。新卒3年後定着率も96%と高水準だ。

以下、7位花王(567.9)、8位KDDI(567.6)、9位NTTデータグループ(567.3)、10位JT(566.7)と続く。

今回、上位で大きく順位を上げたのは62位→9位のNTTデータグループ、118位→38位の日本郵政(552.3)、131位→72位のAGC(538.6)など。

NTTデータグループは、環境負荷の低いハードウェアベンダからの調達を推奨する独自ルールを制定し、グループ全体に展開。日本郵政は、内部通報・告発件数など情報開示が進み、順位を上げた。AGCは、有給休暇取得率が95%に達するなど、人材活用面の評価が上昇した。

ランキング全体で最も順位を上げた企業

本ランキング全体で最も順位を上げたのは768位→431位トーヨーカネツ(451.5)。女性管理職比率や男性育児休業取得率の上昇など個別の取り組みが数字に表れたほか、情報開示が大幅に進み、大きく順位を上げた。
同社を含め、200位以上順位を上げたのは、172位バンダイナムコホールディングス(510.9)、327位山九(476.2)、328位パーソルホールディングス(475.7)、378位クレハ(464.2)、452位三洋貿易(446.8)の6社だった。

CSR企業ランキングは、財務をベースに企業の幅広いCSR活動を評価している。そのため、偏りなくCSR活動を推進している企業が上位になる。

近年、とくに上場企業を中心に、企業はさまざまなステークホルダーから広範なサステナビリティ関連の取り組みが求められている。本ランキングは、そうした要請に応えている「信頼できる会社」を見つける指標として引き続き有用だろう。なお、最新情報は『CSR企業総覧』2024年版(2023年12月発売予定)に掲載予定だ。











(村山 颯志郎 : 東洋経済『CSR企業総覧』編集長)