四大陸選手権ペアSPの三浦璃来/木原龍一組 photo by Getty Images

 日本のペアとして初めて、国際スケート連盟(ISU)主催の四大陸選手権(ペアは2月10、11日)で優勝した三浦璃来と木原龍一(木下グループ)。

 木原は「体力的に厳しかった。(演技後に)頑張って『キス&クライ』には行ったけど、そのあとは何を言ったのかわからないです」と振り返るほど消耗した状態だった。優勝が決まった時、ふたりは大喜びをするわけでもなく、その結果を淡々と受け止めているようだった。

好結果とは裏腹に硬い動きと表情

 さいたまスーパーアリーナで開催される世界選手権を6週間後に控えたこの四大陸選手権。2022年12月のグランプリ(GP)ファイナルで1.30点差の接戦を演じた昨季世界選手権優勝のアレクサ・ケネリム/ブランドン・フレイジャー組(アメリカ)が出場していないなか、三浦と木原のペアはこれまでの実績からダントツの優勝候補と見られていた。

 アメリカ・コロラド州、標高1800mの高地で、気圧が低く空気が薄いリンクのなかの演技。2月10日のショートプログラム(SP)は、少し硬さの見える滑りだった。

 木原はSP曲『You'll Never Walk Alone』についてこう話している。

「当初は深い意味まで考えなかったが......三浦さんがケガをして2カ月間ほど一緒に練習できない時期があったので、その時に今の僕たちを表現するのにぴったりの曲だと思いました」

 最初のトリプルツイスト・リフトはレベル2で、GOE(出来ばえ点)で0点やマイナス1点をつけるジャッジもいた。そんなスタートとなり、次の3回転トーループはふたりとも慎重に入ったが、三浦がダウングレードの判定で転倒してしまった。

 直後のリフトでキレのある動きを取り戻したが、ふたりの表情は硬いままだった。スロー3回転ルッツを無事にクリアし、終盤のステップシークエンスでは少し表情もゆるんできたものの、演技終了後の三浦はまた硬い表情に戻っていた。

 結果は71.19点。昨年11月のNHK杯で出した自己最高得点より7.06点低い得点。それでもジャンプとツイスト以外の4要素はレベル4。昨年の四大陸選手権で4位だったディアナ・ステラート・デュデク/マキシム・デシャン組(カナダ)には2.80点差をつける首位でSPを終えた。

 三浦は「緊張していたのでミスをしてしまったが、ミスが出ても70点以上を確保できたのは、私たちが過去に蓄積してきた成長があったからだと思います」と話した。

 そして木原は「ペアを結成した初シーズンに四大陸選手権に出場して8位だった時、『いつかは(上位選手が対象の)記者会見に出られたらいいね』と話していたが、それが実現できてうれしい」と話した。

 そして高地での演技について尋ねられると木原は、「プログラムの最中も影響はなかったので、精神的な問題だと思います。明日(フリー)も『空気がある』と思ってやれば大丈夫だと思います」と意欲を見せた。

演技終了後はふたりとも倒れ込み...

 翌2月11日のフリー。三浦が「ショートのあとコーチに『緊張しているからよくなかった』と言われたので、フリーは練習から楽しむようにして、プレッシャーはあまり感じないように意識していた」と話した演技だった。

 最初のトリプルツイスト・リフトはレベル3にして、1.95点の加点をもらう滑り出しにした。

 だが、次の3回転トーループ+2回転トーループ+ダブルアクセルは、木原の最初の3回転が4分の1回転不足で両足着氷になり、3連続ジャンプにはしたものの1.68点の減点。

 続くリフトは、レベル4にして勢いを取り戻したかに見えたが、3回転サルコウでは三浦が4分の1回転不足で両足着氷になって減点された。さらに後半のスロー3回転フリップでは右手をつくミスが出た。

 そのあとのスロー3回転ループは、木原がしっかり前に押し出すように投げてクリーンな着氷。終盤のデススパイラルとリフトは体力も切れかかった状態になり、レベルはそれぞれ2と3で得点を上積みできなかった。

 そして演技終了とともにふたりは倒れ込み、息を荒げたままでなかなか起き上がれなかった。

 三浦は「(木原)龍一くんはフリーではいつも最後には倒れ込むけど、今日はそれが激しかったので、標高のせいかなと思いました」と笑う。

 リンクから上がっても木原は立ってブレードのカバーをつけることができず、這ってキス&クライの席までたどり着いた。

 それでも、自己ベストでトップに立っていたエミリー・チャン/スペンサー・アキラ・ハウ(アメリカ、SP3位)の得点を2.90点上回る137.05点を出し、合計を208.24点にして優勝を決めた。

世界選手権優勝へ課題と自信

 だがふたりにしてみれば、今季の3戦はすべて210点台を出していて目標にするのは220点台だっただけに、厳しい条件下とはいえ納得できないものがあったのだろう。それがふたりの表情に出ていたのだ。

「標高が高いなかでフリーへの不安はすごく大きかったし、小さなミスがたくさん出たが、そのなかでも優勝できたことはうれしく思います」(三浦)

「日本人ペアとしてISUの大会で初めて優勝したのはうれしいですし、ふたりで頑張ってきたことが結果として表れ始めたんだと思います。結果を見た日本の若い人たちがペアをやりたいと思ってくれるだろうから、まだまだ頑張らないといけないと思います」(木原)

 次にふたりが狙う舞台は3月の世界選手権。1月下旬に開催されたヨーロッパ選手権の結果を見れば、優勝ペアは195.13点と得点は伸ばせていない。

 それを考えれば次の戦いは、昨季の世界選手権優勝ペアで、GPファイナルでは競り合ったケネリム/フレイジャー組との一騎打ちになるだろう。そのライバルは1月の全米選手権では、非公認ながら227.97点を出して世界選手権代表に決まっている。

 そんな相手と対等に戦うためには、さらなる進化が必要だと考えているふたり。GPファイナルに続く今回のタイトル獲得は、世界選手権に向け自信を積み上げられる結果となった。