シリーズ読者投稿〜忘れられない、あの日の記憶〜 投稿者:Wさん(栃木県・50代女性)

その日、Wさんはドレスとピンヒールという出で立ちで、大阪の街を全力疾走した。そんな彼女の後ろを、12人のスーツの男たちが走る。

一体、何があったのか。Wさんが当時の話を聞かせてくれた。

<Wさんの体験談>

30歳の時の話です。当時私は高級宝飾品の展示会販売などでバリバリ働いていました。月に6〜7回は出張に出て、会社のデスクにもほとんどいられない忙しさでした。

その日は大きな商談が長引いてしまい、展示会が終了したのは予定時間を1時間もオーバーしてから。最終の「のぞみ」(当時は全席指定)に間に合うかどうかの瀬戸際でした。

明日は千葉で商談、なのに...

展示会場の高級ホテルからタクシーに乗り、新大阪に向かいます。でも、もう少しで着くというところで大渋滞に。焦る気持ちが募ります。

「何がなんでも帰らないと、明日の千葉での商談が...」

そして、我慢の限界! 急いで清算を済ませ、脱兎のごとくタクシーを飛び出しました。

でっかいキャリーケースを引っ張り、派手な黒いドレスの裾を握りしめ、10センチのピンヒールで、新大阪の駅を目指して全力疾走!

すると、後ろからバタン、バタンと車のドアの閉まる音が。振り返ってみると、スーツ姿のサラリーマンたちが次々とタクシーを降りて走り出す、走り出す!

総勢13人。一緒に全力で走って、最終の「のぞみ」になんとか乗り込むことができました。

「走りながら考えてましたよ...」

もちろん全員、ドアの周りに座り込んでゼエゼエ、ハアハア。お互いに目が合うと、照れ隠しのように笑いが起きました。

「走りましたねぇ...もう、本当に疲れた〜」と私が言うと、

「いやぁ...貴女の力強く走る姿に励まされましたよ!よっしゃ!行くぞって、アハハ」
「いや、僕もです!間に合わない、もう、泊まりだと諦めるところでした。でも諦めちゃだめだ!って」
「私は、走りながら考えてましたよ。面白い!ガッツがある!間に合わんかったら私がレンタカー借りて、皆を関東まで乗せてやろうって」

と皆さん。談笑する私たちを、車内販売の女性は驚いた顔で見ていました。髪を夜会巻きに結い上げた派手な黒いドレスの女が12人のサラリーマンと笑う姿は異様だったかも......?

新大阪から新横浜までの短い間ですが、楽しい会話でした。そして企業戦士たちは、それぞれの駅で下車していきました。

私は東京駅からタクシーで会社へ。社屋の入り口で馴染みの守衛のお爺さんが「おかえりなさい。いつも遅くまで大変だね」と、いつものように笑顔で迎えてくれました。

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