リモートネイティブ世代が、入社早々に転職をはじめる原因とは(写真:yoshan / PIXTA)

コロナの感染が再び増加し、対面での仕事を再び抑制せねばならない、もどかしい状況となっています。

昨年の後半頃は、感染の減少によって、人と会う機会がかなり復活していました。「やっぱりリモートだけじゃダメだね」などと言いながら取引先との面会や会食を再開させた人もたくさんいました。それだけに「またか」とげんなりしている人も。


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一方、「対面なんて本当に必要?」と考える人たちもいます。そのひとつが、「リモートネイティブ世代」です。

彼らは、コロナ禍の中で社会人になった、入社1〜2年目の若者たち。入社までのプロセスはwebで完結し、入社後は自宅でリモートワークし、web会議をこなすのが彼らの日常です。

毎朝のように満員電車に揺られて会社に通い、オフィスで上司や同じ部署の先輩・同僚たちと顔を合わせる。来客時にはクライアントを上座に通し、名刺交換ではより低い位置で自分の名刺を渡す。そうした、これまで当たり前だったビジネス風景を、リモートネイティブ世代はほとんど経験していません。

このリモートネイティブ世代が、入社早々に大移動=転職(活動)をはじめつつあります。入社後にリアルな対面がないままに辞めてしまった社員が多数出ているのです。

コロナ以前から多くの企業が若手社員の離職問題に頭を痛めていましたが、さらに対策の難易度が高い状況に。では、どのように対策を打っていったらいいのか? 一緒に考えてみたいと思います。

リモート環境でスキルを発揮する人も

「リモートネイティブ世代」の特徴を考えてみましょう。まずは強みから。彼らは、リモートワークが仕事のベースと考え、仕事をこなせる強みがあります。オンライン会議の設定やクラウド上での議事録作成、オンラインホワイトボードの活用などを誰よりも巧みに行える存在として社内で重宝がられていることも。

広告代理店に勤務しているDさんもその一人。クライアントとのリモートによる打ち合わせで2グループに分かれて行うことを希望されたときに「私が手配します」とブレイクアウトセッションを活用して仕切ったことで「頼りになる」と存在感を高める機会になったとのこと。こうした仕事ぶりで先輩社員を凌駕している人も多いかもしれません。

一方、在宅中心の勤務を続けているので、他の社員とのカジュアルなコミュニケーションは十分にとっていません。そのため、人間関係の構築を求められる場面で孤立してしまうことも。

入社1年目のSさんも不安に駆られた一人。Sさんは「オフィスなら気軽に聞けるような仕事に対する相談が難しく、そのまま聞けないで時間が過ぎてしまう」「自分は社会人として通用する存在になっているのか」と悩んでいました。

社会人になっていきなり、組織の一員であることが感じにくく、「帰属意識」ももちにくい環境が続くわけです。その点で成長が抑制され、また離職への心理的なハードルも下げているかもしれません。

勤務時間中に転職エージェントに接触…

会社の席にいないぶん、上司や先輩社員の監視の目は弱く、昼間の時間帯に転職エージェントに接触しやすい状況です。このSさんも、勤務時間中に転職エージェントにエントリー。面談も予約して、キャリアアドバイザーに相談。早々に転職を決めました。彼女が入社してからオフィスに行ったのは3回だけ。当然のように送別会もありませんでしたが、次の職場で頑張るモードに切り替わっているようでした。

ここで気になるのは、もし、Sさんが対面で働く環境で入社していたら、転職していたのかということ。Sさんに聞いたところ「わからない」との回答でした。対面で働く仕事ぶりを体験したことがないのですから、比較するのは難しいですよね。しかし、せっかく入社した会社で十分な経験もできないままに転職を決断、会社にとっても残念な人材流出が続いているわけです。これは、とてももったいない話です。

転職を決断する要因の1つとしてよく聞くのが、コロナ禍がおさまった後、リモートワークができなくなる可能性です。

入社3年目のGさんは、入社から一貫してリモート勤務。それなりに仕事と生活のリズムができてきたのもあり、リモートを前提としてマンションを購入する決断をしました。そこは、現在の職場まで通勤に1時間半以上かかる場所です。しかも、駅まで遠い。ただし、自然に恵まれ、景色も美しいので「この環境で長く時間を過ごしたい」と考えるようになったそうです。

ところが、現在の会社の社長が「コロナが終結する前に全社員が出社できるオフィスに移転する」との話をするようになりました。ということは通勤し、対面で仕事することになります。多くの会社員には当たり前のことですが、リモートネイティブにとっては「違和感のある」状況。対面がゼロとは言わないものの、コロナ前に戻すと言われたらと思うと気持ちが滅入る、ならば、できるだけリモート勤務ができる会社を探そう……そうして動き出す人が増えたりするわけです。

リモートしか知らない人にとって、コロナの終結は大きな転換期なのです。

ただ、リモートネイティブ世代のために、全社的にフルリモートのままというわけにはいきません。会社の生産性向上にはハイブリッド型と呼ばれる対面とリモートの組み合わせも効果的と考えられるようになってきました。リモートネイティブ世代がリモート優先で職場を探すとしたら、それは仕事の選択肢を大いに狭めることにもなります。会社側としても、できればいまの職場で活躍してもらうための工夫を考えたいものです。

「対面ならでは」のメリットが感じられる「体験」を

その方法ですが、まずは職場で「対面ならでは」の魅力を体験してもらうことだと思います。リモートネイティブ世代も学生時代は対面で学習してきました。そこで教師や友人たちと対面で過ごした経験で有意義に感じることはたくさんあったはずです。会社の仕事においても、メリットを感じられる「体験」ができれば、対面に向き合い、退職にもつながりにくくなると思います。

例えば、チームビルディングやコミュニケーションが活発になるなど研修目的のサバイバルゲームで盛り上がる企業があります。いつもと雰囲気がまったく違うミリタリーウェアに身を包めば、誰もがテンションアップしたりします。普段は叱られるばかりの上司や先輩を狙って思い切り連射するなど、ストレス発散にもつながるようです。そこまでのことは無理でも、

・グループワークを交えた会議

・ランチを交えた打ち合わせ

など対面による体験型の機会をいかに提供するかを考え、実行していくことが離職の防止にもつなげられるのではないでしょうか。

人事の世界が注目するキーワードに「エンプロイー・エクスペリエンス」があります。企業を中心に置いた「カンパニー・センタード」から、従業員中心の視点をもつことが大切と言われるように変わってきています。「仕事は対面でやるに決まっている」と一方的に断言するのではなく、「対面にもいいところがあるよ。試しにやってみましょう」と、体験を通じて自らが納得して選べるようにしていく、丁寧なコミュニケーションが重要です。

対面の体験がない人に、自分たちの価値観を押し付けてもうまくいきません。会社側がその視点に立ち、努力すれば、離職危機を乗り越え、お互いの関係性を深める有意義な機会となるのではないでしょうか。