盛り上がりを見せるスニーカー市場

いわゆるスニーカーオタクという意味の「スニーカーヘッズ」と呼ばれる人達が台頭し、スニーカーのリセール(転売)市場が盛り上がりを見せています。2020年には、熱狂的なスニーカーコレクターと転売人を題材にしたコメディドラマ『オレたちスニーカーヘッズ』が、NETFLIXで配信スタートされたことも、スニーカーヘッズ達の間で話題に。

引用: Netflix's 'Sneakerheads' Shows How Ridiculous the World of Sneaker Culture Can Be

市場拡大を受けて、アメリカのコーエン・エクイティ・リサーチ社は、2019年、スニーカーを「新興のオルタナティブ資産クラス」(上場株式や債券などの伝統的資産と呼ばれるもの以外の新しい投資対象や投資手法のこと)への分類を発表。同年、世界のリセール市場は60億ドルに達し、コーエン社は2030年までには5倍の300億ドルに達すると予測しています。

市場拡大の大きな要因 

1)専門サイトの登場

リセール市場拡大を後押しした要因のひとつに挙げられるのが、スニーカーを専門的に扱うマーケットプレイスの登場です。日本では「SNKRDUNK(スニーカーダンク)」や「モノカブ」、アメリカの「StockX」や「GOAT」、中国の「Nice」などの普及が深まっています。これらのサイトの特徴は、プロによる真贋鑑定サービスを提供していること。

引用: https://stockx.com/about/ja-jp/authentication-ja-jp

特に、2020年に待望の日本語版公式サイトがローンチしたStockXは、価格の不当な高騰を防ぐため、株取引の仕組みを取り入れた構造で運営されています。つまり、ユーザーは売り手と買い手が売買する価格を元に算定された相場や、過去の取引履歴を確認しながら購入を検討できるので、適切な値段で購入ができるということ。真贋鑑定サービスに加えて、その透明性と信頼性がリセール市場の拡大に繋がったと言えます。

2)インフルエンサー

もうひとつの要因は、InstagramやTwitter、FacebookなどのSNSを通して世間に影響を与える「インフルエンサー」です。アメリカのセレブリティ、カイリー・ジェンナーが、2020年にレアスニーカー「Nike SB Dunk High Ferris Bueller」を履いた写真をInstagramにアップしたところ、投稿後48時間以内にStockX上での販売数が急増。リセール価格も、平均約648ドルから1,048ドルへと上昇しました。

引用:https://www.buyma.com/item/64494039/

また、カイリーは他にも「Nike Dunk SB Low Stussy Cherry」などのレアなSB Dunkを履いた写真を何度か投稿。StockXのスニーカー・アナリスト、モーガン・ベイリス氏は、いずれも投稿後の数週間でSB Dunkの価格は30~50%上昇、販売量は2倍から4倍に増加したと伝えています。

レアスニーカーと有名作品を深掘り

では、具体的にどのスニーカーの価格が上がっているのでしょうか。カイリーも愛用するSB Dunkシリーズから、入手困難とされる「Nike SB Dunk Low Tokyo」をピックアップ。イギリスの匿名ストリートアーティスト、バンクシーの代表作《Girl with Balloon》のプリント作品と一緒に見ていきます。

どのくらい上がっている?

2004年1月に小売価格60ドル(当時約6,440円)で発売されたNike SB Dunk Low Tokyoは、StockX上での最高取引額が約153万円に到達(2021年8月18日時点)。これは、StockXが算定するプレミアム率(※)のトップ5に入る高騰ぶりです。このまま人気が継続して入札が増えれば、これ以上の価格になる可能性もゼロではありません(※小売価格と比較して、新品・未使用の商品がどのくらい高値の価格で売られているかを測定。現在の平均価格が、販売時の小売価格の2倍の場合、利益率は100%)。

バンクシーの《Girl with Balloon》は、サイン有り(当時約16,101円)とサイン無し(当時約7,943円)の2パターンが2004年に発売。それぞれ約5,766万円、約3,952万円の値段がつき、凄まじい高騰ぶりを見せています。

バンクシー人気の理由のひとつに、バンクシーがまだ「存命しているアーティスト」であることが挙げられるでしょう。アート作品はアーティストの死後、価値が上がるケースが多いため、長期的な資産形成を見込んで購入している人も多いのではないでしょうか。実際、2021年上半期の世界のオークション市場で、バンクシーは存命するアーティストの中でトップの落札価格を記録しています。

【ANDARTでもっと読む】
・2021年上半期オークション市場落札価格トップ10
・バンクシーのマーケット管理についての記事を読む
・ANDARTでバンクシーの《HMV》を見る

どんな動きで価格推移している?

次に、StockXの2017年以降のデータを元にして、それぞれどのような価格推移を辿っているのかを見ていきましょう。 2017年のStockXでの取引開始後、Nike SB Dunk Low Tokyoの価格は右肩上がり。2018年の下落も僅かであり、安定した価格推移で動いています。大きな下落がないのは、投資対象として評価ができるポイント。転売で人気のサイズは、主に8~10.5(26~28.5センチ)と言われているので、その点もしっかり頭に入れておきたいところです。

一方で、バンクシーの《Girl with Balloon》は2019年に下落。これは2019年、パブリックオークションで超高価作品の出品数が減少したことが影響し、オークション市場全体の売上高が前年に比べて17%減少したことが原因です。どんな作品が出品されるか、どれ位の数が出品されるかなど、そのオークションの環境が良くも悪くも価格決定に影響するようです。

押さえておきたい、メリットとデメリット

ここまでは価格について見てきましたが、実際に資産形成を始める上でとても大切なことは、メリットとデメリットをきちんと把握しておくこと。改めて、スニーカーとアートを対象として捉えた時に、どんなメリット・デメリットが浮かんでくるのかを整理してみましょう。

仕入れ先と保管方法

まず、アートの仕入れ先として挙げられるのは、アーティストからの直接購入、ギャラリーや百貨店、オークションなどだが、どれも少し敷居の高い印象。一方で、スニーカーは店舗の多さに加えて、オークションサイトやフリマサイトにも多く出品されているため、圧倒的に身近で手が届きやすくなっています。

手の届きやすさは、「保管がしやすい」とも言えます。スニーカーは、木製のシューキーパーや乾燥剤などを使用すれば、基本的に個人でも保管が出来ます。ただ、ポリウレタンが使われているものは、10年で加水分解が始まり痛んでしまうので、長期投資には向かないでしょう。

引用: https://terradaart.com/storage/standard.html

アート(特にキャンバスなどの紙製の場合)は、高温多湿によって劣化が進んでしまうのが懸念点ですが、アート専用の貸し倉庫に預ければ、手間もなく長期的に状態を良好に保つことができるので、ひとつの方法として考慮に入れておきたいところです。

目利きのしやすさ

目利きのしやすさは、スニーカーの方が分かりやすいという点でメリットがあります。NikeやAdidasなど有名メーカーの新作やアーティストとのコラボレーション。または、カイリーの例のようにセレブリティの着用による価格上昇など、先の予測も比較的立てやすくなります。 2021年4月のサザビーズのプライベートセールにて、2008年のグラミー賞でカニエ・ウェストが着用した「Nike Air Yeezy1 Prototype」が約1億9,500万円で落札。これは、2020年8月、マイケル・ジョーダンが着用していた「Air Jordan 1」の約6,600万円を上回る、スニーカー史上最高落札価格を記録し、大きな話題になりました。

引用:https://www.vogue.co.jp/celebrity/article/kanye-west-nike-air-yeezy-1-sothebys-auction

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一方で、アートの目利きは、若手になると中長期的に、そのアーティストの活動を見ていく必要があるため、即断はしづらく時間もかかります。しかし、その分好きなアーティストを「応援している」という実感を持てるので、作品への愛着度は自ずと高くなるはず。

価値について

付加価値のつきやすさについても、スニーカーは目利きのしやすさと同様に判断がしやすくなっています。アートの場合は「アーティストそのもの」が“価値”であるため、スニーカーのようなファッションアイテムに比べると、流行に左右されることも少ないです。そのため価値が下がりづらいのもまた、アートに利があるでしょう。 最近では、所有者の権利を唯一無二とするNFT(Non-Fungible Token:代替不可能なトークン)が、アート作品に新たな付加価値を与える技術として注目されています。イギリスのアーティスト、ダミアン・ハーストがリリースしたNFT作品《The Currency》が、セカンダリー市場での取引開始からわずか2週間で、元値約22万円から最大520万円の取引が成立しています。

【ANDARTでもっと読む】
・ダミアン・ハーストの《The Currency》の記事を読む

リターン率の高さ

最後に、一番気になるリターン率。バンクシーの《Girl with Balloon》を見ても、やはりアートの方がより良いリターンを得られるでしょう。しかし、そのためにはスニーカーと違って目利きや保管方法など、クリアしなければならないことがあるのも事実。どちらの方が100%良いとは言い切れませんが、「長期的」であればアート、「短期的」ならスニーカーと捉えるのが良さそうです。

Photo by Taylor Smith on Unsplash

とは言え、資産形成で一番大切なのは「好き」であること。結果的にお金を得るのであれば、心も豊かにしてくれるプロダクトや方法が良いでしょう。大切なアートやスニーカーを愛でながら、その価値が上がっていく過程を観察するのもひとつの楽しみ方ではないでしょうか。普段の生活の中に好きなものに関わる時間を増やすことは、人生を充実させることに繋がるはずです。 

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参照:
https://finance.yahoo.com/news/global-sneaker-resale-market-could-reach-30-billion-by-2030-cowen-191003371.html
https://www.fastcompany.com/90637534/how-sneakers-became-a-79-billion-business-and-an-undisputed-cultural-symbol-for-our-times
https://www.myartbroker.com/artist/banksy/the-average-price-of-a-banksy-print-vs-gold-shares-and-assets/
https://stockx.com/news/ja-jp/year-of-the-sb-dunk-en-gb/
https://bijutsutecho.com/magazine/news/market/21468

文:千葉ナツミ