日本選手権、女子1万メートルで優勝を飾った新谷仁美【写真:奥井隆史】

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ぶっちぎり日本新で東京五輪内定、新谷仁美は「結果」と「発信」を両立

 陸上長距離種目の日本選手権が4日、大阪・ヤンマースタジアム長居で行われた。女子1万メートルでは、新谷仁美(積水化学)は日本記録を18年ぶりに更新する30分20秒44で7年ぶり2度目の優勝を飾り、東京五輪代表に内定。2位に約50秒差のぶっちぎりでロンドン五輪以来2大会ぶりの出場を決めた。レース後は東京五輪の開催実現へ強いメッセージを送りつつ、アスリートが意見を発信することに「怖さはない」と言い切った。

 まさしく一人旅だった。3000メートル地点で後続を大きく引き離す展開。5000メートル通過タイムは15分07秒のハイペースだ。24分16秒で8000メートルを通過。苦しい表情を見せながらも、これまでの日本記録30分48秒89(2002年渋井陽子)を大きく上回る文句なしのタイムだ。レース直後は息を切らしながら顔をくしゃくしゃにし、両手を上げて喜んだ。

 レース直後の場内インタビューでは、胸の内を打ち明けた。「五輪というものは皆様が楽しみにされている。今後このご時世で、私たちアスリートのあり方が問われる。国民の皆様の声を聞いて、ただやりたいというだけではなく、私たちがそれ以上の最高のものを見せたい」とテレビ中継を通じてアピール。さらにオンライン会見でこう明かした。

「今回、東京五輪が開催されるかわからない状況ですが、東京五輪が終わっても、私たちの人生はまだまだ続きます。やっぱり安全性は本当に一生確保しないといけない。私たちアスリートだけがやれると信じても、このご時世でそれはただのわがまま。だからといって、やりたくないわけではない。

 やりたいけど、人の命がかかっている状態でやるのは考える必要があると思います。そこは国民の皆様と一緒に本当に納得できる大会にしたいからこそ、国民の皆様の声をしっかり聞いた上で私たちアスリートは発信しないといけない。本当に結果以上のものを出さないといけない」

生理の実情などSNSで積極的に発信「間違ったら指摘されるけど…」

 新谷は他のトップアスリートと同様に所属先、指導者、契約メーカー、そしてファンから多くのサポートを受ける。だからこそ、「それ以上の最高のもの」を見せたいと場内インタビューで語った。聞きなれた言葉かもしれないが、勇気や元気を与えたいという思いが心の底にあるという。

「今のご時世、コロナ禍で皆さんが本当に傷ついていると思います。その中で私たちは結果以上のものが必要。どれだけ寄り添えるかというところ。日ごろ私たちは皆様に応援してもらって、寄り添ってもらえていると感じていました。今度は私たちが皆さんの助け舟になれたら。心のちょっとした楽しみだったり、私たちを見ることで嬉しさや楽しみを感じたりしてほしい。それは東京五輪に限らず、これからどんな時でも見せることができたらと思う」

 女性アスリートの生理における実情など、健康的に選手生活を送る必要性についてSNSを通じて積極的に発信してきた。今回は誰も文句の言えない結果を出した上でのアピール。しかし、一人の主張が万人に受け入れられることなんて数少ない。ネット全盛の時代に批判を浴びることだってある。それでも、「発信することに怖さがあるか」との問いに新谷は「いえ、それはないですね」と断言。臆することなく言葉を並べた。

「人間なので間違ったら指摘はされるけど、自分でも間違ったことは言っていないと思っています。私は基本的に“自己中”ではあるんですけど、皆さんは私たちがどう過ごしているかを見ている。その辺りを考えられるようになってきました。なので、発信することに関して怖さなどは一切ない。もし、間違ったことがあればしっかり指摘してくれるコーチがいてくれるので、そういう気持ちは全くないです」

 1万メートル9位だったロンドン五輪以降、14年に一度引退し、会社員を経て18年6月のレースで現役復帰。今季は会心の走りを見せ続けてきた。今後も発信する機会が増えるが、ただ言葉を口にするだけだとは思っていない。「結果へのこだわりが強い」と覚悟がある。

「東京五輪に関係なく、都度、最高のパフォーマンスをアスリートとして、パフォーマーとして、人としてしっかり皆様に見せていきたい」

 32歳は結果を残して思いを語る。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)