踏み間違えしやすい車両の存在は考えにくい

 高齢ドライバーによる交通事故が社会的に注目を集めています。また、ドライバーの年齢にかかわらずペダルの踏み間違えによる事故への対策も進んでいます。そうした対策のひとつとして、日本政府は「サポカー/サポカーS」の愛称を付けて、先進安全装備搭載車の普及を推進しています。官民あげて対策をしようとしている状況です。

 さて、ペダルの踏み間違え事故について当事者は「ブレーキペダルを踏んでいたのにクルマが加速した」などとコメントしたと報道で伝えられることがあります。そうした報道を目にすると、すわ「車両側のトラブルではないか!」と思いがちですが、調べるとペダルの踏み間違えと結論づけられることがほとんどです。

 実際、ブレーキペダルを踏んでクルマが加速するということは考えられません。ブレーキペダルの下に空き缶などが挟まってブレーキペダルを踏めないというトラブルは起き得ますし、フェード現象などのブレーキトラブルが起きればペダルを踏んでも制動力が立ち上がらないこともあり得ます。仮にバイワイヤ(電気信号で作動させる仕組み)のクルマだとして、ブレーキとアクセルの配線を入れ替えるようなことをすればブレーキペダルを踏んで加速するといった現象も起きるかもしれませんが、故意に配線を入れ替えたのでなく、走行中にペダルからの信号が混線してしまうというのは仮説としても検討する価値があるとは思えません。

 また「ペダルの配置によって踏み間違えを誘発するクルマがあるのでは?」という指摘もあるようですが、ペダルの踏み間違えに気付かず、アクセルペダルをブレーキペダルだと思い込んで踏み続けるようなパニック状態に対して、ペダルの位置が影響しているというのも考えづらいといえます。

 日常的に自然な姿勢で運転できる理想的なポジションというのは存在しますし、理想的ではないクルマが少なからず売られていることも否定はしませんが、少なくとも日々運転している“マイカー”においてペダルレイアウトの良し悪しと踏み間違えの因果関係を求めるのは筋が悪いのではないでしょうか。買い換えた直後ならまだしも、多くのドライバーはマイカーの配置には慣れてしまうものだからです。もちろん、とっさのときに、かつて乗っていたクルマのクセが出てしまうことがあるかもしれませんが、そこまでいくと個人差の話であって車両側の問題とも言いづらいでしょう。

 なお余談ながら、カーシェアリングのように色々なクルマを運転するといった運用が広まってくると、ドライバーの慣れという条件を排除できる可能性があるので「ペダルの踏み間違えをしやすいクルマ」というのは傾向が見えてくるかもしれませんが……。

パニック状態を検知して停車する技術が必要

 結論としてクルマが原因となる暴走というのは、非常に考えづらいといえます。暴走事故のほとんどはペダルの踏み間違えが原因であり、そうでなければドライバーの意識混濁などの疾患が疑われます。アクセルペダルを踏み込んだ状態でペダルがフロアマットに挟まってしまい戻らなくなるというケースもあり得ますが、正規の状態ではそうしたアクシデントが起きないように設計されていますし、ブレーキを踏めば少なくとも減速はできるはずです。将来的にコネクテッドカーが増えてくると車両側のECUがハッキングされて暴走するケースというのも出てきそうですが、スタンドアロンで走っているクルマに対して、そうした心配をするのは杞憂というものです。

 冒頭で記した「サポカーS」に認められるには、ペダルの踏み間違えに対応した「加速抑制装置」を装備していることが条件のひとつですが、こうした機能の標準装備化がペダル踏み間違えに起因する暴走事故を低減するには有効でしょう。ペダルの踏み間違え事故は高齢ドライバーだけが起こしているわけではなく、どの年齢層でも起きています。高齢者から運転免許を奪ってもなくなるわけではないのです。技術的に可能であれば、その普及を目指すのが事故低減にはもっとも有効といえます。

 さらに将来的にはドライバーの状態を把握して、暴走を防ぐ機能の実装も期待をしたいところといえます。すでにトラックやバスにはドライバーモニターシステムが存在しています。ドライバーに異常が発生したことを知らせるシステムも実現されています(例:日野セレガのEDSS)。乗用車でも居眠りや脇見に対して注意喚起するシステムをSUBARUがフォレスターの上級グレードに装備していたりします。こうした技術の先には、ドライバーの異常を検知してクルマを安全に停止させる機能が見えてくるのではないでしょうか。

 ドライバーがパニック状態に陥っていることを検知する機能の実装はハードルが高いかもしれませんが、昨今の暴走事故に対する社会的な反応を見ていると、周囲の状況をモニタリングして安全に停止させる先進安全装備が求められているといえそうです。もっとも、ドライバーが介在しないレベルの自動運動が実現すれば、ヒューマンエラーによる交通事故全般が解消されますから、自動運動テクノロジーの進化を社会が求めているともいえるでしょう。