関連画像

写真拡大

ギニア出身のタレント、オスマン・サンコンさん(69)との結婚を自身のブログ上で発表した演歌歌手の北山みつきさん(50)。ギニアは一夫多妻制の国で、第3夫人になるという。

結婚を発表した8月19日のブログでは、国籍取得のためギニアに渡航する予定だと書かれている。ただし、現地の情勢が不安定なため、しばらく様子を見るという。

「週刊女性」(2018年9月11日号)のインタビューによると、「年内にはギニアに行って国籍を変え、そこで入籍をしてギニア人として日本での永住権を取ることを考えています」とのことだ。

なぜギニア国籍が必要かというと、重婚になってしまうからだ。日本国籍のままでは結婚できないのだろうか。本田麻奈弥弁護士に聞いた。

●日本国籍のままだと「婚姻できない」か「取り消される」可能性がある

――改めて、北山さんたちは日本だと法律婚ができないのでしょうか?

この件を考える際には、日本の法律の話とギニアの法律の話を区別する必要があります。私たち弁護士は、外国の法律のことは日本の法律のように当然に精通しているというわけではありませんから、その点ご了承いただきたいと思います。

法律上は、結婚のことを「婚姻」と言います。まず、北山さんの母国である日本において、サンコンさんと婚姻することはできるのでしょうか。

日本では、同時に2人以上の人と婚姻すること(重婚)は法律で禁止されているため(民法732条、刑法184条)、婚姻する際、「重婚でない」ことが要件として求められます。この要件は、夫妻双方とも満たさなければならないとされています。

今回は、夫サンコンさん側がこの要件を満たさないので、残念ながら、日本では婚姻手続を踏むことができません。市区町村の窓口に婚姻届を提出して婚姻しようとしても、受け付けてもらえないでしょう。

もしも、何からの理由で婚姻届が受け付けられた場合、婚姻は成立しますが、今後、当事者や親族、検察官が、家庭裁判所に婚姻の取消しを求めることができるようになります(民法744条1項 )。

――ギニアで婚姻手続を踏んだら? 

サンコンさんの母国であるギニアの法律では、男性は、条件が整えば、例外的に二人以上の女性との婚姻が認められているようです(ギニア共和国民法第315条〜319条)。ですから、サンコンさんと北山さんの婚姻は、ギニアの法律では有効に成立すると思われます。

では、日本で婚姻手続を踏まず、ギニアで婚姻手続を踏んだ場合はどうなるでしょうか。実は、ギニアで正式に婚姻が成立すると、日本の法律上も、その婚姻を有効に扱うことになります(法の適用に関する通則法24条)。

日本で婚姻届を出して婚姻することはできないけれども、ギニアできちんと婚姻すると日本でも有効な婚姻として扱われる、少し複雑ですよね。

そして、日本人が外国で婚姻手続をとったときは、戸籍に婚姻の事実を記載しなくてはならないので、市区町村に3カ月以内の報告することになります(戸籍法41条)。

ですから、ギニアで正式に婚姻手続を終え、日本の市区町村の窓口に「ギニアで婚姻しました」と婚姻を済ませた証明書を提出して報告の届出をすると、市区町村は、重婚だったとしても、その報告を受け付けることになっているようです。

もっとも、この婚姻が重婚であることには変わりがありませんから、先ほどと同様、今後、関係者は、重婚を理由にして、家庭裁判所に婚姻の取消しを求めることができます(民法744条1項)。

つまり、日本で婚姻手続を踏むことはできない一方で、ギニアで婚姻すれば日本でも婚姻したことにはなります。この婚姻は、取り消される可能性もありますけれども、実際に家庭裁判所で取り消されない限りは有効なものとして扱われます。

そういう意味では、結果的に日本でも「第●夫人」になる、ということは可能と言えるかもしれません。

●ギニアには、婚姻で自動的に国籍付与というハードルも

――日本では、既婚の外国人と婚姻するのは難しい側面があるのですね。では、仮に婚姻が成立したとして、国籍はどうなるでしょうか?

ギニアの法律では、外国人女性がギニア人と婚姻すれば、原則として、ギニア国籍を自動的に(強制的に)取得することになっているのだそうです(ギニア共和国民法49条)。

他方で、日本も基本的には二重国籍(日本国籍を持ちながら他の国の国籍を持つこと)を認めていません。

――ギニアの人と結婚すれば、日本とギニアの二重国籍になりそうですが、日本国籍はどうなるのでしょう?

日本の法律では、婚姻によって自動的に外国の国籍を取得した場合には、2年以内に、その国の国籍か日本の国籍どちらかを選ばなければいけないことになっています(国籍法14条1項)。このとき、日本国籍を離脱して(国籍法13条1項)、ギニアの国籍だけを持つ道を選ぶこともできます。

国籍を選ばないままでいると、法務大臣は、重国籍状態にある人に対して、「日本国籍を選ぶかどうか」を催告することができます(国籍法15条1項)。催告が届いて1カ月以内に日本国籍を選択しなければ、日本国籍を失うことになります(国籍法15条3項)。

もっとも、法務大臣は、この国籍選択の催告を行うかどうかを自由に決めることができ、実際には催告を行ったことはないと言われています。ですから、2年以上経っても法務大臣が催告をしないままでいることもあり得ます。この場合には、法律上、重国籍状態でいることが許されることになります。

なお、週刊女性のインタビューでは、北山さんは、まずギニアに行ってギニア国籍に変えた後で、サンコンさんと入籍すると説明されているようです。

これが本当ですと、今申し上げたような、婚姻により自動的にギニア国籍が付与されるケースではなく、自分の意思でギニア国籍を取りにいったケースという状況になります。このように自分の意思で外国の国籍を取った場合には、その時点で日本国籍を喪失します(国籍法11条1項)。

婚姻によって自動的に国籍が付与されるのか、婚姻前に自ら選んで外国籍を取得するのか、わずかな違いのように見えますが、日本国籍がどうなるのかという場面では大きな違いをもたらすことになります。

なお、日本国籍を失った場合、日本国内では外国人という扱いになりますから、日本にいるためには在留資格が必要になります。北山さんが日本の永住権を取ることを考えているとお話されたようですが、永住権は外国人が日本に住むための在留資格ですから、北山さんは日本国籍を失ってギニア国籍だけになることを考えているということになります。

――日本での活動も続けるのに、日本国籍がなくなってしまうのは残念ですね。

何よりも北山さんの希望が尊重されるべきですが、どうやらギニアの法律でも、国籍に関連して、婚姻する外国人女性側が事前にギニア人としての資格の取得を拒否できる制度もあるようですから(ギニア共和国民法50条)、ギニアの法律のくわしい中身次第で、法的な見通しも変わってきます。

「婚姻」というのは法律上の概念ですが、「結婚」は社会的な意味を含むもっと広い概念と考えられます。法律婚をしないカップルもいると思いますが、お互いが愛情に基づいて夫婦として認識し合っているのであれば、「婚姻」の成立に関わらず、「結婚」として社会的にも認知されるべきものでしょう。

(弁護士ドットコムニュース)

【取材協力弁護士】
本田 麻奈弥(ほんだ・まなみ)弁護士
2007年弁護士登録、第一東京弁護士会所属。家事、渉外事件などを取り扱い、外国人事件にも取り組む。2011年に人権擁護委員会外国人特別部会長(第一東京弁護士会)を経験。現在、日弁連の人権擁護委員会で国際人権部会副部会長に就任するなどして活動している。
事務所名:いずみ橋法律事務所
事務所URL:http://izumibashi-law.net/index.html