関連画像

写真拡大

毎日顔を合わせる社内のあの人に、いつしか芽生えた恋心。しかし、距離を縮めようと積極的にアプローチしすぎると、相手に「セクハラ」と受け取られる可能性も・・・。ネットの掲示板には、30歳年上の部長に好意を寄せられた女性が、困惑ぶりを投稿していました。

「昨日の退勤時、駐車場で上司にホワイトデーのお返しをもらった。帰宅して開けてみたら指輪を持った小さいクマのぬいぐるみ。私宛のメッセージカードに『ずっと一緒』と一筆」

たしかにバレンタインに、部長を含む数人にチョコは渡した、という女性。しかし、チョコは明らかに義理で、好意があると誤解させるようなことは何もしてないそうです。

女性は部長の思いがけない行動に悩み、体調を崩して会社を休みました。するとそこへ、部長から「昨日のメッセージは確認してくれましたか、僕の本心です」と、追い討ちをかけるような連絡が。部長は妻と離婚調停中で、十数年前から別居状態だそうです。

女性は体調を崩すほど悩み、最終的には会社を退職することになってしまいました。今回のように、上司が、好意を寄せている部下に、指輪や愛を綴った手紙を渡すことは、セクハラにあたるのでしょうか。大部博之弁護士に聞きました。

● 相手が拒絶しても執拗に愛を伝えたら「違法」の可能性

セクハラを定義づけようとするならば、「相手の意に反する性的言動」ということになります。この定義からすると、相手が欲しない、性的なニュアンスを伴った言動であれば、セクハラに該当することになります。

セクハラによって傷ついた方からすれば、相手に損害賠償を請求したいという気になるかもしれませんが、必ずしも請求できるとは限りません。

損害賠償が認められるためには、セクハラ行為が、相手の人格権を侵害するものとして違法と判断されなければなりません。違法かどうかの判断は、その言動、行動の内容や、行為者と被害者の関係などから総合的に検討して、社会的に不相当とされる程度かどうかが問題です。基準としてはやや不明確ですが、要するに「程度問題」ということです。

したがって、誰の目から見ても「あり得ない」と思うようなよほど非常識な言動、行動でなければ、損害賠償を請求するのは難しいかもしれません。ただ、損害賠償が無理でも、セクハラ行為に厳しい対応で臨んでいる会社であれば、加害者に対して、懲戒処分がなされる場合はありえます。

では、本件ではどうでしょうか。告白を受けた女性が上司に対して損害賠償請求が可能か、検討してみましょう。

本件は、上司の行動が人格権を侵害しているといえるかどうかを検討する必要があります。

本件では、上司が部下に対して、ホワイトデーのお返しに愛のメッセージカードを渡したということですが、この程度ではいまだ違法のレベルには達していないと思われます。ただしその後、部下が拒絶の意思を示しているにもかかわらず、上司が執拗に愛のメッセージを送り続けるなどの行為があったとすると、違法となる可能性が高くなり、損害賠償請求が認められる可能性があります。

ただ、明示的に拒絶の意思を示していなければならないかというと必ずしもそうではありません。上司と部下という関係では、必ずしも拒絶の意思を示すことができないという場合も多いでしょう。

そこで、上司と部下という関係においては、少なくとも女性が積極的な対応をするなど、拒絶の意思を表示していないことが明らかな場合を除いては、告白行為やデートに誘う行為、または交際を求める行為が執拗になされる限り、違法なセクハラとされる可能性が高く、被害者からの害賠償請求が認められる余地が充分にあると考えてよいと思います。

【取材協力弁護士】
大部 博之(おおべ・ひろゆき)弁護士
2006年弁護士登録。東京大学法学部卒。成城大学法学部講師。企業法務全般から事業再生、起業支援まで広く扱う。

事務所名:小笠原六川国際総合法律事務所
事務所URL:http://www.ogaso.com/