東北楽天ゴールデンイーグルス 藤田 一也選手「守備の真髄」

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 堅実、かつ華麗。楽天Koboスタジアム宮城の二遊間、一二塁間はこの男がいる限り簡単には破れない。2013・2014年のベストナイン・ゴールデングラブ賞に代表されるように日本球界No.1の二塁手として知られる東北楽天ゴールデンイーグルス・藤田 一也選手。今回は今季、内野天然芝に生まれ変わるホームスタジアムへの対応や理詰めの守備理論。そこを支えるグラブの話も含めた「守備の真髄」へと迫っていく。

■藤田選手のこれまでのインタビューは以下から常識を疑いながら鉄壁の守備を築き上げた独自の守備論名手を支えるグラブのこだわり

全ての基盤は「準備」からはじまる

藤田 一也選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)

 藤田 一也は進化し、準備し続ける。2016年もその姿勢は全く揺るぎない。「横浜にいたとき、本拠地の横浜スタジアムは人工芝でしたし、セ・リーグの本拠地で土のグラウンドも甲子園とマツダスタジアムだけ。パ・リーグの本拠地はなかった中、今年はKoboスタ・本拠地(楽天Koboスタジアム宮城)が天然芝になるので、そこの準備を考えています」。事実、今季のテーマを聴くと真っ先に出てきたのは、こんな準備の話だった。

 徳島・鳴門第一高(現:鳴門渦潮)時代から、明徳義塾・馬淵 史郎監督をはじめ名だたる名将たちに「守備は図抜けていた」といわしめた名遊撃手。近畿大を経て2004年、ドラフト4巡目で横浜ベイスターズ(現:横浜DeNAベイスターズ)に入団し、二塁手が主たる仕事場になっても鍛錬の日々は続き、2012年途中に移籍した東北楽天ゴールデンイーグルスで日本球界屈指の二塁手と称されるように。それでも「守備でチームを助けたいので、まずは下半身の身体作りをしっかりしたい」藤田選手はあくまで謙虚である。

 しかも、そのような準備の変化に至るグラウンドの違いについても、判りやすく話してくれた。「人工芝はアンツーカーを除いてはバウンドした打球にならないので、ほとんど転がり方の予測がつくんです。ただ、これが天然芝に変わるとそのような予測はできなくなりますし、雨が降ったときなども含め状態は日に日に変わってくる。内野の天然芝は生きているものなので、そこを観察できるように守備位置も含めやっていきたいです。ですから基本的に中途半端なポジショニングは取れなくなると考えています。浅く守れば打球は強くなるし、深く守れば打球は弱くなる。そこに対応した脚運び、グラブの使い方が必要になりますね。準備だけはしっかりしときたいですね」

 まるでピッチ管理者のように、準備への洞察は多岐に渡り、深い。では、その脚の運び方や、身体の使い方、グラブの使い方とは?「そうですね。球際での脚の運び方だと、人工芝の場合は正面に入るより逆シングルで入った方が入りやすいんです。土の場合は少し手前で滑りながら踏ん張って正面で捕球する方に変わってくるんです」

 藤田 一也先生による「守備の真髄」特別授業がいよいよ始まった。

[page_break:「グラブを立てすぎず」「迎え入れ」「ボールの勢いを利用して回転」etc]「グラブを立てすぎず」「迎え入れ」「ボールの勢いを利用して回転」etc

藤田 一也選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)

 よって藤田選手はキャンプから捕球練習を繰り返す。正面・逆シングル、様々な状況を想定。もちろん、冒頭に述べた天然芝対応での必須となる集中力の維持も含めてだ。

 では捕球時のグラブの使い方はどこに気を遣ったらいいのだろう?藤田選手があげたポイントは「グラブを立てすぎない」である。「捕球する瞬間にグローブを立てます。はじめからグラブの面を向けて立ててしまうとボールとグラブが衝突してしまうし、手首が利かなくなりますから」

 実際、藤田選手のノック捕球を見てもその意識は明らかだ。右手とグラブを同時に使ってボールを迎え入れるように導き、最後にグラブを立て、右手を添える。送球への動作もスムーズかつ正確にこなせる。

 なおかつ、藤田選手の捕球はできるだけ身体に近いところで行われる。なぜか。それは送球に速く移行するためである。そこに必要な「回転」にも実はメソッドがある。ボールの勢いを利用するのだ。「これは難しい話になりますけど、ボールがバウンドして上に跳ねた勢いで投げるようなイメージ。一連の動きの中で投げるイメージを持つと身体や手首も固くならないんですよ」

 となると、弱いゴロへの対応は?今度はボールではなく、身体に勢いを付けて投げる必要が生じる。「そうなんです。弱いゴロの対応は難しいんです。だから自分で勢いを付ける。自分から前に出ていく必要があるんですよ。打球の速さによって自分の身体も使います」高校球児の皆さんも指導者の方から一度は言われたことがあるだろう。「前に出ろ!」その理由も藤田選手の話を聴けば納得であろう。

 もう1つ、「予測」にも藤田選手は触れてくれた。軽く飛んでボールが当たった瞬間に着地。前後左右どちらにスタートを切るかを決める。プロ野球ならではのデータ蓄積もベースに、スタートから脚運び、捕球、回転、そして送球までの流れがこれで完成したことになる。もちろん、それら全ての動きの根幹となるのは「グラブ」。ここにも藤田 一也選手ならではの「こだわり」がある。

[page_break:力の入っていない状態から捕球するための「広いポケット」 / 天然芝のKoboスタ宮城で躍動する「守備の真髄」」]力の入っていない状態から捕球するための「広いポケット」

藤田 一也選手(東北楽天ゴールデンイーグルス)

「僕のグラブはポケットが広いんです」藤田選手がグラブを見せてくれた。なるほど、確かに通常見るグラブよりポケットが広めにとってある。なぜなら、藤田選手はこのポケットで捕球を行うからだ。では、理由を説明して頂こう。「人間にとって一番楽な状態で捕球するためです。グラブの芯で捕球しようとするとグラブや手首を固定しないといけませんから、身体も固くなってしまう。逆に楽な状態であれば、手首もよく動きますから次への動作もしやすい。ハンドリングを柔らかくするためにもポケット側で捕球することを心がけています」

 藤田選手いわく「ゴロはつかまなくても捕球できる」。日本球界屈指と呼ばれる自在なグラブさばきの理由がこれで判明した。さらにグラブにはそんな捕球を支えるもう1つの仕掛けがある。人差し指を出してグラブを装着する一方で、ボールの衝撃を吸収する小指・中指・薬指部分には通常のグラブより厚めの当て布が施されているのだ

「二遊間を守っている間は、このグラブを使うと思いますね」。そう言って藤田選手はニッコリと笑顔を見せた。

天然芝のKoboスタ宮城で躍動する「守備の真髄」

 かくしてプロ11年目を確固たる理論をさらに駆使しながら迎えようとしている藤田 一也選手。「梨田 昌孝監督や首脳陣もすごく盛り上げてくれるし、選手もそれに乗っていい雰囲気で過ごせた」沖縄県久米島キャンプの手ごたえを胸に2年連続パ・リーグ最下位に終わった屈辱からの巻き返しを誓う。もちろん、その最も躍動する場所は天然芝のKoboスタ宮城の二遊間・一二塁間。「自分でも楽しみ。ファンの皆さんに藤田のプレーが見たいと思わせるようにがんばりたい」。「守備の真髄」は新たな環境の下、円熟からさらなる磨きをかけたものへと進化していく。

(取材・文/寺下 友徳)

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