駒大高vs都立狛江
先発・星雄翔(駒大高)
雨が降るなか、グラウンドがぬかるんでいる中、行われた一戦。 駒大高の先発・星 雄翔(たける)の投球は素晴らしいものがあった。上背はないが、下半身主導のフォームから手元まで失速しないストレート。堂々と投げ込む姿はまるで武田久(日本ハム)を見ているかのような雰囲気がある。だが、本人がイメージしているのは攝津正(福岡ソフトバンク)のようで、なかなかチョイスが渋い。「僕はもともと、捕手なので、攝津投手のテークバックは参考になるなと思いました」 球速は130キロ前半ぐらいだが、それ以上に速さを感じる。ボールの質が非常に良い星だが、その秘密は上半身の使い方にある。テイクバックの動きを見ると肩甲骨の使い方がよく、着地した時に、自然に肘が上がっている。さらに両肩のラインが打者に向かっていて、反動が付いた投げ方ではないので、肩肘の負担は少なく、リリースの瞬間を見ると打者寄りで離すことができており、球持ちが実に良い。
星に技術的に意識していることを伺うと、「指先にどれだけかかるかは普段の投球練習から意識しています。この日は雨が強く、思ったより指にはかからなかったのですが、それでもテーマにしている、ここぞという場面で力で押して、要所で力を抜いて投げることを意識して投球ができました」 足場が安定しないない、粘り強く投げることができており、チームに勢いを乗せる投球ができていた。粘り強さ、メンタルの強さがあり、三者連続三振2回、6回9奪三振無失点と見事な投球だった。いずれは140キロ台を超える速球派に変貌してもおかしくない投手であった。
都立狛江ナイン
打線は星を援護しようと、3回表、一死満塁から2番池下の内野ゴロの間で1点を先制すると、3番神志那の適時二塁打で二者生還し、3対0とすると、6回表、駒大高は3点を追加し、6対0としたが、7回裏、二番手の松原が雨の影響からか制球が定まらず、一死満塁から1番永井の押し出しで投手交代。3番手の川田も勢いを止めることができず、2番落合の適時打で2点を返し、4番吉田の2点適時打で6対4の2点差に。7回裏が終了したので試合は成立。盛り上がった段階で終盤を迎えた。
8回表、駒大高は一死一、三塁のチャンスを作り、1番黒田の犠飛で追加点。さらに二死一、三塁から3番神志那の適時二塁打でさらに1点を追加し、8対4と点差を広げたが、しかし8回裏、都立狛江も攻めたて、一死満塁から押し出しで1点を返す。さらに併殺崩れと敵失で8対7と1点差に。 駒大高は苦しい戦いを強いられた。そして二死満塁となって4番吉田が押し出し四球でついに都立狛江が同点に追い付く。窮地に追い込まれたが、ここで投手交代。背番号20を付けた牧ノ瀬が4番手としてマウンドに登った。
牧ノ瀬は昨秋まで背番号1をつけていた選手。しかしその頃にイップスに陥り、全く投げられない状況にあった選手だった。だが周りのサポートにより乗り越え、良い時まで状態が戻りつつあった。
マウンドに登った牧ノ瀬は「とにかくブルペンで投げてきたボールをしっかりと投げようと懸命に腕を振りました」と振り返るように、マウンド上の牧ノ瀬には全く焦りが感じられなかった。ぐっとサイド気味からキレのあるストレートを投げ込み、5番大宮を見逃し三振に打ち取り、大きくガッツポーズ。この瞬間、エースの星も、「牧ノ瀬は本当に頑張っていたので、僕は好投することを信じていたんですけど、あの見逃し三振は痺れました」とチームメイトも痺れさせる好投に牧ノ瀬は、「今までない以上のボールを投げ込むことができました」と本人も驚きの投球であった。
勝利を決め吠える牧ノ瀬(駒大高)
その牧ノ瀬の投球が勢いを与えたのか、二死から連続四球でチャンスを作り、9番井上が打席に立った。井上は、今まで1番を打っていた選手だったが、今は9番の方が合うそうだが、「一発を打つ長打力がありますよ」と川端教郎監督が語るように、井上の打力に期待をかけた。そして井上は直球を捉え、勝ち越しとなる3ランホームランを放ったのだ。
9回裏、牧ノ瀬が締めて、劇的な勝利で代表決定戦へ進出を決めた。試合後、川端監督は「7回裏から投手を交代させて、そして同点に追いつかれた監督の采配ミスを見事に選手たちが取り返してくれました。選手たちはよくやってくれました、感謝しています」と選手たちの活躍をたたえていた。また2番手の松原、3番手の川田について、「特に松原は星以上のストレートを投げますし、今日もブルペンでは星よりも良かったんですよ。まだ責任感を感じてしまうのかもしれません。でもそれを乗り越えれば大きな戦力になると思います」と期待していた。そして好リリーフを見せた牧ノ瀬については「今日の投球が彼にとって自信になったと思います」 前エースの牧ノ瀬の復活投球。そして捕手出身だった星が投手として才能ある投球を見せたこと。そして松原、川田の2年生投手がこの経験でより伸びてくれば、投手陣の力量は西東京でもハイレベルになる可能性を秘めている。 雨中の試合、駒大高はもちろんだが、8回裏に追いついた都立狛江の粘り強い戦いを見ると、両チームとも大きく成長した試合ではないだろうか。
(取材・写真=河嶋 宗一)注目記事・2016年度 春季高校野球大会特集