流通経済大学【前編】「走塁は野球観を広くし、上手くなるコツが詰まっている」

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 昨年、大学創立50周年と記念すべき年に、大学野球選手権で準優勝を収めた流通経済大。ドラフト候補に挙がる最速155キロ右腕・生田目 翼(3年・水戸工)選手が注目されるが、昨春のリーグ戦28盗塁、大学選手権4試合で7盗塁を決めた機動力も見逃せない。

 では流通経済大はいかにしてその機動力を築き上げることができたのか。前編では、率いる中道 守監督にそのポイントを伺った。

エンドラン多用から選手自身に盗塁技術を覚えさせた

中道 守監督(流通経済大学)

「走塁は野球観を広くする。野球が上手くなるコツが詰まっていると思います」こう語るのが流通経済大の中道 守監督だ。中道監督は流通経済大のOBで、卒業後はリースキン広島でプレー。その後2003年から母校のコーチとなり、監督には2010年から就任している。中道監督はこれまで走塁を中心とした指導を行ってきた。

「やはり打つだけで勝てるほど甘くありません。そこには必ず走塁を絡めていかなくてはなりません。私は塁上を賑わすことで何かが起こると考えています。投手は走者を意識することで隙が生まれる。そこでチャンスが広がるんです」

 走塁を絡めた戦術で、中道監督が一番破壊力があり、リスクがある戦術だと考えているのが「ヒットエンドラン」だ。「うまいくいけば1球だけで一死一、三塁の状況を作ることができます。監督の立場からいろいろ仕掛けやすいですし、ヒットエンドランは好きな戦術です。しかしヒットエンドランは打者が空振りすれば、アウトになります。2ストライクならば、三振ゲッツー。転がそうという意識が強すぎるあまり、投手ゴロになってしまうケースが多々あって、併殺になることも多いんです。リスクは高い戦術といえますね」

 ヒットエンドランははまれば大きいが、リスクも高い。それでも中道監督はエンドランを仕掛けたが、うまくいかず、良い流れを止めて、試合を落としたことが数多くあったと振り返る。

[page_break:機動力を仕掛けることをためらってはいけない]機動力を仕掛けることをためらってはいけない

盗塁を想定したスタートとダッシュをする選手たち(流通経済大学)

 だが機動力を仕掛けることをためらっていては先は見えない。そこでエンドランの多用はなくし、選手たちの盗塁技術を磨かせることを考えた。そこで中道監督がとった行動は「我慢」することだった。

「エンドランを多用したことで、采配した気になっていたんです。それで試合を落としたこともあって、昨年は私自身、あまり動かないようにしたんです。選手たちの盗塁は基本的に『行けたら行け』にしました。場合によって『走れ』というサインも出しますが、昨年の大学選手権で決めた7盗塁のうち、サインを出したのは1つだけでした。選手たちに求めているのは、自分の判断でしっかり盗塁のスタートを切れる選手になってほしいということです」

 自分の判断でスタートを切れる選手になる。それは同時に自分の判断で盗塁ができないと判断した場合、自重することも求めている。「私が盗塁のサインを出しても、もしその走者が走れないと判断したのならば、特に責めることはしません。サインを出されるがまま、むやみに走ることによりアウトになることもある。これは自己の判断ではなく、言われたからただ動いただけなので良くありません。走ることも、自重するのも自分で判断してもらいたいのです」

 大学野球はリーグ戦とはいえ、1敗するだけで、優勝する確率が下がっていく。2連敗すれば、勝ち点を落とし、さらにその確率が下がる。根拠がない作戦の実行はリスクがあると実感している。

 選手たちが相手チームの投手、配球などを見抜く研究や、良いスタートを切るための感覚。そしてスタートを切ってからいかに早くトップスピードに乗り切れるか、またトップスピードに乗ってからしっかりと加速ができるか、スライディングも勢いを失うことなくできるか。このように盗塁するときに求められるスキルをすべて選手自身に考えさせ、時には指導者のアドバイスを交えながら、盗塁技術を高める努力を重ねてきた。

 昨年、流通経済大は年間の公式戦28試合で51盗塁を記録したが、選手達自らが盗塁技術を磨くという姿勢がなければ達成できなかった数字であろう。

 後編では、盗塁のスペシャリスト2人に盗塁の秘訣をたっぷりと教えていただきました。後編は明日2月3日(水)公開予定です!お楽しみに!

(取材・文=河嶋 宗一)

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