札幌第一高等学校(北海道)【後編】

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 前編では夏の敗戦の後どのように新チームを作っていったかを紹介した。後編では秋季全道大会・神宮大会の振り返り、そしてさらなるレベルアップのためにどんな取り組みをしているかに迫っていく。

今年はつながりのチーム

長門 功選手(札幌第一高等学校)

 秋季全道大会制覇は、決して楽な道のりではなかった。全道大会では北照、駒大苫小牧、北海道栄と強豪校とのガチンコ勝負が続いた。

 何を武器にして勝ち上がったのか。8試合で8失点という数字を見れば、一目瞭然。7試合に先発し、5試合完投したエースの上出 拓真が急成長したことが最大の理由だ。

 直球の最速は138キロだが、キレのあるスライダーと制球力が持ち味。「大会前には中盤に追いつかれたりして、勝った試合がありませんでした。でも、大会に入って調子が上がっていったんです。変化球でカウントを取れるようになりました」と上出は振り返る。

 大会前に同校を訪れた元横浜高部長の小倉 清一郎氏から腕の使い方について指導を受けたことが一つのきっかけになった。「アーム投げだったのですが、肘から投げるようにアドバイスを受け、ストレートに球威が出てきました」

 圧巻は全道大会準決勝の駒大苫小牧戦。1回裏に奪った1点を守り抜き、被安打3で公式戦初完封を成し遂げた。決勝でも1回に味方の失策で1点を失ったが、3安打9三振で1失点(自責0)の完投勝利。チームの2得点も自らのバットでたたき出す一人舞台だった。

 上出の急成長を引き出した小倉氏と札幌第一の本格的な交流は、今年スタートした。過去に横浜高との練習試合を通じて親交はあったが、今年3月の宮崎遠征で指導をお願いして以降、札幌にも何度か足を運んでもらっている。過去3度母校を甲子園に導いた菊池 雄人監督にとって、就任15年目での新たな試み。「自分もプライドを持って指導していますが、修羅場をくぐってきた方から野球の指導、チームの指導について聞いてみたかった。いろいろなことを見直すきっかけになっています」と話す。

 学んだキーワードの一つが“つながり”だ。「野球という中で、打線だったり、連係だったりで、いかにつながれるかということを深く考えています」

 新チームは、この“つながり”が一番の武器になっている。象徴的だったのは、全道大会準々決勝の北照戦だ。毎年互いに相手を意識するライバル。4点リードで迎えた6回裏、この大会初めてミスが重なって3失点し、さらに銭目 悠之介捕手(2年)が本塁交錯プレーで脳しんとうを起こして退場するというピンチに陥った。「あそこでピッチャー兼キャプテンである上出がしっかりした。そして、チームとして粘る能力、つながる能力を発揮した」と菊池監督はチームの命運を分けた最大のポイントに挙げた。

[page_break:追求すべきはシンプルな野球]追求すべきはシンプルな野球

全員がダッシュを終えて大喜び(札幌第一高等学校)

 全道制覇の要因には、上出の覚醒に加えて、ピンチでも動じずにカバーしあえるチームとしてのまとまりがあった。だが、菊池監督が今選手に求めるものは別のものだ。

「勘違いしてはいけないのは、勝つ最大の要因はそこじゃないということ。個々が体をいじめて体力をつくり、投手なら強い球を正確に投げる。打者なら強いスイングでストライクをしっかりとらえる。そういう技術と体力をしっかり身につけなければいけない」と語る。

 上出には140キロ台の球速を求め、野手のキーマンに挙げる副将の長門 功一塁手(2年)と辻 陸人右翼手(2年)にも、さらなる成長を望む。

 もちろん選手たちも指揮官の意図を理解している。明治神宮大会では初戦で関東一(東京)を7対4で下したものの、続く高松商(香川)戦(試合レポート)では2対7と完敗。2試合12回を投げて15安打7失点と打ち込まれた上出は「現在71キロの体重を75キロ以上に増やし、もっと球威をつけたい」と課題は明確だ。

 さらに、長門が「打力、特にパワー面は全国レベルじゃないと気がついたので新たな目標ができた」と言えば、辻は「全国レベルでは、自分のたちの弱さが出た。ボロが出ると引きずってしまった。挨拶とか整理整頓とか野球以外のことから変わり、野球につなげたい」と力を込める。

 菊池監督が追い求める「シンプルな強さ」とは、当たり前のことを当たり前にやれる個人の力のことだ。明治神宮大会では、相手の情報がない中で選手一人一人の対応力が試された。4強進出がかかった高松商戦では、相手投手をいつでも捉えられそうな雰囲気の中で、直球かカーブか狙い球を絞りきれずに打ち損じを繰り返した。体力、技術に加えて対応力も含めた個々のレベルアップが必要だ。

「そこに今のチームの一番の武器である心の強さをミックスした試合ができるチームになれば、全国でも戦える」と菊池監督は考えている。

 この冬は例年通り、室内練習場と体育館で基本的な練習を繰り返す。竹バットを使ったティー打撃の他、マシンは直球とカーブの2台を使う。2人1組のゴロ捕球では、左右へのグラブの出し方やスローイングへの形を確認しながら行う。「どうやったらうまくなるのか、理論や理屈を叩き込む期間」という菊池監督の方針から雪上でのノックは行わない。

 秋季全道大会を制したことで来春のセンバツ甲子園出場も見えているが、今は敢えて意識はしない。「甲子園に出るためじゃなくて、野球力を高めるために練習をしている。練習をやる目的は、自分が成長するため。それをわかってやらないといけない」と菊池監督。

 シンプルな強さを目指して・・・。これからも手綱を緩めることなく、冬の間にしっかりと個々のレベルアップを図っていく。

(取材・写真:石川 加奈子)

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