トレーニングの基本的な考え方

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 こんにちは、アスレティックトレーナーの西村 典子です。

 野球選手にとって欠かせない体力要素の一つが筋力です。早い時期からトレーニングを行うと身長が伸びなくなるとか、筋肉が硬くなってしまうといった誤解をする選手は少なくなってきたと思いますが、ただやみくもにトレーニングを続けた結果、ケガを誘発してしまうというアクシデントは少なくないようです。

 今回は筋力を強化するためのトレーニングについての基本的な考え方について、お話をしたいと思います。

重いものを挙げることだけがトレーニングではない

 野球選手にとってのトレーニングとは、「ケガを予防すること」と「野球の技術向上に役立つこと」の2つが満たされなければなりません。筋骨隆々とした体を目指しても、野球をプレーするときに筋肉が動作を妨げるようなことがあっては本末転倒です。まずは野球に役立つトレーニングを行うようにしましょう。

自重トレーニングで柔軟性やバランス能力を高める

 トレーニングの内容は個人の体格差やトレーニングの経験、野球の経験年数、ポジション特性などさまざまな要素が関与するため、自分に合ったものを行うようにしたいですね。その中でも自分の体重を負荷として行う自重トレーニングは、自分の体をしっかりと支える筋力や、バランス能力、敏捷性などを高めることに役立ちます。

 チーム全員が揃って行うようなトレーニングの場合は、自重トレーニングをメインに展開していくことが、トレーニング中のケガ予防という点から見てもオススメです。自重トレーニングは地味なものが多いのですが、それをコツコツと継続させていくことが力になります。

筋肉痛は必要不可欠なもの

 トレーニングに限らず、野球の練習を行うと筋肉を酷使し、時には筋肉痛をもたらすことがあります。能力以上の筋力発揮をしようとすると筋線維は微細損傷を起こし、そこから炎症をもたらす物質が分泌されて痛みや腫れ、熱感を伴うようになります。

 痛みの程度がいつも以上にある場合は、患部を冷やして炎症症状を抑えることも大切です(RICE処置)。いわゆる筋肉の肉離れはこうした筋線維の損傷レベルが高くなり、運動に支障がある痛みをもたらすものと考えられます。

 筋肉痛が起こるということは、自分の持つ筋力レベル以上の力が加わった結果であり、筋肉は「これ以上大きな負荷がかかっても筋線維が損傷しないように」修復する過程で筋線維を太くすることが知られています。必要以上に過度な負担をかけてしまうと筋肉痛を通り越して肉離れのような症状が出てしまいますが、体を動かして筋肉を使う以上、筋肉痛とはうまくつきあいながら体のコンディションを整える必要があります。

[page_break:しなやかな筋肉を目指そう / 瞬発力をつけたい]しなやかな筋肉を目指そう

 トレーニングを行うと「筋肉が硬くなってしまう」といった話をよく聞きます。これは筋線維の中に疲労物質が蓄積され、思うような柔軟性が得られないことが原因の一つであると考えられています。

 ただしある程度筋肉を動かして筋線維を「伸び縮み」させ、その後にストレッチを行うと、いつも以上に筋肉の柔軟性や関節の可動域(関節の動く範囲)が得られるようになります。たとえば太ももの後ろ側の筋肉(ハムストリングス)をレッグカールなどでトレーニングし、その後にハムストリングスのストレッチをするといった具合です。

 パートナーストレッチの手技の一つとして徒手抵抗ストレッチというものがありますが、トレーナーなどの手で他動的に筋肉に負荷をかけ、その後使った筋肉を伸ばすことで筋肉の柔軟性を得るものです。トレーニングを行いながら、インターバル間(トレーニングとトレーニングの間の休憩時間)にストレッチを取り入れることが理想的ですが、トレーニング終了後にクールダウンを兼ねてストレッチを行うことは「しなやかな筋肉づくり」に欠かせないものであると言えるでしょう。

瞬発力をつけたい

土台作りは瞬発力強化に欠かせない

 瞬発力というと軽い負荷をより速く上げることやスピードのある動きをイメージしていることが多いと思いますが、こうした一瞬で爆発的な力を発揮するためにはスピードだけではなく筋力が必要になります。

 パワーは「スピード」×「力」。筋力の土台があってはじめてスピードトレーニングの効果が得られるようになります。筋力レベルが低い段階でパワートレーニングを行うと、特に荷重関節などに大きな負荷がかかるため、逆にケガをしてしまう可能性が高くなってしまいます。まずは自重トレーニングで自分の体重をしっかりコントロールできるだけの筋力とバランス能力を身につけ、その後、フリーウエイトやマシントレーニングで筋力を強化してからパワー養成を行うというように、段階的にトレーニングを進めていくようにしましょう。

【トレーニングの基本的考え方】・「ケガを予防すること」と「野球の技術向上に役立つこと」を考慮したトレーニングを・自重トレーニングは筋力、バランス能力、敏捷性などを養う・筋肉痛は筋線維が太くなるために必要不可欠なもの・トレーニングとストレッチの組み合わせでしなやかな筋肉を目指そう・瞬発力を養うトレーニングは筋力レベルにあわせて段階的に行おう

(文=西村 典子)

次回コラム公開は12月15日を予定しております。

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