アリゾナ州フェニックスで行なわれたGMミーティングが11月13日(日本時間14日)に閉幕した。MLB関係者、各球団のGM及びチームスタッフ、代理人などが集まったこの場で、今年も多くの日本人選手が高い注目を集めた。

"吸血鬼"の異名をとるスコット・ボラス氏が、阪神からFAとなった鳥谷敬の代理人になったことを高らかに宣言。「彼は日本のカル・リプケン」と、遊撃手として10年間1試合も休んでいない鉄人ぶりをアピールし、「二遊間のレギュラーとして契約させる」とぶちまけた。その鳥谷にナショナルズ、アストロズが興味を示したが、はたして思い通りに進むのか。横一線の競争に立つことは許されても、レギュラーの保証までは正直、イメージできない。これからが敏腕代理人の腕の見せどころといったところだろう。

 今回、各球団のGMとスカウトの間で最も高い評価を受けていたのが広島の前田健太だった。レッドソックス、アストロズ、フィリーズ、レンジャーズ、ダイヤモンドバックスなどが「メジャーで成功できる投手」と口を揃え、ダイヤモンドバックスの新GMとなったデーブ・スチュワート氏は「I LOVE MAEDA」と熱烈なラブコールを送り、「ポスティング・システムにかかるなら、間違いなく獲得に乗り出す」と語った。

 確かに存在した "前田熱"。これは、このオフに前田がポスティングにかかる可能性が高いと感じ、各球団が真剣に獲得調査を行なっていたことを物語っていたが、前田本人が「まだ日本でやり残したことがある」というように、現実的にこのオフでの移籍は考えにくい。

 その一方で、今年の沢村賞投手であり、現状で日本球界ナンバーワンと評されているオリックスの金子千尋に関しては、各球団が高い評価を口にしたものの、前田のような"熱"を感じることはなかった。これはメジャーの球団がこのオフのメジャー移籍の可能性を想定していなかったからなのか、それとも真剣に獲得を目指しているからこその"お口にチャック"なのか、実際の判断は難しいが、ポスティングが容認されれば、移籍金(上限は約23億円)を含め50億円ほどの争奪戦が予想される。

 米球界からFAとなった選手に話を移せば、イチロー、黒田博樹、青木宣親らの交渉はまだ始まったばかり。青木の代理人を務めるネズ・バレロ氏が「サッカーならキックオフ」と例えたように、現在は球団と代理人がお互いの交渉意思を確認した段階だ。条件提示にも至っておらず、本格的な交渉はまさにこれから。契約締結までには少なくとも1カ月、長引けば2カ月半を要するであろう。

 さて、今回のGMミーティングで、ある球団のスカウトの言葉に考えさせられることがあった。当然ながら彼は、日本球団の保有権、選手が持ち得る権利、日米間のルールを理解しており、スカウトとしてというより、野球界に携(たずさ)わるひとりの人間としての言葉だった。

「彼はもう33歳か。メジャーへの挑戦は許されないのか? 選手としてのプライム・タイム(最盛期)には限りがある。あれだけの能力を持っているのにもったいない」

 スカウトが言った彼とは、オリックスの糸井嘉男のことだ。糸井が海外FAの権利を取得できるのは早くても2017年。その時点で糸井は37歳になっている。

 野茂英雄が初めて海を渡ってから来年で20年になる。海外FA権やポスティング・システムの確立など、選手の夢が叶いやすい時代になったが、限りある選手生命は変わるわけもない。最良の答えを見つけられない問題にスカウトとともにため息をついた。

笹田幸嗣●文 text by Sasada Koji