今季開幕から絶好調のJ.ハミルトン(レンジャーズ)が、1試合4HRというTuesday Nigh Feverをやってのけた。



Hamilton's huge game 05/08/12


 5打数5安打、4HR、8RBI、18トータルベース。世界中のアル中ヤク中に夢と希望を与える一世一代のパフォーマンスであった。単純にHRを4本放ったというだけでも凄すぎるが、ハミルトンの恐ろしさを何より物語るのが放ったHRのバリエーション。1本目は先発右腕のJ.アリエッタからセンターバックスクリーンへと運び、2本目は同じくアリエッタから高い弾道で今度はレフトへ。3本目はサウスポーのZ.フィリップスからバックスクリーン右への一発、そしてトドメの4本目は変則アンダースローのD.オデイからバックスクリーン一直線の一撃。相手ピッチャーの利き腕も投球フォームも関係なく、センターを中心に右へ左へと白球の弧を描く様は、ホームランアーティストを通り越してもはや、予めインプットされた諸々の条件に基づいて必ずホームランを打つようバットの角度やスウィングのタイミングを精密にプログラミングされたスーパーコンピュータのようだ。カムデンヤードのオリオールズファンも4発目にはスタンディングオーベーションをする他なかったが、この敗戦には大いに満足して家路についたはずだ。

 あんなに軽そうなスウィングで何であそこまで飛ぶのかと、いつも思う。たとえばイチローのHRは打った瞬間に真芯で捉えた会心の打球だとわかるし、鋭い弾道でスタンドに突き刺さるアーチがほとんどだが、ハミルトンのHRは一見フラフラっと上がった高い打球が伸びて伸びてフェンスの遥か上を超えて行く。バットに擦ったような打球がHRになる。これぞアメリカンスラッガーというべき弾道だ。



Hamilton's fourth home run


 さて、MLB史上16人目という1試合4HRの興奮が未だ覚めやらない一方で、ハミルトンの今季終了後の去就を巡るディスカッションがにわかに盛り上がってきている。今シーズン限りでFAとなるハミルトンの契約問題は開幕前から注目を集めていたが、今季ここまでの打棒があまりに凄まじいため、そのマーケットバリューの変化に周囲がセンシティブになっているのだ。


 目下リーグ3冠王を独走中、レンジャーズ快走のエンジンとなっているハミルトンの実力に疑問を持つ人間は1人としていないだろう。ハミルトンといったら「アル中ヤク中の暗黒の過去から這い上がった遅咲きのシンデレラ」エピソードが未だに付き纏うが、遅咲きといってもまだ30歳。パフォーマンス的には今が旬といっていいどころか、身体能力も去ることながら何より卓越した技術で生きているタイプのプレイヤーだと思うので、むしろバッターとしての円熟味は今後さらに増していく気さえする。チームメイトのM.ヤングがまさにそういうタイプだ。


 さて、そんな世紀のマフィアのマーケットバリュー、相場はどれくらいだろう。たとえば昨オフのA.プーホルスやP.フィルダー、つまり総額2億ドルオーバー級の契約を手にすることができるかというと、それは難しいのではないかと感じる。好調時のパフォーマンスは両者を凌ぐ程であることは既に充分証明済みだが、どうしても「リスク」がネックになる。第一に健康、第二にアルコール、そして最後はハミルトンに限らずだが、、ステロイドだ。


 ハミルトンのアウトフィルダーとしての唯一の欠点は、健康だ。ケガが多い。2008年のブレイクイヤーこそ156試合に出場したが、以降3年間は2010年の133試合が最多で、絶好調の今季も既に1度短期離脱している。もっとも、133試合の出場でMVPを獲得してしまうあたりがハミルトンの凄みを感じさせるところではあるが、今のところ偶数年度に活躍する人疑惑が拭えない。そして健康のリスクは、誰でも年齢と共に高まっていく。ただでさえケガが多い30歳のプレイヤーへの8〜10年に及ぶような長期契約オファーはかなりリスクが高いと考えるのが妥当なので、仮に年2500万ドルクラスの高年俸でも4〜5年あたりの契約に抑えるという流れになるのではないかと考えられる。


 次に、ハミルトンを語る上では書かせないアルコール&ドラッグの問題。こればっかりは人間性の問題なので何とも言えないところではあるが、あまり心配することではないような気がする。昨オフにアルコールを摂取してしまったことが発覚し「アル中再発か」とメディアを賑わせはしたが、しっかりと謝罪会見を開き今もしっかり禁酒しているようで、現在はご覧の通りの活躍。一度メジャーリーグを永久追放されたばかりか人間としてthe endを迎える寸前の地獄から努力して這い上がってきた男だ。ファン目線だから言えることかもわからないが、僕はハミルトンの過去からあれこれ考えるのではなく、今現在の彼が持っている人間としての強さを信じたい。


 そして最後の懸念は、ステロイドだ。あんな人間離れしたホームランを連発されると、否が応でも疑惑の眼差しを向けられてしまうのは、現代MLBの大きなダークサイド。あのR.ブラウン(ミルウォーキー)だって騒がれたのだから、仕方ない。まあハミルトンに関しては、筋肉を増強する以前に大麻で身を滅ぼしていた男であるだけに、ドラッグ地獄から脱却した今さらたかがステロイドに手を出すようなことはないだろうと思っている。これもファン目線なのかもわからないが。



Hamilton confirms reports 02/03/12



 というわけで、プレイヤーとしての実力は細かいデータなど持ち出す必要もないハミルトンではあるが、セイバーメトリックスでは測定できないリスクを抱えたプレイヤーでもある。今オフにヒートアップするであろうハミルトン争奪戦は、まずはビッグマーケットチームを中心に、編成戦略と予算にマッチするチームが主導権を握るであろう。しかしマネーゲームの最後は結局、ハミルトンという人間にどう向き合い、何を信じるかという、極めてヒューマンチックな部分に左右されるかもしれない。


※参考
MLB Network's Insider with Ken Rosenthal discusses multiple future free agents such as Josh Hamilton and David Wright



halvish