E−1選手権は「重要なターニングポイントになる」と李理事長は言う。(C)Reuters/AFLO

写真拡大

 E-1選手権が12月8日から(男子は9日から)日本で開催される。日本代表にとっては、半年後に迫ったロシア・ワールドカップの行方を占う貴重な機会にもなるが、初戦で対戦する朝鮮民主主義人民共和国(以下、北朝鮮)代表の実情については、あまり知られていない。
 
 ここ最近、北朝鮮代表には様々な変化があった。

 例えば昨年5月には、同国として25年ぶりに外国人監督を招聘している。新たに代表を率いているのは、ヨルン・アンデルセン氏。元ノルウェー代表で、現役時代にはブンデスリーガのフランクフルトで外国人選手初の得点王にも輝き、15年末まではオーストリア2部のSVオーストリア・ザルツブルクの監督を務めていた人物だ。
 
 また、海外組の活躍も目立っている。筆頭に挙げられるのは、ハン・グァンソンだろう。今年3月にカリアリに入団し、北朝鮮選手として初めてセリエAでゴールを挙げて注目を浴びた19歳は、現在はセリエBのペルージャにレンタル移籍中。開幕戦でのハットトリックをはじめ、今季は7得点を記録している。
 
 ただ、代表チームの成績は芳しくない。
 
 ロシア・ワールドカップのアジア予選は2次予選で敗退。アジアカップ2019最終予選でも、香港、レバノンと対戦した3戦で2分1敗と一度も勝ち星を挙げられなかった。11月10日、13日に同予選でマレーシアに2連勝し、ようやく巻き返しを始めた状況だ。
 
 こうした現状を、北朝鮮サッカー界はどのように捉えているのか。そして、今回のE-1選手権は、北朝鮮にとってどんな意味を持つのか。
 
 その答を探るべく、在日本朝鮮蹴球協会理事長で同国サッカー協会副書記長の李康弘氏を訪ねると、開口一番にこう切り出された。
 
「現在は、日本や韓国のいないアジアカップ予選で苦戦している状態。マレーシア相手に連勝したことで持ち直した感はありますが、我々が目指しているのはあくまでもアジアのトップレベルです。その意味でE-1選手権は、重要なターニングポイントとなるでしょう」
 今後の代表チームの在り方をも左右する転機になると語る李理事長。そこには、北朝鮮代表が直面している課題も関係しているという。
 
「アンデルセン監督が就任して2年目になりますが、ロシア・ワールドカップの最終予選に進めなかったため、これまではアジアの上位国と対戦する機会がなかった。2010年南アフリカ・ワールドカップ出場を果たし、本来はチームがさらに成熟していかなければならないのに、戦うべきステージで戦えませんでした。

 そのため、ロシア行きを決めた日本や韓国などと争うこの大会は、新体制のチームがどのレベルにあるのかを点検する初めての機会になるんです。アンデルセン監督は、今大会で結果を残せなければ、自身の進退も問われるでしょう。この大会が“ラストチャンス”になると言っても過言ではありません」
 
 つまり、アンデルセン監督はこの大会に相当な覚悟を持って臨むということだ。すべての試合が気の抜けない戦いとなるが、大会の行方について、李理事長は悲観していない。
 
「成績こそ残せていませんが、他の3か国に引けを取らない実力は持っていると思いますよ。大口を叩けるほどではありませんが、東アジアのトップ4に入れる水準にはあるはずです。まだクラブと交渉中ですが、キーマンはハン・グァンソン、チョン・イルグァン(FCルツェルン/スイス)、パク・クァンリョン(SKNザンクトペルテン/オーストリア)の海外組3人。そこに金聖基(町田ゼルビア)、安柄俊(ロアッソ熊本)、李栄直(カマタマーレ讃岐)らJリーガーが絡んだ時、どのようなゲームメイクをするか楽しみです。

 もちろん、結果を求められていることには選手もプレッシャーに感じていますが、それは同時にモチベーションにもなっています。このチームが十分にワールドカップを目指せることを、今回の大会では示してもらいたいですね」
 
 果たして、アジアの“古豪”は復活の狼煙を上げられるだろうか。その実力の一端は、ハリルジャパンとの初戦で明らかになる。
 
取材・文●李仁守(ピッチコミュニケーションズ)