French presidential election candidate for the right-wing Les Republicains (LR) party Francois Fillon applauds the audience after delivering a speech to present his programm during a campaign meeting in Aubervilliers, outside Paris, on March 4, 2017.


 私は公認会計士、心理カウンセラーとして経営の相談を受けている。心理カウンセラーという肩書きがあるため、通常の経営相談にはないような相談を受けることも少なくない。

 ある社長からこんな相談を受けたことがある。20代前半で起業し、そこから寝る間も惜しんで働いて、今ではほとんど何もしなくても毎月数百万円の収入が入ってくる仕組み作った。

 毎日、あくせく働くこともなく、好きな時間に起き、好きな物を食べ、好きな車に乗って、好きな家に住む。海外の国々を次から次へと回り、行きたいところには行こうと思えば行ける。

 夜な夜なパーティや飲み会に出かけ、飲んで楽しく騒ぐ。そういう生活を1年ほど続けている。そんな現状を説明された後、こう話された。

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「生きている意味が感じられない」

 「今、生きている意味が感じられないんです。ぶっちゃけ、死にたいです」

 実はこういった相談は少なくない。これまでに何件もよく似た話を聞いている。社長というのはビジネスのやり方によってはあり余るほどの収入と時間を手にするようになることがある。

 「仕事をする目的、それは収入を得ること」

 そういった価値観のもとに仕事をしていると、仕事をしなくても十分な収入が手に入るようになると仕事をする必要性を感じなくなり、そして仕事をしなくなる。一見すると憧れるような状況かもしれない。

 しかし、そういった状況が1年も続くと鬱っぽい症状になる人もいる。なぜそんなことになってしまうのか。その原因の1つとして、貢献欲求が満たされていないということが挙げられる。

 人は他者や社会の役に立っているという貢献感を得たいという欲求を持っている。この欲求を貢献欲求と呼んでいる。人は誰かの役に立っていることを実感することで、自らに価値を感じることができるという性質を持っている。

 そして、一般的には仕事を通じてお客様や社内の同僚、その他様々な人の役に立つことによって、貢献感を得、貢献欲求を満たしている。

 そのため、仕事は貢献欲求を満たすための重要な手段であり、仕事をしなくなると何か別の形でこの貢献欲求を満たさない限り、欲求不満の状態になる。そして、心がだんだんと病んでいく。

 先程のご相談者にはボランティア活動に参加することを薦めた。

 どういった活動であれば、やりがいや社会的意義を感じることができるか。そういった点を明確にしたうえで参加するボランティア活動を決め、その活動を通じて人の役に立つ機会を得て、貢献欲求を満たすことが必要だと判断した。数か月後、その方からこんな連絡があった。

「部下のモチベーションを上げたい」

 「とあるボランティアに参加しています。今ではずいぶん慣れてきました。日々、生きている感じがします」

 老人ホームを運営している方からこんな話を聞いたことがある。

 「スタッフが全部やりますから何もしなくていいですよ、と何でもかんでもお世話して入居者の方に何もやらせようとしない施設があります。でも、何かをして人の役に立つということは、充実感をや生きがいを感じるためにとても大切なことなんです」

 「ですので、入居者の方から人の役に立つ機会を奪っちゃいけないんです。私たちは簡単な作業をお願いして、それをやってくださったらきちんと感謝の言葉をお伝えするようにしています。すると、とても喜んで下さいます。そして元気になられるんです。もっと手伝おうかと言って下さる方もたくさんいらっしゃいます」

 「部下のモチベーションを上げたい」

 部下を持った経験のある方であれば、一度や二度はこの願望を抱いたことがあるのではないだろうか。部下のモチベーションを上げるということを考えるうえでも、貢献欲求はキーワードとなる。

 私の経験上、いくら収入が良くても、人の役に立っている、社会の役に立っているという貢献感が得にくい職業は従業員のモチベーションが低く、離職率も高い傾向にある。そのため、部下が貢献感を感じられるような関わりをすることは、モチベーションを上げるための重要なアプローチとなる。

 部下が何かをしてくれたら、「ありがとう」という言葉をかける。そういったことでも部下の貢献欲求は満たされる。これは些細なことのように、あるいは当たり前のことのように思うかもしれない。

 しかし、それをきちんとできているかと問われた時、胸を張って「できている」と答えることができるだろうか。そう答えることができる上司は果たして世の中にどれだけいるだろうか。

 貢献欲求は相手に喜んでもらう度合いの大きさによって、小さく満たされる場合もあれば大きく満たされる場合もある。そのため、「ありがとう」を言う際に、上司がどれだけ喜びの気持ちを込めて言うかによって、部下の貢献欲求が満たされる度合いも大きく異なる。

感謝の気持ちが貢献欲求を満たす

 「ありがとう!ほんと助かるよ」

 「ここまでやってくれるとは、嬉しいねぇ」

 そんな喜びの気持ちを込めて「ありがとう」を部下に伝えるようになると、「また上司に喜んでもらいたい」という気持ちが部下の仕事のモチベーションになるようになる。

 また、お客様からの喜びの声を伝えるということも貢献欲求を満たす方法である。

 「君が作ってくれた資料をお客様に渡したら、分かりやすいと喜んでいたよ」

 「昨日、お客様と飲みに行ったんだけど、お客様が君の対応はいつも素晴らしいと喜んでいたよ」

 お客様が部下の仕事ぶりに対して喜んでくれている事実を知ったならば、それを部下に伝える。それは部下の貢献欲求を満たし、仕事に対するモチベーションを上げる重要なコミュニケーションとなる。

 これは部下のみならず、社内の人間すべてに対して当てはまることであり、社内の人間の貢献欲求を満たすことで、組織全体のエネルギーを高めていくことができる。

 私は経営コンサルティングをする中で、従業員の方に話をうかがい、現場の実態を調査することがある。その中で「どういった時に仕事に対するモチベーションを感じますか」という質問をする。

 その問いに対して、「上司や同僚、部下が喜んでくれた時」という回答は多い。自分が何かをすることによって、誰かに喜んでもらいたい。この欲求は職場でも強く存在している。

 これまで経営相談を受けてきた中で、部下のモチベーションは給料に比例すると思っている方は少なくない。しかし、給料は同じでもモチベーションは全く違うというケースは多々ある。その違いはどこから来るのか。

人工知能の普及でますます必要になる貢献欲求

 それを考える際にこの貢献欲求は大きなヒントとなる。

 定年退職を間近に控えた方、あるいは定年退職された方と話していると、「対価はゼロでもいいから、人や社会の役に立てる機会が欲しい」という声をよく聞く。これは仕事が持つ意義が収入だけではないことを物語っている。

 仕事は貢献欲求を満たすための大事な手段である。そのため、定年退職して仕事がなくなるというのであれば、何か別の形で貢献欲求を満たす機会を作る必要がある。それは心を健康に保つために極めて重要なことである。

 昨今、人工知能をはじめとする科学技術が急速に進歩している。今後、多くの仕事が自動化され、人が関わらなくてもできるようになる。それによっていつか人間は仕事から解放される時が来るのかもしれない。

 それは人間が貢献欲求を満たす大切な機会を失うことを意味する。そうなった時、果たして人間は自らの存在意義や価値を感じ、健全な精神状態を保つことができるのだろうか。そんな懸念を抱く。

 科学技術の開発が想像を超える速さで進み、仕事を取り巻く環境が劇的に変化していくこれからの時代、貢献欲求という人間の本能的な欲求を考えると、「人の役に立つ、社会の役に立つ」という仕事本来の意味を改めて考える必要があると強く感じる。

筆者:藤田 耕司