by elminium

ロンドン交通局(TfL)は、地下鉄駅のエスカレーターで長らく「右側に立ってください」という案内を行ってきましたが、大英博物館の最寄り駅であるホルボーン駅で3週間、「両側に立ってください」という試験を行いました。すでに市民の間にも広まった習慣をいまさらなぜ改めようとしたのか、そこにはちゃんとした理由がありました。

The tube at a standstill: why TfL stopped people walking up the escalators | UK news | The Guardian

http://www.theguardian.com/uk-news/2016/jan/16/the-tube-at-a-standstill-why-tfl-stopped-people-walking-up-the-escalators



TfLのエスカレーターは「右側に立ってください」、つまり左側は歩く人のために空けておくのがルール。これは自然と生まれたルールというわけではなく、TfL自身が長らくそのように呼びかけてきたものでした。アメリカでは空いている側に立ち止まって人の流れを妨げる人を「エスカランプ(escalumps)」と表現しますが、これは、イギリスだけではなく、多くの国で「エスカレーターの片側は歩く人のためのスペース」ということが認知されていることを示しています。

TfLで働く人々も、当初はこの「右側に立ってください」というルールを改めることは考えていませんでした。しかし、ヴォクソール地区責任者のラウ・レン氏は香港への旅行で、「エスカレーターの両側に人が立つことで、効率的かつ安全に移動している」という経験をして、イギリスでも同じようなことができるのではないかと考えました。

ホルボーン駅のエスカレーターは23.4mと長いのですが、それだけに、もし人々が両側に立つようにすると、それだけでも毎分31名多く乗れるようになり、率でいうと28%増加するという見込みが立てられました。現在、860万人の人口を抱えるロンドンは2030年までに1000万人都市になり、TfL利用者は60%増加すると考えられているため、それだけの人を運べるためのキャパシティを生み出す必要があるというわけです。



by Ged Carroll

実際に3週間にわたって「両側に立とう」という試験運用が行われ、職員がエスカレーター上下に立って、左側を空けず両側に立つようにと声かけをしたとのこと。The Guardianによると、それまで朝ラッシュ時間帯のエスカレーター利用人数が1万2745人だったものが、「歩かないように」と声かけを行った日は1万6220人が利用できて、事前予想の値を上回ったそうです。

ただし、すべてにおいてうまくいったわけではなく、左側を歩く人がゼロになったわけではなかった模様。

【英国】ロンドン地下鉄ホルボーン駅では現在、エスカレーターでの片側歩行を止めて、両側で停止することを推奨する実験的措置を実施中。でもほとんど誰も指示に従わず、相変わらず左側はガンガン歩いている人でいっぱいです。 pic.twitter.com/0AM1IKXUUP— ニュースダイジェスト (@newsdigest) 2015, 11月 30

もともとの「右側に立つ」はイギリス発祥ですが、たとえばオーストラリアでは「左側に立つ」、日本だと東京は左側、大阪は右側と、細かくルールは変わっていたりします。香港や日本では、安全性も考慮して、エスカレーターの歩行禁止が進められているので、やがては「エスカレーターは立ち止まって乗るもの」ということになってもおかしくはなさそう。

ただし、ワンダーフェスティバル2008[夏]では踏み板にぎっしりと人が乗った結果、エスカレーターが壊れる事故が発生。原因は「人の乗りすぎ」ではありませんが、ラッシュ時間帯に距離の長いエスカレーターのすべての踏み板にぎっしりと人が乗るのは、それはそれで安全なのかという疑問は残ります。

ワンダーフェスティバル2008夏、開場直後に人が多すぎて地鳴りのような音とともに4階から1階へエスカレーターがぶっ壊れて逆流、けが人発生 - GIGAZINE