「あなたは管理職になりたいですか?」という設問に対し、「なりたくない」と回答した割合

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■新人社員の半数は「平社員のままがいい」

「私は管理職になりたくありません」――。そういう新入社員が半数近くもいる。

日本生産性本部が昨年4月に入社した新入社員に半年後に「あなたは管理職になりたいですか」と聞いたところ48%が「管理職になりたくない」と答えている(2014年12月)。男女別では女性が72.8%、男性が34.5%に上る。回答者のほとんどが大卒以上であるが、一般的には将来の幹部候補生の総合職として採用したはずだ。

30歳前後の非管理職に対する各種の調査でも管理職になりたくない社員は多いが、入社半年ぐらいで早くも管理職志望者が少ないのには驚かされる。しかも管理職を嫌がる女性が7割超もいるということは、安倍政権が推進する2020年女性管理職比率30%の目標がいかに困難であるかを物語っている。

こうした事態を憂えるのはIT企業の人事課長だ。

女性管理職を増やしていくために、若いうちから意識啓発などの研修と並行して、現場の仕事でも難しい課題を与えて鍛えることもやっています。それでも男性だけでなく、女性の管理職志望者が少なく、本人にその気がないのが一番頭の痛い問題です。当社ではアジアを中心に外国人も採用していますが、日本人と違って『もっと給料がほしいから早くマネージャーになりたい、3年でなれるようにしてほしい』と言ってくる人もいるぐらい昇進志向が強い。昇進したい日本人社員をいかに増やしていくかが大きな課題です」

一方で、それほど驚くにはあたらないと指摘するのは食品業の人事部長だ。

「採用の面接で『海外でも働けますか』と聞くと、全員が『どこでも行きます』と答えるが、入社後に海外に出たくないという社員も少なくないのが現実です。今の若い世代は昔と違って価値観がバラバラです。どこに自分の生活に力点を置くのかが違う。自分の家族に置くのか、あるいは会社での立場を築き、そこで実現したいものがあるという人。それぞれ違うし、我々も踏み込んでどっちが良くて、悪いとかは言えない。仕事よりもプライベートを重視するのはけしからんと怒っていては管理職など務まらない。一人ひとりの声に耳を傾けて、価値観をわかった上で仕事への喜び、やりがいを感じさせるのが上司の仕事だと思います」

しかし、そこまで丁寧にフォローできる上司がどれだけいるだろうか。

■「自由時間を犠牲にしたくない」

先の調査では、なりたくない理由で男女ともに最も多いのが「自分の自由な時間を持ちたい」(男性56.2%、女性38.9%)というものだ。続いて「専門性の高い仕事がしたい」(男性14.6%、女性23.7%)というプロフェッショナル志向の社員もいる。だが、「重い責任のある仕事は避けたい」「組織に縛られたくない」(男性25%、女性30.6%)という社員も多い。

この結果から新入社員の管理職のイメージは「責任が重い上に組織に縛られて働き、なおかつ長時間労働をしている人」ということになる。おそらく彼ら(彼女ら)の職場の管理職の実態なのであろう。

実際に日本の企業社会では「長時間働く人=仕事ができる人」という風潮があるのも事実だ。消費財メーカーの人事課長は「社員の中にはいつでも長時間馬車馬のように働き続ける人が良いパフォーマンスを上げる人だと思い込んでいる。確かに業績も上げているし、あの人は仕事ができそうだと思われているが、それが女性をがんばりにくくさせている原因だ」と指摘する。

とくに営業系は管理職になりたくない女性がほとんどと言う。

「数百人の女性営業職にアンケート調査を実施したところ、5年後も営業の仕事を続けていきたいかという質問では、8割の女性が嫌だ、続けるなら辞めたいと答えている。ましてや管理職なんてとんでもない女性がほとんどでした。管理職になりたくないために候補生である一歩手前の等級になる前に脱落するか、あるいは昇級したがらない女性もいる。中には一営業職でよいから私を上げてくれるな、言う人もいます」(消費財・人事課長)

今でも仕事は大変だが、それでも有給休暇を取ろうと思えば取れるし、家庭と仕事の両立がなんとか保たれている。だが、多くの部下を引っ張る立場になれば、自分や家族以上に気にしなければならない範囲が一気に増えて、その責任までは負えない。だから軽はずみに管理職を引き受けられないと考える女性も多いのではないか。

■「わたしにスーパーウーマンは無理」

女性管理職を増やすにはロールモデルが必要だとよく言われる。しかし、そのロールモデルにも問題がある。

「女性リーダーも残念ながら馬車馬のように働いている人が多い。夜中の1〜2時に普通にメールのやりとりをするぐらいの働き方をしている。しかも独身か結婚していても子どもがいない点も共通している。結婚し、母親というリーダーがいないのではロールモデルになりません。逆に管理職になりたくない女性を増やしているだけなのかもしれません」(消費財・人事課長)

また、子どもを抱えてバリバリ働いている女性管理職もロールモデルにはならないと指摘するのは事務機器メーカーの女性人事課長だ。

「小さい子どもを抱えて、比較的遅くまで働いている30代、40代の女性管理職もいますが、20代から見れば彼女たちはスーパーウーマンとしか思えません。先輩女性たちを見て、管理職になりたくないというより『私にはできません!』とキッパリ言うひとが多いです」

男性を含めて女性を管理職にすることがいかに困難か、問題は極めて根深い。女性管理職が増えれば、その発想・アイデアが生かされてイノベーションを生みだし、企業の成長にもつながるという議論が絵空事にも思える。

管理職になりたくない社員が半数を超えるということははっきり言って「経営の危機」である。そのことをもっと自覚し、働き方の構造を根本的に変革するしかないのではないか。

(ジャーナリスト 溝上憲文=文)