ここ最近、ポスティングシステムを使ってMLBに挑戦する日本人選手が相次いでいる。かつては、イチローや松坂大輔がこの制度を使って海に渡ったが、今オフはダルビッシュ有(北海道日本ハム)、中島裕之(埼玉西武)、青木宣親(東京ヤクルト)の3人が、この制度でアメリカ行きを決めようと試みた。いずれも、レンジャーズ、ヤンキース、ブルワーズという強豪球団から落札され、日本のファンも大いに期待したはずだ。 
 
 ところがここにきて、その期待は失望に変わり始めている。昨日、中島はヤンキースとの契約交渉を打ち切り、今季も西武に残留することを決定。ダルビッシュは年俸の交渉がレ軍とまとまらず、青木に至っては落札された後に入団テストを課せられるという、何とも頓珍漢なことになっている(しかも報道を聞く限りでは、不合格となることが濃厚らしい)。せっかく3人とも、「第一関門」をいい形で突破できたにもかかわらず、なぜこんなことになってしまったのか。 
 
 原因は、選手が求める待遇と球団が提示するそれとの間に、大きな開きがあったからだとされている。中島はヤ軍から提示された1年80万ドル(約6160万円)の契約を蹴った。2億8000万円という、西武時代の年俸と比較して4分の1以下という金額の低さもさることながら、専属通訳がつかないことや、1年後の自動的にFAとなることが認められなかった点が不満だったとのこと。ダルビッシュに関しては、本人が年平均2000万ドル(約15億4000万円)の5年契約を希望しているのに対し、レ軍は800万ドル(6億1600万円)スタートの6年契約を基本線としており、10億近い差があるそうだ。 
 
 実は、ポスティング交渉が破談になった例は、周知のとおり今回が初めてじゃない。昨年オフには、東北楽天のエースだった岩隈久志(マリナーズと契約)が、アスレチックスからの落札を受けたものの、やはり年俸交渉が上手くいかずにご破算となっている。結局、今オフにマリナーズと契約を結ぶことこそできたが、当時は日本の野球ファンの間で、かなりの騒ぎになっていたことは記憶に新しい。 
 
 俺自身は、3人ともMLBを代表する強豪クラブから落札されたことを素直に喜んでいたし、移籍するのであればぜひとも向こうで頑張ってもらいたい、と心から思っていた。しかし、こうした報道を耳にした今、正直に言ってその気分は冷めてしまっている。その理由はいたって簡単で、「何故ポスティングでの移籍で、金のことで揉めるんだ」という思いからだ。これは、単なる僻み根性で言ってるわけじゃない。FAとポスティングには、根本的に制度の仕組みに違いがあり、それを選手たちが正しく理解しているとは、到底思えないんだ。 
 
 そもそも、ポスティングという制度自体は、選手の権利では到底ありえない。かいつまんで言うなら、球団が自前の選手をオークションにかけ、落札した球団から移籍金をせしめるという制度がポスティングであって、権利を行使する主体はあくまでも球団なんだ。落札された選手は、自分との交渉権を獲得した球団と交渉し、移籍するかどうかを決められるだけ。FAとは違って、選手が移籍先を自由に選べないのが、まさしくFAとポスティングとの違いを象徴するものであると言える。 
 
 ポスティングが選手の権利ではない以上、FAのように契約交渉でわがままを言うことは、本来許されるべきことじゃない。そもそも、海外FA権を取得できる年齢まで待てないからこそ、ポスティングを利用するわけだから、選手側がいかにも自分の権利であるように、「ポスティングで海外に出せ」と主張するのは筋が通らない。ポスティングとはあくまで「ポスティングでもいいので行かせてください、お願いします」と頼み込むもの。FA権がない立場で無理を言うんだから、それが当然だろう。