中古マンションの成約価格が首都圏で下落、強気な売り手と慎重な買い手のギャップが招く「都心部在庫のダブつき」

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「マンション価格は高騰している」。そうした見方が一般的だろう。実際、首都圏の中古マンション価格は依然として高値圏にある。
しかし、市場の実態は少し異なる。東京都心部では在庫が積み上がり始め、売り手が希望する価格と買い手が受け入れる価格の差も広がっている。価格だけを見ていると見落としがちな変化が起きているのだ。
成約価格や在庫価格、在庫戸数、成約率の推移をもとに、中古マンション市場で何が起きているのかを検証する。
成約価格は19カ月ぶり下落、高値期待の「在庫価格」と乖離
まず成約価格について、東日本不動産流通機構によると、2026年5月の首都圏中古マンションの平均成約価格は5067万円となり、前年同月比▲4.6%と2024年10月以来19カ月ぶりの下落となった。依然として高値水準であるものの、価格上昇一辺倒の状況には変化がみられる。
その背景には、価格高騰による買い手の負担増加に加え、住宅ローン金利上昇への警戒感があるとみられる。購入需要は依然として存在するものの、買い手は以前より慎重な姿勢を強めているようだ。
一方で、在庫価格は上がり続けている。2026年5月の平均在庫価格は6643万円となり、前年同月比+30.3%と大幅な上昇となった。特に2024年半ば以降、在庫価格の上昇ペースは加速している(【グラフ1】参照)。

この時期は首都圏の新築マンション価格が急騰した時期と重なり、同エリアの中古マンション価格の上昇にも影響した。これを受けて売却を検討する所有者が増加した可能性が高い。売り手は高値での売却を期待して市場に参入しているとみられる。
こうした強気の価格設定は、2024年から2025年前半にかけては一定程度受け入れられていた。しかし2025年後半以降、市況に変化がみられる。
都心3区で在庫が43.7%急増、売り手と買い手の深刻なミスマッチ
1都3県の主要エリアの2026年5月の在庫戸数を見ると、3県では、さいたま市が前年同月比▲10.0%、千葉県総武地区(市川市、船橋市、鎌ケ谷市、浦安市、習志野市、八千代市)が▲8.3%、横浜市が▲3.0%と減少する一方で、東京都では東京都心3区(千代田区・中央区・港区)は+43.7%、東京城西地区(新宿区、渋谷区、杉並区、中野区)は+12.7%と増加した(【グラフ2】参照)。

一般に、中古マンション市場が好調な局面では、価格上昇とともに在庫は減少する。ところが現在は、価格が高止まりする一方で、一部エリアで在庫が増加している。
中でも注目されるのが東京都心部、つまり首都圏中古マンション市場の価格上昇をけん引してきたエリアである。その都心部で在庫増加がみられる点は、「価格が上がっているが、以前ほど売れていない」という市場の変化を示している可能性がある。
都心部で在庫が増加している背景の一つには、売り手と買い手の価格認識のずれがあると考えられる。
2020年以降の価格上昇を経験した売り手は、「マンション価格は今後も上昇する」との期待を前提に価格設定を行う。一方で買い手は価格高騰や金利上昇を受けて慎重な姿勢を強めている。
一般に、不動産は条件の良い物件ほど先に売れる。そのため、成約物件は、在庫物件よりも立地や築年数などの条件が優れていることが多い。
例えば、2025年に首都圏で成約した物件の築年数は平均約27年であるのに対し、在庫物件は平均約30年となっている。つまり、通常であれば、立地や築年数などの条件に優れた成約物件の価格は在庫価格を上回る。実際、2020年6月から2025年5月まではこのような傾向がみられた。
しかし、2026年5月の首都圏中古マンション市場では、在庫価格が成約価格を約3割上回っている(【グラフ1】乖離率)。売り手が期待する価格と買い手が受け入れる価格との間に大きな乖離が生じていることがうかがえる。
また、富裕層向けマンション市場の需給環境に変化が生じている可能性がある。
近年は都心部を中心に、数億円規模のマンション取引や転売事例が相次ぎ、価格上昇をけん引してきた。しかし、価格水準の上昇に伴い、高価格帯物件の滞留が長期化しているとみられる。
その結果、平均在庫価格は市場全体の値上がりだけでなく、売れ残った高価格帯物件の増加によっても押し上げられている可能性がある。
「強気なら売れない」競争力のない物件を待ち受ける価格調整
買い手が慎重に行動していることは、成約率にも表れている。
在庫戸数は月末時点で売り出されている物件数、成約戸数は当月中の成約物件数を示す。成約戸数を在庫戸数で割ると、市場に存在する物件のうち、実際に売れた割合を成約率として捉えることができる。
2026年5月はさいたま市が9%、千葉県総武地区が10%、横浜市が8%となった。また直近5年間の首都圏平均成約率は約7%である。これは、市場に供給されている物件の大半が短期間では成約に至っていないことを示している。
もちろん、不動産市場では一定の在庫が存在することは自然であり、成約率が低いこと自体が問題というわけではない。しかし、2021年後半には、価格上昇とともに成約率も上昇していた。
その後の成約率は、さいたま市や千葉県総武地区で2025年以降に改善する一方、東京都心3区では2025年後半から低下傾向にある(【グラフ3】参照)。価格は高水準を維持しているものの、取引がそれに見合って増えているわけではない。買い手は以前にも増して物件を厳しく選別しているとみられる。

以上を踏まえると、中古マンション市場は「全面的な価格上昇局面」から「選別市場」へ移行しつつある。
価格は依然として高水準だ。しかし、都心部を中心とした在庫増加や成約率の伸び悩みを見る限り、市場全体が一様に活況とは言い難い。
近年は新築マンション価格の上昇を受けて中古マンション市場に資金が流入してきたが、価格水準の上昇によって購入できる層は徐々に限定されつつある。需要が減少しているわけではないものの、供給される物件をすべて吸収できるほどの勢いはみられない。
今後は立地や築年数、管理状態、適正な値付けなど、条件に優れた物件は引き続き売れる一方で、競争力に乏しい物件は売却期間の長期化や価格調整を迫られる局面が増えるだろう。
加えて、今後は高齢化の進展に伴い、相続を契機とした売却も増加すると見込まれる。相続物件は必ずしも売却を急ぐケースばかりではないが、自ら利用する予定のない住宅については中古マンション市場への売り圧力となり得る。
特に、相続によって複数の住宅を所有することとなった場合には、一部を売却する選択がなされやすい。そのため、郊外部や地方部、築年数が経過した物件を中心に供給が増加し、物件間の競争がさらに強まることも考えられる。
マンションバブル一変、「適正な値付け」が成約を左右する時代へ
市場環境の変化は、売り手と買い手の双方の行動にも影響を与える。
売却を検討している人は、「高値で売れるまで待つ」という姿勢ではなく、あらかじめ売却期限を設定し、その期限に応じて価格戦略を見直すことが重要となる。
実需価格帯であれば、住宅取得控除による駆け込み需要が見込める年末や、期末前で人の移動が多い2月から3月を過ぎても成約に至らない段階で、また高価格帯のマンションであれば、2〜3カ月程度経っても問い合わせや内見申し込みが少ないなど反響が乏しい段階で、価格調整を含めた対応を検討する必要があるだろう。
一方、購入を検討している人にとっては、ここ数年よりも価格交渉の余地が広がる可能性がある。
2026年5月の中古マンション成約価格の下落は、在庫増加や成約の鈍化を受けた売り手側の価格調整を反映しているとみられる。こうした状況を踏まえると、長期間売り出されている物件を中心に、売り手が価格交渉に応じるケースもあるだろう。
なお、売り手がローンを活用して取得したマンションについては、残債の関係から価格調整が難しい場合もある。そのため、価格交渉に応じてもらえない場合には、無理に固執せずに、ほかの候補を検討することも有効だろう。
中古マンション市場は依然として高値圏にある。しかし、「強気な価格設定でも売れる」という時代ではなくなりつつある。今後は市場全体の価格動向よりも、立地や築年数、管理状態といった個別要因を踏まえた価格設定が成約を左右する。
売れる物件と売れない物件の差は、今後さらに広がっていくだろう。
筆者:渡邊 布味子
