『となりのMr.パーフェクト』画像はtvN公式サイトより

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 大好評のうちに最終回を迎えたNetflixで配信された韓国ドラマ『となりのMr.パーフェクト』。遠慮なく何でも言い合う幼なじみの2人が、ヒロインの帰国をきっかけに、人生や家族の問題に向き合いながら次第に近づいていく。親世代の夫婦物語も見応えがあったが、何より現代の30代の恋や悩みが等身大に描かれていたことが印象的だった。

参考:『となりのMr.パーフェクト』が迎えた幸せな最終回 チョン・ヘインの眼差しが愛を語る

 その人気を支えていたのは、何といってもチョン・ヘインだろう。韓国企業評判研究所のドラマ俳優ブランドランキングでも、韓国でドラマが放送されていた9月、10月と2カ月連続で1位を獲得した。

 本作の原題は、『お母さんの友達の息子(韓国語で『엄마 친구 아들=オンマチングアドゥル』)』。韓国は言葉を略すのが好きだが、この言葉にも“엄친아=オムチナ”という略語があり、“何でもできる完璧な息子”、“どんなに頑張っても勝てない存在”という意味で使われるのだとか。今回チョン・ヘインが演じた建築家のチェ・スンヒョは、その原題が示す登場人物なのである。

 意外にも初めてラブコメディに挑戦したというチョン・ヘインは、抜群の適応力を見せ、そんな“オムチナ”役でかわいい笑顔と甘い魅力を発揮。胸キュンとともに笑いと涙を提供していたが、時折苦悩の表情も見せ、ドラマに抑揚を与えていた。これまで硬軟いずれの演技にも挑戦してきたことが、本作でも活かされていたように思う。

 今や飛ぶ鳥落とす勢いの人気俳優だが、幼い頃から俳優に憧れていたわけではなく、もともとは理系男子だったというチョン・ヘイン。大学で生命工学を学ぼうと考えていたが、高校3年のときに映画を観に行った帰りにアイスクリーム屋の前でスカウトされ、急遽大学を放送演芸学科に変更。大学在学中に兵役を済ませ、2014年にドラマ『百年の花嫁』のアイドル役で俳優デビューした。

 いくつかの作品を経て、大きく注目を集めたのは『トッケビ~君がくれた愛しい日々~』。主演のキム・ゴウンの元恋人役で出番は少なかったが、麗しい姿が話題となりSNSを賑わせた。その後は、『あなたが眠っている間に』で二番手男子を好演し、『よくおごってくれる綺麗なお姉さん』で『愛の不時着』のソン・イェジンの相手役に抜擢され大ブレイク。韓国で“国民の年下男子”という称号を得た。

チョン・ヘインas一途な献身男子ウタク「あなたが眠っている間に」スペシャルPV  基本的にはそんな経歴で紹介される柔らかなイメージが魅力のチョン・ヘインだが、一方で骨太な役柄にも果敢に挑んでおり、個人的にはそちらのチョン・ヘインのほうが好きである。

 例えば、『刑務所のルールブック』『スノードロップ』、2024年に日本公開された映画『ソウルの春』でも凛々しく軍人役を演じているが、その代表格といえば、Netflix配信の『D.P. -脱走兵追跡官-』シリーズだろう。

 本作は、軍の脱走兵を追跡する部隊D.P.(脱走兵追跡官(Deserter Pursuit=D.P.))を描いた社会派ヒューマンドラマである。その中でチョン・ヘインは、D.P.に所属する軍人役を演じ、笑顔を封印してタフな姿を見せた。もともと童顔には似合わない筋肉ボディの持ち主として知られるが、さらに鍛えてボクシングのアクションも披露しているのだ。

 この『Deserter Pursuit』で演じたアン・ジュノが本来のチョン・ヘインの性格に最も似ているともいわれるが、その実際の人柄は『俳優は旅行中』などの旅バラエティで垣間見ることができる。ちょっぴり天然な面もあるが、確かにアン・ジュノのように物静かで芯が強い人物のようにも見える。

『D.P. -脱走兵追跡官-』予告編 - Netflix ちなみに、チョン・ヘインは、朝鮮王朝時代の儒学者、丁若𨉷(チョン・ヤギョン)の直系6代目の子孫である。丁若𨉷は、『イ・サン』などの韓国時代劇にもたびたび登場する韓国ではよく知られた偉人だ(巷で有名なイケメンだったという逸話も……)。

 『となりのMr.パーフェクト』の第12話で、チョン・ヘイン扮するスンヒョが「本を読んでいたんだ」とヒロインに手渡したのは、この丁若𨉷の著書『牧民心書』。知っていた人は、「おっ!」となったはず。どんな役を演じても、どことなく気品が漂っているように感じるのは、もしかしたら由緒ある出自も影響しているのかも?

 『となりのMr.パーフェクト』では、本当につき合っているのではないかと囁かれるほど、ヒロインのチョン・ソミンと胸キュンなシーンを連発したチョン・ヘイン。本作のあとの出演作として韓国で上映されている映画『ベテラン2』では、そんな姿からは想像できない驚きの変身を見せているという(ネタバレになるので、詳細は明かさないが……)。かわいい笑顔だけじゃない幅広い魅力で、今後も楽しませてくれそうだ。

(文=高山和佳)