ついに060まで登場した携帯電話番号

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番号マウンティング

 携帯電話番号の頭の3桁に、「060」が導入されることとなった。これを受け、FNNプライムオンラインには「『090は昭和』『090は旧世代』携帯番号頭に060導入へ…若者と中年〜高齢者間に世代間ギャップも 『070』開放以来11年ぶり」という記事が登場し、ネットを中心に話題となった。

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 無論、テレビのニュース番組で放映されたネタのネット転載版だ。大元の番組を視聴すると、1999年からの「090」が40代以上で、2002年からの「080」が2002年〜で20〜40代、「070」が2013年からの新規だと説明していた。

ついに060まで登場した携帯電話番号

 確かに放映内容をまとめると、上記タイトル通りのネット記事にはなる。だが、このタイトルにした編集者は、「『090』で始まる番号は古臭い」と言いたいのだろうということが透けて見える。私はこれを読み、不思議な感覚に襲われた。というのもかつて、携帯電話の番号は「古ければ古いほどイケてる」という時代があったのだ。

 携帯電話は1995年あたりから少しずつ普及していき、2000年になると高齢者と子供以外はほぼ全員が持っているような状況に。普及が広がるにつれ発生したのが「番号マウンティング」である。

「3」の人々

 一体どういうことか。元々携帯電話番号は現在の11ケタではなく、10ケタだった。たとえば、現在「090-3111-xxxx」という番号があるとしよう。これは元々「030-111-xxxx」だったのだ。この時の冒頭の「3」がその後11ケタになった時に「090-3」になったのだ。同様に「080-」の場合は「090-8xxxx」となる。つまり、「090-3xxx-xxxx」は、古くから携帯を持っている人が所有する番号ということになる。

 なので、この「3」の番号を持つ人々は終始ドヤ顔だった。当時最新鋭の機器であった携帯電話を初期の頃から持っている、つまり、最先端を行くナウい人だったのだ。その象徴が「3」だったのである。

 私は1997年に広告会社の社員になったのだが、自分以外の社員は全員携帯電話を持っていた。まぁ、「感度の高い業界」ということと、とにかく忙しいので携帯電話は必須アイテムだったのだ。

 だが、新入社員の場合は特に重要な仕事を任されるわけでもない。なので私は、すぐに携帯電話は買わなかった。どうせ、会社内にいれば打ち合わせ等は先輩社員が「行くぞ」と声をかけてくれるから。

070は安いPHS

 1999年に携帯電話の番号は11ケタに変わった。それまで「030-」だった人は「090-3」に変わった。「3」の人々は「私は随分昔から携帯電話を持っていたんだよ! この番号は絶対に手放さない!」なんてことを言っていた。

 それだけ最古参の「3」は憧れの番号だったし「譲ってくださいよ〜」なんて言う人もいたほどである。つまり、今と逆なのだ。今は「古臭い」と言われる「090」で、さらにその中でも最古参の「3」は一番化石じみた存在になっているのだが、2000年代前半は「090-3」が一番イケていたのである。

 そのほかにもイケていたのは「2」「4」「8」である。2000年に携帯電話をようやく購入した私は「9」だったが、当時はバカにされた。さらに言うと、現在「080」があるが、これは新しいものであるのに加え、会社から与えられる携帯電話といった側面もあったためバカにされていた。

「070」については元々「安い携帯電話」であるPHSの番号だったため、その番号が書かれた名刺を出すと「ケッ」と思われることもあった。こうした無駄な「電話番号マウンティング」が2000年代前半には存在したのである。

「090」はまともな人の証?

 しかし、今は携帯電話でも「070」があるし、そして今後、「060」も登場する。かつて「070」がバカにされていた時代を知らない世代が多くなったということであろう。というか、いちいち電話番号でマウントを取っていたというのはかなり意味不明ではなかろうか。そして現在、「090」を時代遅れ扱いするのも意味不明である。

 ただし、東京の場合「03」がないのが評価を高めることもある。町中華の店の軒先に「xxx-yyyy」という7ケタの番号が書かれているのを見たことがある人もいるだろう。元々東京の場合、「03-xxx-yyyy」といった形の9ケタだったが、1991年に「03-3xxx-yyyy」となった。

 つまり、7ケタの番号を記している店は1991年以前から存在している店で、「老舗」であるということを意味するのである。これは「古臭い」どころではなく、33年間潰れていない名店であることを意味する。

 今回の「060」をめぐる「090は古臭い」騒動もそうだが、今、「090」を維持している人はそこそこ携帯電話代金を踏み倒すようなことをしなかったまともな人、という意味合いもあるのである。

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう)
1973(昭和48)年東京都生まれ、佐賀県唐津市在住のネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『よくも言ってくれたよな』。最新刊は『過剰反応な人たち』(新潮新書)。

デイリー新潮編集部