「覚醒剤」「脱税」「暴力団」不祥事にまみれた不動産取引…マンション開発ブームの裏で六本木の黒服が「大物地面師」になるまで

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今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第19回

『「積水ハウス事件」首謀者・“内田マイク”の正体…世間が不動産バブルに沸く中、彼はいかにして「地面師のドン」になったのか』より続く

山口組元幹部が語る「内田マイク」

「マイクのことはよう知っとるで。前は六本木のクラブで黒服をしとったんですわ。俺らはその頃からの付き合いやさかい、30年くらい前の話ですな。けど純粋な日本人のはずやで、少なくとも米兵のことなんか聞いたことあらへん」

そう語ってくれたのは、山口組の元幹部である田之上龍三(仮名)だ。言うまでもなく「黒服」とはバーやクラブのボーイのことを指す。文字どおり黒い服を着ている黒子だ。田之上はバブル当時、東京進出を果たした山口組山健組系の3次団体に所属し、不動産や株取引で稼いできた。その後、引退するがかつては経済やくざとして知られてきた。こう推測する。

「マイクいうようになったんは、洒落かもわからへんけど、氏素性を誤魔化す意味があるんかもしれませんな」

ゴルフ上級者の一面

埼玉県出身の内田は、若い頃からゴルフに熱中し、かなりの腕前でもある。2015年6月に開かれた「内閣総理大臣杯第46回日本社会人ゴルフ選手権」の「マンデートーナメント埼玉会場Aブロック」で、87のスコアーでプレイし、10位に入っている。そのときの出場名は「内田英吾」で自ら経営する不動産会社「環リアルパートナーズ」所属となっている。

前述したように、内田マイクが地面師として暗躍するようになったのは、80年代後半から90年代初頭にかけた最初のバブル当時ではなく、そのあとにやって来た90年代末から2000年代前半のIT・ファンドバブル期だ。田之上がこう記憶をたどった。

「90年代初頭のバブル崩壊後しばらく不動産はさっぱりやったけど、この頃になると、ホリエモンや村上ファンドなんかが出てきて景気がようなった。それで、新興のマンションデベ(デベロッパー)の羽振りがようなっていってね。青山メインランドや京和建物、ダイナシティ、ABCホームなどの地上げ業者が、マンション開発のデベロッパーとして成功していった。そんななかでマイクも地上げの世界に足を踏み入れていったんや」

不動産取引で成り上がってきた新興デベロッパーの経営者たちの多くは、山口組や住吉会といった広域暴力団とのつながりも深く、また同業者同士の付き合いも多い。この頃、芸能人やスポーツ選手、政治家のタニマチとして名を馳せる一方、当人の生活が派手になり、事件にまみれるケースも少なくなかった。

たとえば「中興建設」という小さな建設会社の創業からスタートした中山諭は、99年12月に同社をダイナシティと社名変更し、「スカーラ」シリーズを売り出した。独り身のサラリーマンや共働きの若い世帯向けのワンルームマンションとして大当たりした。

ところが05年、とつぜん覚醒剤事件で逮捕される。会社は堀江貴文の率いるライブドアに買収されたが、そのライブドアも粉飾決算事件にまみれ、ダイナシティは倒産、清算されてしまう。

「脱税」「恐喝」「暴力団」にまみれる世界

またABCホームは94年に塩田大介が設立した。塩田は青山メインランド社長である西原良三の運転手から成りあがったといわれる。バブル崩壊後に売れ残った大手不動産業者の在庫物件を「ドメイン」シリーズと命名して低価格で転売し、大きな利益をあげていった。東京・西麻布の5階建てマンション1棟を買い取り、「迎賓館」と称して有名人を招き、評判になった。

その塩田も、折からのITやファンド業者の摘発が一段落したあとの08年12月、東京地検特捜部に法人税法違反(脱税)容疑で逮捕される。09年8月に執行猶予付きの懲役2年の有罪判決を受けたのち、11年9月には西麻布の自宅前で暴漢に襲われた。そのABCホームの財務部長として塩田といっしょに脱税で有罪判決を受けたのが、積水ハウス事件の主犯格だったカミンスカスこと小山操だ。小山は六本木の右翼団体に所属し、国税当局とのパイプを吹聴し、企業の税務対策を依頼されるようになったという。

こうして新興デベロッパーが乱立するなか、内田はいつしかマンションデベロッパーや暴力団関係者と接点を持つようになり、地上げを手伝うようになる。内田をスカウトしたのが、京和建物の遠藤久人だった。遠藤はライオンズマンションの大京から独立し、巨乳タレントの細川ふみえと結婚して芸能界を驚かせた。暴力団関係者との交友も多く、サイパンでおこなった細川との挙式の際、恐喝事件を引き起こした。一方遠藤の下で地上げを始めた内田は、マンションデベロッパーの世界で少しずつ頭角をあらわしていく。先の元山口組幹部の田之上が語る。

「内田マイクは京和の遠藤から、エイトランドという会社を任されていた時期もあったで。遠藤よりずいぶん年上やから、頼られたんと違うかな。エイトランドの社長を名乗り、いっときはけっこう羽振りよかった。俺らもデベの連中のいろんなトラブルの相談に乗ってきたし、そこにマイクらも入ってきよった。訳アリ物件の情報をけっこう持っとるから、重宝したんや思うわ」

六本木の黒服から不動産会社の社長に転身した内田は、やがて地面師として名を知られるようになっていった。池袋グループのボスとして逮捕されるのは、前述したとおりだが、同じ頃、デベロッパーのあいだで話題になったもう1つの事件があった。田之上がポツリと言った。

「森内いう男がやった銀行ローンの詐欺やけど、エイトランド時代の内田も関係していたはずやで」

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