余りご飯を冷凍して「チャーハン」に 美智子さまの教えは「食べ物を無駄にしない」
女性皇族は、結婚されると天皇家を離れる。かつて美智子さまは、娘の紀宮さま(今の黒田清子さん)に、やがて嫁いで一般の社会で暮らすことになったときに困らないよう、料理を教えられた。前例になかったご自分のキッチンをお持ちになった美智子さまは、マイキッチンで紀宮さまと一緒に料理やお菓子を作られた。美智子さまがもっとも大事にしたのは、残り物を工夫しておいしい料理にする「食材や食べ物を大切にする心」だったという。今回は、美智子さまが紀宮さまに教えた「余りご飯で作るチャーハン」の物語である。
やがて降嫁する紀宮さまに実践的な家事を教える
浩宮さま(今の天皇陛下)のご誕生後、赤坂御用地に新東宮御所が完成した。その1階のリビングの隣には、3坪ほどの美智子さまのプライベートなキッチンが設けられた。ご公務でお忙しいなか、美智子さまは浩宮さま、礼宮さま(秋篠宮さま)、紀宮さまに心を込めた料理を作られた。美智子さまは、家庭で作る料理のぬくもりを家族と分かち合いたいと思われたのだろう。
美智子さまは、いずれ降嫁されることを念頭におき、紀宮さまに仕事を与えることで、民間の家庭に入ったときにすぐ役立つ家事を教えられた。小さな頃の紀宮さまの仕事は、毎朝、東宮御所の門に届く牛乳と新聞を取りに行き、新聞をお父さま(今の上皇陛下)に、牛乳はキッチンにいる美智子さまに届けることであった。
紀宮さまが学習院初等科3年生になると、毎週日曜日には食事の準備と後片付けも手伝われるようになった。美智子さまとキッチンに立ち、野菜や魚、肉などを包丁で切ることも学ばれた。お米のとぎ方や電気釜の使い方をはじめ、薩摩汁やフルーツポンチの作り方を教わった。
東宮御所には、皇太子(今の上皇陛下)ご一家の専任の大膳(天皇家の料理番)がいる。美智子さまは、ご公務の合間にときおりキッチンに立たれて、大膳が出した料理に1~2品手料理を加えられることもあった。
紀宮さまの食べ残しは、おいしいチャーハンに
ある日、食事のあとで大膳の人たちが片づけをしていると、女官が少量のご飯を運んできた。紀宮さまが食べ残されたご飯だった。
女官はこう言った。
「紀宮さまの食べ残したご飯は冷凍してください、と美智子さまからのお申しつけです」
大膳では女官から受け取ったご飯を冷凍しておき、数日後に皇太子殿下と美智子さまが紀宮さまを交えて食事をした際に、チャーハンにしてお出しした。美智子さまは、「食べ物を大切にし、無駄にしないように」と紀宮さまにお教えしたかったのだろう。
料理の腕を磨かれ、手作りのお弁当を持って職場に通う
大学を卒業されると、紀宮さまは山階鳥類研究所に非常勤の研究助手として勤務されるようになった。紀宮さまはご自分で作ったお弁当を持って職場に通い、昼時になると同僚の人たちと一緒に楽しく歓談しながら食事されていたという。お弁当用に炊いたご飯が残ると、大膳で冷凍しておいて数日後にチャーハンになって食卓に上ることもあった。
その後、料理の腕を磨かれた紀宮さまは、和洋中のすべての料理を作られるまでになったという。やがて幼ななじみの黒田慶樹さんとご結婚され、黒田清子さんとなった。「残り物を工夫しておいしく食べる」「食材を無駄にせず、ごみを出さない」という美智子さまの教えを守り、日々の工夫を楽しみながら、おいしい家庭料理を作られていることだろう。(連載「天皇家の食卓」第23回)
参考文献/『天皇家の姫君たち 明治から平成・女性皇族の素顔』(渡辺みどり著、文春文庫)、『宮中 季節のお料理』(宮内庁監修、扶桑社)、『陛下、お味はいかがでしょう。「天皇の料理番」の絵日記』(工藤極著、徳間書店)
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文・写真/高木香織
たかぎ・かおり。出版社勤務を経て編集・文筆業。皇室や王室の本を多く手掛ける。書籍の編集・編集協力に『美智子さま マナーとお言葉の流儀』『美智子さまから眞子さま佳子さまへ プリンセスの育て方』(ともにこう書房)、『美智子さまに学ぶエレガンス』(学研プラス)、『美智子さま あの日あのとき』、『日めくり31日カレンダー 永遠に伝えたい美智子さまのお心』『ローマ法王の言葉』(すべて講談社)、『美智子さま いのちの旅―未来へー』(講談社ビーシー/講談社)など。著書に『後期高齢者医療がよくわかる』(共著/リヨン社)、『ママが守る! 家庭の新型インフルエンザ対策』(講談社)。