「サザエさん」でも「笑点」でもない…視聴率を見れば日本の景気の先行きがわかる「日曜日のテレビ番組」の名前
■日常生活から景気動向がわかる
経済は、人びとが日々営む活動の結果です。そのため、景気動向は、経済指標や金融政策などだけでなく、こうした日常生活の行動を追うことからも捉えることができます。本項では、人びとの生活時間とテレビの視聴率から現代社会の概観をつかんでみましょう。
まずは、日本に住んでいる人の生活時間を2021年の調査データをもとに確認してみます。一日のうち、最も多くの時間を費やしているのは「睡眠」で7時間54分です(5年前の前回調査より14分増)。
以下、「仕事」が3時間28分(同5分減)、「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」が2時間8分(同7分減)、「食事」が1時間39分(同1分減)、「休養・くつろぎ」が1時間57分(同20分増)などで続いています。特に、「睡眠」や「休養・くつろぎ」が5年前より増加する傾向が表われています。
総じて、「睡眠」「食事」など生理的に必要な活動時間や、「仕事」など社会生活を営む上で義務的な性格の強い活動時間だけでなく、各人が自由に使える時間の活動である「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」や「休養・くつろぎ」に対してもそれぞれ一日のうち1割弱の時間を割いている様子がうかがえます。
■「テレビ」や「仕事」に割く時間は減っている
また、主な行動の種類について過去20年間の推移をみると、「身の回りの用事」や「休養・くつろぎ」などの時間は増加傾向にある一方で、「テレビ・ラジオ・新聞・雑誌」や「交際・付き合い」などの時間は減少傾向となっていました。なお、「睡眠」については、前回調査まで減少傾向でしたが、最新結果では男女ともに増加に転じています。一因として、新型コロナウイルス感染症の流行にともなうリモートワークなどの働き方の変化が、通勤時間の短縮などにつながり、睡眠時間の増加に作用したと考えられます。
さらに有業者(パート・アルバイト等含む)の「仕事」時間は、男性が6時間27分(5年前の前回調査より22分減)、女性が4時間42分(同5分減)と、男女ともに減少傾向が続いています。
■夫の家事、育児の時間は増加傾向
では、家庭における家事関連時間はどうでしょうか。子どもがいる世帯のうち、6歳未満の子どもがいる世帯をみると、夫の家事関連時間は1時間54分、妻は7時間28分で、家事関連の多くを妻が担っている状況です。
その内訳は、夫は家事30分(2001年比23分増)、育児1時間5分(同40分増)、妻は家事2時間58分(同55分減)、育児3時間54分(同51分増)となっています。少ないながらも夫の家事関連時間の増加が顕著であり、過去20年間で子どものいる夫婦が費やす家事関連の時間の割合は大きく変化してきていると言えそうです。
■日本の景気動向を表すアニメ「ONE PIECE」の視聴率
こうした日常の生活行動のなかで、景気変動との相関がみられるのが、実はテレビ視聴と言われています。特に、国民的アニメである「サザエさん」(フジテレビ)や現在でもしばしば視聴率20%を超える長寿番組「笑点」(日本テレビ)などが、景気との関連性を指摘されてきました。
いずれも日曜日の夕方に放送され(一部地域を除く、以下同)、この時間帯に自宅でテレビを観て過ごしていると想定されることから、番組の視聴率が高いと景気は悪く、視聴率が低いと景気は良好だといった見方がなされています。
しかし、新型コロナウイルス感染症以前のデータになりますが、近年では、少し様相が異なってきているようです。2015年〜2019年のデータを用いて、帝国データバンクの景気DIとテレビ視聴率(ビデオリサーチ調べ、リアルタイム視聴率、関東地区)の相関関係を分析すると、日曜日の朝に放送されている「ONE PIECE(ワンピース)」(フジテレビ)との相関が最も高いという結果となりました。
時差分析ではワンピースの視聴率が景気DIを概ね4カ月先行して動いており、景気の先行きを見通すにはちょうど良い指標となることが示唆されます。簡便な回帰分析を実施したところ、ワンピースの視聴率が1ポイント上昇すると、4カ月後の景気DIは約0.37ポイント低下するとの結果もみられました。
■「日曜日の朝」の捉え方の変化
なぜ、景気動向とテレビ視聴率の関係性が夕方から朝に変化したのでしょうか。
一つの理由として、日曜日の朝(7時〜9時30分)の在宅率が、20年前に比べて、低下していることが考えられます。背景には、経済のサービス化が進展したことなどにともない、日曜日に仕事をしている人が少しずつ増えていることです。そのため、日曜日の朝がより景気に対して敏感に反応する傾向が表われてきた可能性もあるでしょう。
しかしながら、若者を中心に幅広い年齢層でインターネットを利用する時間が増加しているという事実もあるので、人びとのテレビ視聴時間は減少傾向が続いています。加えて、コロナ禍を経て、新型コロナの流行以前とは行動変容が生じています。
娯楽の王様と言われて久しいテレビですが、さまざまな社会背景の変化をともないながらも、景気動向と視聴率の関係性はいままでと少し違った見方で捉えていく必要があるかもしれません。
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帝国データバンク 情報統括部1900年創業、全国に83の事業所を持つ民間信用調査会社最大手。1700人の調査員を抱え、現地現認による調査活動や情報収集で200万社の企業信用調査報告書データを蓄積。保有データを基に市場調査、マーケティングサービスや経営支援コンサルティングなども行っている。情報統括部は、長年にわたり蓄積してきたデータベースとノウハウ、そして全国に広がるネットワークを活かし、業界動向、景気動向などを独自の知見を交えて広く社会に発信している。主な著書に『コロナ倒産の真相』『ビッグデータで選ぶ地域を支える企業』(以上、日経BP)、『地元の力を生かす「ご当地企業」』(中央公論新社)、『百年続く企業の条件』(朝日新聞出版)など。
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(帝国データバンク 情報統括部)