ワクワク!(それぞれ公式サイトより)

写真拡大

 世界中の映画やドラマ関係者たちがいま、日本発のコンテンツに熱い視線を注いでいるという。コミックスの世界累計発行部数5億1000万部超の大ヒット漫画「ONE PIECE」をNetflixが実写ドラマ化し「大成功」を収めたことで、米ハリウッドを中心に沸き起こる“日本フィーバー”の裏側を覗いた。【数土直志/ジャーナリスト】

 ***

【写真】「激アツ!」「絶対ムリだと思ってた」… ハリウッドで「実写化」が企画中の大人気アニメとは

 9月初旬、業界関係者を驚かせるビッグニュースが駆けめぐった。俳優・真田広之氏(63)が製作総指揮・主演を務めた「SHOGUN将軍」が、“テレビ番組のアカデミー賞”と称される米エミー賞で25のノミネートを獲得。うち14部門でアワードを獲得する快挙を成し遂げたのだ。

ワクワク!(それぞれ公式サイトより)

 日本の戦国時代を舞台とした「SHOGUN」は1975年に発表された米国小説が原作で、80年に一度、アメリカで映像化されている。2度目の実写化に当たり、本作品では多数の日本人スタッフが制作に参加し、今回の受賞でも編集賞、キャスティング賞、音響編集賞、音響賞、スタント・パフォーマンス賞、衣装デザイン賞を日本人が授与。15日にはいよいよ作品賞や監督賞、脚本賞、俳優部門などの発表を控えるが、すでに期待は最高潮に高まりつつある。

「SHOGUN」の大ヒットと高評価の理由としてはもちろん、作品の高いクオリティが一番に挙げられるが、それだけでは十分といえない。背景にある、世界のエンターテイメント界で広がる「日本ブーム」を指摘しないわけにはいかないからだ。

 これまで日本のコンテンツの“海外進出”といえば、アニメやゲーム、マンガなどを直接的に「輸出」するのが主流だったが、最近は少し様相が変わり始めている。たとえば21年に世界的にヒットしたゲーム「Ghost of Tsushima」は、鎌倉時代末期を舞台にした米国製のゲームだ。また英ロンドンでは、かの名門劇団ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーが舞台版「となりのトトロ」をロングラン公演するなど、日本を題材としたコンテンツが様々な形で世界に届き始めている。

あの大人気マンガも続々「実写化」

 なかでも現在、注目を集めているのが「実写化」というジャンルだ。これまでも日本のコンテンツが海外で実写化されたケースは少なくなかった。有名なところでは、トム・クルーズ主演「オール・ユー・ニード・イズ・キル」(14年)やスカーレット・ヨハンソン主演「ゴースト・イン・ザ・シェル」(17年)、ジェームス・キャメロン製作「アリータ:バトル・エンジェル」(19年)などが挙げられる。ただしヒットに恵まれたかといえば、そうでない作品も存在したのが現実だ。

 ところが、そんな状況に変化が訪れている。転機となったのが、23年8月に配信がスタートしたNetflixシリーズの実写ドラマ「ONE PIECE」である。世界各国で話題となり、23年下半期のNetflixで「最も視聴された番組」に輝き、配信開始直後に“シーズン2”の制作決定が発表されるなど、異例の大成功を収めた。これを受け、マンガなど日本のコンテンツを実写映画・ドラマ化する流れが加速しているのだ。

 実際、19年公開の「名探偵ピカチュウ」はすでに続編を制作中で、セガの人気ゲームタイトルから生まれた「ソニック・ザ・ムービー」は今冬に第3弾が公開される予定だ。他にも「NARUTO」や「僕のヒーローアカデミア」「進撃の巨人」といった人気漫画のほか、テレビアニメ「機動戦士ガンダム」に映画「君の名は。」、さらに一世を風靡したゲーム「ゼルダの伝説」なども制作に向け企画が動き出しているという。

 これらの作品群を見ると、実写化の題材となるコンテンツ選びの傾向に“異変”が生じていることが分かる。

「鉄板アニメ」のポテンシャル

 かつて海外マーケットの関心を惹く作品といえば、「攻殻機動隊」や「銃夢」「オール・ユー・ニード・イズ・キル」といった“エッジ”の利いたSFモノか、あるいはニッチでマニアックな作品が好まれた。しかし今は「NARUTO」や「ヒロアカ」「進撃の巨人」「君の名は。」など実績に裏打ちされた“鉄板アニメ”が目立ち始めている。

 日本アニメの人気が世界的にかつてないほど高まっているのは事実だが、それでも海外には日本ほどアニメが一般に受け入れられていないところも少なくなく、「大人はアニメを見ない」といった地域もいまだ存在する。それら“フロンティア”に対し、実写化が「世界への扉」となることを期待する声は多い。

 一方で、この勢いは日本で制作したコンテンツが、海外市場で“台風の目”となり得る可能性も秘めている。Netflix の作品でもう一つ注目したいのは、23年下半期・総合ランキング(シリーズ)の「日本番組」で1位となった「幽☆遊☆白書」だ。制作したのは「ゴジラ-1.0」でもスポットライトが当たったROBOTである。

「幽☆遊☆白書」の“ブレイクスルー”のキーワードは「エンタメ作品」としての完成度の高さだが、「ゴジラ-1.0」も重いテーマを内包しながらも、目を見張るVFXを見どころとしたエンタメ化に成功。世界で愛されてきた「KAIJUゴジラ」のブランド力も相まって、アメリカで大ヒットを記録したのは周知の通りだ。

日本のコンテンツ産業の“夜明け”

「ゴジラ-1.0」や「SHOGUN」が得た高い評価は、日本映画が持つクリエイティビティが“武器”となることを示しており、予算と時間を十分にかけることができれば、世界と伍していくのは可能なことを証明した。今後は日本で制作した作品と、日本のコンテンツを題材に海外で制作された作品が競い合う「フラットな未来」が訪れると予想されている。

 取り巻く状況が目まぐるしく変わるなか、現在、課題として浮上しているのが日本の映画・ドラマの制作現場における「環境整備」だ。相応の制作予算の投下を可能とするシステムづくりも重要だが、「劣悪」とも称される制作環境の改善こそが「日本のコンテンツ産業の持続的な発展」を実現するカギになると指摘されている。

 その折りも折り、9月9日に総理官邸で岸田文雄首相も出席し、コンテンツ産業官民協議会とあわせて映画戦略企画委員会が開催された。映画業界のスタッフが持続的に働ける環境の整備と映画産業の強化に向けた方策を探るための話し合いの場が設けられたのだ。これは映画監督の是枝裕和氏らが中心となり、以前から発してきた問題提起に、ようやく政府も取り組む決意を固めたということで画期的な一歩といえる。

 海外だけでなく、国内でも吹きはじめた“追い風”を推進力として取り込めるか。官民をあげた「攻勢」に期待したい。

数土直志(すど・ただし)
ジャーナリスト。メキシコ生まれ、横浜育ち。アニメーションを中心に国内外のエンターテインメント産業に関する取材・報道・執筆を行う。大手証券会社を経て、2002年にアニメーションの最新情報を届けるウェブサイト「アニメ!アニメ!」を設立。また2009年にはアニメーションビジネス情報の「アニメ!アニメ!ビズ」を立ち上げ、編集長を務める。2012年、運営サイトを(株)イードに譲渡。2016年7月に「アニメ!アニメ!」を離れ、独立。

デイリー新潮編集部