9回、水谷(右)が2点二塁打を放ち、ベンチを飛び出す新庄監督(中央)=撮影・中島達哉

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 リーグ優勝の可能性を残し、6年ぶりのCS進出も懸かる状況で、終盤戦に臨んでいる2位・日本ハム。チーム一丸で戦う最中にあって、新庄剛志監督(52)から報道陣に対し、思わぬ“要求”があったのは6日のことだ。そこに込められた指揮官の思いと、理由に迫る。

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 あまり聞いたことがない報道陣への“要求”だった。日本ハムがサヨナラ勝ちを収めた6日のオリックス戦(エスコン)。試合後の取材時間の最後に「お願いがあるんですけど」。そう新庄監督が切り出した。

 「今までシーズンを戦ってきて、みんな『頑張ります』、『頑張ります』って言って、でここまで来たじゃないですか?残り試合少ないから、もう頑張るのをやめよう、楽しもう、と。で、取材をしたときに選手が癖で『頑張ります』って言ったら、その言葉を『楽しみます』に変えてもらえます?」

 取材して聞いた言葉を記事化する際に変えることには抵抗がある。それでも「選手たち、知ってますから。変えちゃってください」と念押しした。

 “楽しむ”というワードはすでに浸透しつつある。6日に先発した金村は勝ち星こそつかなかったが7回1失点の好投。「ここ何試合か、自分の中で気持ち的に余裕がなかったのですが、今日は楽しむことを意識してマウンドに上がりました。結果的にストライク先行で投げられてよかったです」と振り返る。

 就任からここまでの3年間、新庄監督の口から選手に向けて「頑張って」と声をかけたシーンは知る限り一度もない。例えば1軍に昇格してあいさつにいった選手。かける言葉は一貫して「楽しんで」だった。

 水谷は「楽しんで」と何度も声をかけられた選手のうちの1人。4月にプロ入り初の1軍昇格を果たしたが、2週間足らずで降格した。その時期を「結果を出してやろうという空回りの方が大きかったかな」と言う。

 それから1カ月後に再昇格。交流戦でブレークし、1軍定着した。「“楽しむ”というマインドに変わってきたのは、結果が出だして気持ちの中で余裕ができてきてから」と振り返る。「気持ちのどこかに持っているだけでもちょっと楽になる部分もある」と話し、「良くない時とかに、そういうマインドを持てるように心がけている」と明かした。

 新庄監督は「もう、みんな一生懸命やってるんで。いかに力を抜いて野球を楽しむかっていうところに、プレーの柔らかさも出てくるし。固まっていいことは一つもないんで」と明かす。“楽しむ”という意識を持つことで余裕をもったプレーをさせる。そんな思いがある。「楽しませる努力はしていこうと。ずっとやってきましたけど、さらにやっていきます」。シーズン終盤戦を経て、6年ぶりのCSへ。楽しむプレーが道を切り開く。(デイリースポーツ・鈴木創太)