実用化はNTTが2026年、ソフトバンク2027年以降、6G空飛ぶ基地局「HAPS」両社の特徴と実証実績を比較 衛星通信との違いを解説

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NTTグループが航空機で知られるエアバスグループと連携し、空飛ぶ基地局「HAPS」で2026年の実用化を目指すことを発表した(6月4日)。これによって「HAPS」への注目が一気に高まった。



NTT陣営は2026年にHAPSの商用化を目指す。NTTドコモとSpace Compass(NTTとスカパーJSATの合弁会社)、エアバス・ディフェンス&スペース(エアバス)、AALTO HAPS Limited(AALTO)で共同会見


NTT陣営のHAPS機体「Zephyr」。富士山に向かう。小型の機体で、世界最長となる64日間の滞空飛行を実現した (出典:NTT)
HAPSで対抗となるのはソフトバンクグループだ。ソフトバンクの先端技術研究所は「HAPS」への取り組みを先んじて具体的に公表し、これまで研究開発を進めてきた。ロボスタでも多くの記事を掲載してきたので目にした読者も多いだろう。



ソフトバンク陣営の超大型HAPS機体「Sunglider」。米AeroVironment, Inc.と共同開発 (出典:ソフトバンク)
NTTとソフトバンク、それぞれが取り組むHAPSはどう異なるのか、開発の実績として、それぞれどこまで進んでいるのか、比較しながら解説しよう。

●NTTは2026年、ソフトバンクは2027年以降、商用化を目指す

ソフトバンク陣営は現時点では要素技術の研究開発を行っている段階であり、商用化の予定は早くて2027年度以降が予定されている。その意味では、NTT陣営が世界初の実用化、サービスを開始する可能性は現時点では高いと言えるだろう。



画像1: NTT陣営のこれまでの実績 (出典:NTT)


関連記事「ドコモとSpace Compass 空飛ぶ通信基地局「HAPS」のAALTO/エアバスに最大1億ドル出資 2026年の商用化をめざす

●ドコモとソフトバンクのHAPS、違いはなに?

ドコモ陣営の強みは、使用する予定のHAPS「Zephyr」が、2022年に無人航空機として世界最長となる64日間の滞空飛行を実現していることだ。電波が正常に届くかの電波伝搬実験(UHF帯 450MHz、2GHz帯)の電波伝搬測定実験)を2021年に実施している(上記の画像1を参照 関連記事「ドコモとエアバス、成層圏のHAPSと地上でスマホ向け電波伝搬実験に成功 最大約140kmの長距離通信も」)。
ソフトバンク陣営の実証は、総フライト時間20時間16分、成層圏の滞空時間5時間38分なので、継続飛行時間はNTT陣営の方が長期間にわたっている。



実証実験の際に実際に撮影された翼の画像 (出典:ソフトバンク)
NTT陣営の「Zephyr」は機体は幅25m、重量75kgと、HAPSとしては比較的小型。ソフトバンク陣営が開発している大型HAPS「Sunglider」の約1/3のサイズだ。その分、ペイロード(基地局などを積める重量)も小さい。搭載できる通信機器はリピーター(中継機器)や小型の地球観測機器に限られる。ソフトバンクのHAPS機体は超大型なので、現在は小型のサブスケールモデル機を作成して飛行試験などを実施している(関連記事「ソフトバンク、成層圏通信プラットフォームHAPS向け 次世代無人航空機のサブスケールモデルの飛行試験に成功」)。また、ソフトバンクは、HAPSと地上のスマホ間でLTE通信も実証済みの点が強みだろう。
このようにNTT陣営とソフトバンク陣営では、コンセプトや求められる要素技術が異なっている。

●HAPSとは?衛星通信との違い

HAPSとは「High Altitude Platform Stationの略で、成層圏(地上から約20〜50km前後の空)から通信ネットワークを提供するプラットフォームのこと。「空飛ぶ基地局」とも呼ばれている。


「HAPS」通信の概略図 (出典:ソフトバンク)
空から専用の電話機などの端末で通話や通信を行うサービスとしては「スターリンク(Starlink)」(スペースXが運用している衛星インターネットアクセスサービス)など、人工衛星を使った衛星通信が知られている。高度によって低軌道(高度1000km内)、中軌道、高軌道がある。選択肢として将来は「HAPS」通信が加わるというイメージになる。HAPSではモバイルダイレクト通信ができるので、衛星通信のような専用の送受信機は必要ない。すなわち、スマホなどの通常の端末でそのまま通信が可能になると見られている。衛星通信と比べると地上との距離が近いので低遅延(高レスポンス:反応が速い)という利点もある。



Starlink(LEO)などの衛星通信と、HAPSの違い。(出典:NTT)
空に基地局があれば、海上や山間部など、地上の基地局からでは電波が届きにくい場所でも通信ができるし、災害の影響も受けにくいことから、広範囲での高速インターネット接続をカバーできると期待されている。HAPS一機のカバー範囲の直径はNTT陣営が100〜200km。ソフトバンクは高度20kmを飛行するHAPSで約200kmを想定していて、日本全土をカバーするのに30〜40機程度と見込んでいる。

●ソフトバンクが重視するHAPSの要素技術

なお、空飛ぶと言ってもグライダーのように飛行し、電源は太陽光で発電する。成層圏には雲がないため、昼間はいつでも太陽光発電が可能で、溜めた電気で夜間の飛行も継続できる。



ソフトバンクはHAPSの確信となる要素技術として、機体技術、運航技術、通信技術、制度整備をあげている。(出典:ソフトバンク)
ソフトバンクによれば、HAPSの研究課題として「重い基地局を搭載するためある程度の大型の機体」が必要で、その上で「機体の軽量化」、「数ヶ月の連続した安定飛行」実現のための「成層圏での安定した強度と強靱性」などをあげ、「耐空証明を取得」するため開発に注力しているという。もちろん、その上で「通信技術」も重要となってくる。

ソフトバンク陣営は、前述のように2020年2月の実証で、総フライト時間20時間16分、成層圏の滞空時間5時間38分、最大高度19kmで、約15時間の地上とのLTE通信に成功している。HAPSの基地局と地上のスマホとで、LTE通信を使ったビデオ通話を成功させた実績を得たことで、実用の可能性の確証を得ることができた。



地上とのLTEビデオ通話に成功。出典:ソフトバンク

●ソフトバンクはHAPS用モーターやアンテナ等も開発中、5G通信にも成功

ソフトバンクはHAPS専用のプロペラモーターやシリンダーアンテナ等を開発している。成層圏は空気が薄いため放熱に課題が生じるため、プロペラ用のモーターは軽量・コンパクトに加えて放熱効果も考慮した専用設計が求められているという。



出典:ソフトバンク 関連記事「ソフトバンク、成層圏を飛ぶ通信プラットフォーム「HAPS」の通信容量を最大化する「エリア最適化技術」の実証実験に成功」
また、通信用には全方向に対応した大容量のシリンダーアンテナを開発している。更には5G通信が可能な基地局を搭載し、2023年9月には世界で初めてHAPSでの5G通信試験をルワンダ政府と共同で実施した。



出典:ソフトバンク 関連記事「【世界初】空飛ぶ5G基地局 ソフトバンクが成層圏からの5G通信試験に成功 ルワンダ政府と協力」
■ソフトバンク HAPSコンセプトビデオ|HAPS:



●まとめ

サービス化の目標としては、NTTが2026年、ソフトバンクが2027年度以降を予定し、両社ともにあと数年でHAPSによる通信がスタートする見込みだ。NTTの方が時期としては先んじているが、ソフトバンクの機体は大型で基地局も大型の機材を搭載することができる。LTEや5G通信の実証も実施済みだ。
両陣営が凌ぎを削ることで開発に弾みがついたり、新しい技術が投入される可能性がある。今後の展開が楽しみだ。