〈キョン大移動〉千葉で大繁殖して茨城へ。県は流入防止のため「目撃情報に褒賞金2000円」とするも誤情報だらけで…そもそもなぜキョンは利根川を渡るのか?

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バンビのような見た目のかわいらしさとは裏腹に、夜は「ギャー」という不気味な声をあげ、農作物や家庭菜園などを荒らす特定外来生物のキョン。千葉県南部で大繁殖し、2020年にはその分布は17市村にも上ったが、今や房総半島を北上し、茨城県内でも頻繁に目撃されている。茨城県の環境政策課はキョンのこれ以上の侵入や繁殖を防ぐため、情報提供者に褒賞金制度を開始した。

〈画像〉キョンにかじられたと思われるキュウリと、茨城県内で撮影されたキョン

報奨金制度の狙いは?

本来は中国や台湾などで生息しているキョンが千葉県で大繁殖した理由は、約20年前に千葉県勝浦市で閉園した動・植物園から逃げ出したキョンが野生化し、千葉県南部を中心に大繁殖したからだとされている。

そのキョンが茨城県で初めて確認されたのは2017年のことだった。茨城県の県民生活環境部環境政策課の飯村勝輝課長補佐は言う。

「初めての目撃情報は千葉県と茨城県の県境を流れる利根川にほど近い神栖市内の橋の上で轢死した個体(キョン)でした。
その後、2022年12月に石岡市八郷地区で生存個体が確認され、2023年9月には茨城県筑西市の河川敷で、さらに2023年12月には下妻市で死亡した個体が発見されました。これら4体はすべてオスです。
キョンは基本的には単独で行動。縄張り意識が強いため、おそらく茨城県内では縄張り争いに負けたオスの個体が紛れ込んだとみられ、まだ繁殖には至ってないのではないかと推測しています」

今回、キョン目撃情報提供者報賞金制度を設けた理由を飯村氏はこう述べた。

「我が県は農業県であり、現時点でイノシシなどの被害が多いなか、さらにキョンもとなると一大事で、決して対岸の火事だとは思っていません。
そのため、まずは県民のみなさまにキョンという動物の認知を高め、県民一人ひとりがその固体を見分ける意識を高めてほしいとの思いから、県で独自に目撃情報の褒賞金を設定しました」

対象となる情報は、2024年4月1日以降に県内で撮影された写真または動画で、茨城県内の場所を特定できる周辺の背景が入ったアングルでキョンを撮影することが条件だ。

それらを申請書とともに茨城県環境政策課に送り、条件などが満たされていれば1情報あたり2000円が支払われるというもの。

また、県内自治体から許可を得た狩猟免許保持者や団体が、県内でキョンを捕獲した場合は1頭あたり3万円の褒賞金が支払われる。これらの制度は4月30日から始まり、すでに写真などの情報提供が集まってきているのだが、届いたものはすべて誤情報だったという。

「みなさん、まだキョンの個体の認知が低いようで、送られてきた画像は野うさぎやアライグマなど10通ほど。なので褒賞金をお送りした結果にはまだ至っていません。

情報提供者のみなさまへのお願いとしては、こちらはできればキョンの動向を観察したいため、可能な限り写真ではなく動画だとありがたいです」

増加するキョンの目撃情報 

この褒賞金制度は千葉県からのこれ以上の侵入や、茨城県内での繁殖に抗うための水際作戦だが、目撃情報のあったエリアに住む住民たちはキョンをどう見ているのか。

2020年12月にイノシシ捕獲用に設置したトレイルカメラに映ったキョンの撮影に成功した茨城県猟友会の八郷支部会長で石岡市鳥獣被害対策実施隊長の鈴木哲夫さん(81)に話を聞くと「キョンの目撃情報は明らかに増えてる。俺は、もう繁殖してるんじゃないかと思うけど」と話す。

「キョンはイノシシと違って人家近くでの目撃情報が比較的多いね。石岡市周辺でも朝日トンネル周辺で見たとか、いばらきフラワーパークに向かう道で見たとか、それも朝も夜も関係なくよく聞きます。

まさに今朝(6月13日)、鳥獣被害対策の活動に同行するテレビ局のカメラマンが、石岡市八郷地区の民家も並ぶ銘菓屋のすぐ横にいるのを見たって言ってたよ。そのカメラマンはキョンを専門に撮ってる人だから、見間違うわけないって興奮気味に言ってたよ」

また、鈴木氏の長年の知人で同じく茨城県石岡市で栗農家を営む斉藤豊さん(80)は2週間ほど前に2匹のキョンを見たようだ。

「うちの栗の木の柵を、犬と同じくらいの大きさの、犬でもないやつがピョンっと飛び越えたのを見たんですよ。尻しか見えなかったんだけど、あれは親子だったのかなあ、2匹連れ立ってました。鈴木会長に聞いたら『それはキョンだろうな』と。

そうこうするうちに、つい3日くらい前、家庭菜園で作った大きくなりすぎたキュウリを木の切り株の上に置いてたら、その翌日の朝に食われてたんですよ。

これも、どうやらカラスがつついたわけじゃないようで、アライグマもハクビシンもキュウリなんて食べないから、もしかしたらキョンじゃないかなーって話をしてたんです」

記者が以前、千葉県内でキョンの取材に当たった際は、住宅街を平然と歩いており、人間を恐れる素振りも見せなかった。

住民たちからは「夜になるとギャーギャーと不気味な鳴き声で鳴くから憂鬱になる」との意見もあがっていたが、キョンは一度定着すると完全な駆除はほぼ不可能だ。茨城県内でのキョンの動向が気にかかるところだ。

取材・文/河合桃子
集英社オンライン編集部ニュース班